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概要

 エクシア合同会社(以下「エクシア」という。)が騒がれている理由については、ネットで検索すれば、すぐに出てくることのなので、本記事では詳細なことは書きません。

 本記事では、エクシアの事例から、合同会社に出資する場合の注意点について書いていきます。

合同会社における「社員」とは

 エクシアでは、エクシアの社員権を販売するということで投資家に出資をさせていました。つまり、投資家がエクシアに出資し、社員になるということです。

 なお、ここでいう社員とは合同会社における社員のことであり、世間一般でいう社員(従業員や使用人)のことではありません。

 合同会社における「社員」とは、出資者であり、原則として業務の執行をする人のことをいいます。つまり、出資者であり経営者ということになります。そのため、出資をしない社員はいません。

 ただし、社員の全員が合同会社の業務を執行することが原則となりますが、業務を執行する社員を定款で定めた場合は、その他の人には業務執行をする権利を持たせないことも可能です。

 この合同会社の業務を執行する社員として定められた人を業務執行社員といいます。業務執行社員は、株式会社における取締役兼株主に相当するといえます。

 また、業務執行社員の中から合同会社を代表する社員(代表社員)を定めることができることになっています。代表社員は、株式会社における代表取締役兼株主に相当するといえます。

 エクシアの場合も、多数の社員(およそ5000人といわれている)がいるということになりますが、令和4年9月段階では、代表社員及び業務執行社員の菊地翔氏を含めても業務執行社員は全員で2名という状況でした(同年10月に新たに3名追加)。

合同会社における「資本金」とは

 下記の転職サイトによれば、エクシアの資本金について以下のように記載されています。
 【資本金】28億5,100万円(2018年12月時点、資本剰余金を含む)

〇転職サイト ビズリーチ > エクシア合同会社
https://www.bizreach.jp/company/view/11650/

 しかしながら、登記上の資本金の額は100万円しかありません(令和4年10月段階)。この理由は、以下です。

 株式会社の場合には、払込みまたは給付にかかわる額の2分の1以上を資本金として計上しなければならない規定がありますが、合同会社の場合にはそのような規定はありません。

 そのため、例えば500万円が出資された場合は、資本金の額を500万円としてもよいし、200万円や0円としてもよいということです。資本金の額としなかった金額は資本剰余金となります。

 つまり、「28億5,100万円(2018年12月時点、資本剰余金を含む)」というのは、資本金100万円であり、資本剰余金28億5,000万円ということになります。

 エクシアの社員権を購入した投資家の出資金は、資本金ではなく、資本剰余金に振り分けられているということが分かります。

 資本金の額は登記事項です。そのため、頻繁に社員が加入している状態では、入ってくるお金を資本金としてしまうと、登記を頻繁にしないといけないということになり、現実的ではありません。

 もっとも、合同会社の場合、本来は、創業段階のベンチャー企業など少人数による事業を行うための会社に適した会社類型として創設されたという経緯があり、このように、頻繁に社員が加入するということは通常、想定されていません。

金融庁による規制

 事業実態が不透明な合同会社が多数の従業員(使用人)を用いて、電話やインターネット、投資セミナー等様々な手段により、高利回りを謳って投資家に対して出資勧誘(社員権販売)を行なっていました。

 投資家が勧誘に応じた結果、勧誘時に謳われていた利回りで運用されず、投資した資金自体も回収されない被害が広がる傾向にありました。

 なお、この怪しげな合同会社に勤めている従業員(使用人)が、投資家に対して出資勧誘(社員権販売)を行なうことについては、金商業登録不要ということがあり、かなりむちゃくちゃな状態で行われていたといえます。

 そのため、投資者保護を徹底する観点から、合同会社の業務執行社員以外の者(従業員や使用人)による当該合同会社の社員権の取得勧誘について、金融商品取引業の登録が必要な範囲を拡大するなどの見直しをするように証券取引等監視委員会が金融庁に対して求めました。

 その結果、内閣府令が改正され、令和4年10月3日(月曜)から、合同会社の社員権については、その取得勧誘に業務執行社員以外の従業員が関与するときは、当該従業員が行う取得勧誘が業として行うものと認められる場合について、金融商品取引業の登録が必要となりました。

 なお、令和4年9月12日に同年10月3日から法改正がされることがわかったため、法規制が及ばない業務執行社員を増加する動きが、金融庁に苦情が寄せられていた合同会社数社にみられました。

 ちなみに、エクシアは令和4年10月1日加入(10月3日登記)で、新たに3名業務執行社員が増えています。

 法規制を潜脱する目的で、単なる従業員等を形式的に業務執行社員とする怪しげな合同会社がドンドン増えてくることが予想されるので要注意です。

合同会社に出資しようとしている人へ

 ここでは、合同会社に出資しようとしている人に対して、出資前に、最低限、しないといけないことを記載します。怪しげな合同会社がなくなることは絶対にありません。

 まず、自分が経営にタッチしない単なる社員という立場なら、出資することはお勧めできません。代表社員や業務執行社員という立場でないと、その合同会社の本当のところはわかりません。

 ですから、単なる社員ですと、お金を捨てることになる可能性が高いです。経営に関与できないうえに、元本保証もありません。

 それでもどうしても出資したい場合は、捨ててもいいという範囲のお金にしましょう。自分の持っている全財産を突っ込むというようなことはすべきではないです。それは、代表社員のような立場の者がすることです。

 また、消費者金融等から借りて、それを合同会社に出資するということは絶対にしてはいけません。

謄本の確認

 出資する前には、登記所(法務局)で、その合同会社の謄本(履歴事項全部証明書)を取得しましょう。手数料を納付すれば誰でも取得できることになっています。枚数が多くなければ、登記事項証明書の手数料は1通につき600円となっています。

 合同会社の謄本をとると、そこには以下のようなことが記載されています。
「会社法人等番号」「商号(会社名)」「本店(の所在場所)」「会社成立の年月日」「会社の事業(目的)」「資本金の額」「業務執行社員の氏名又は名称」「代表社員の氏名又は名称及び住所」

 最低限の情報を知ることができます。勧誘をしている合同会社のパンフレットに書かれている記載と内容が相違ないか確認をしてください。

 なお、合同会社設立前に出資を勧められている場合は、謄本を取得できません。

定款の確認

 合同会社を出資する場合は、その合同会社の定款を確認する必要があります。定款とは、国の法律でいう憲法のようなものであり、合同会社における運営の基盤となることが定められています。

 なお、合同会社では業務執行をスムーズに行うため、「定款自治」がとられています。定款自治とは、定款による自治運営が可能なことです。

 「定款で別段の定めをすることを妨げない」、「定款に別段の定めがある場合を除き」といった表現が、会社法ではいくつも出てきます。

 定款に別段の定めがない場合は、会社法の原則規定どおりになり、定款に別段の定めがある場合は、定款のどおりになるということです。

 つまり、合同会社の場合、会社法の原則規定どおりではなく、定款で別段の定めをして運営している可能性があるということになります。

 実際、怪しげな合同会社は、一部の出資者である代表社員や業務執行社員はトクができるが、その他大勢の多数の社員はソンするように定款が作成されています。

 ですから、出資する前には、必ず、定款の確認をしてください。なお、定款は謄本のように、登記所(法務局)で取得するようなことはできませんが、会社に必ずあるものなので、会社に言って見してもらいましょう。できれば、コピーを貰って持ち帰り、合同会社に詳しい専門家に相談するのが良いでしょう。

 出資の勧誘をしているのに、定款を見せない会社は怪しいので、即切りしましょう。出資すべきではないと思います。

 なお、定款の確認ポイントはいくつかあるのですが、次の事項は必ず確認してください。

〇損益の分配
 会社は運営している以上、儲かったり、損したりします。その会社の損益の分配が、一部の出資者が得になるように規定されていないか

〇配当請求
 仮に、会社が儲けて自分に利益が配分されたとしても、実際に配当されないと、絵に描いた餅となります。配当はどのように貰えるのか、どのように請求するのか

〇持分譲渡と退社
 出資したが、やっぱりやめたいと思い、出資金を取り戻したい場合があるでしょう。その場合、持分譲渡(自分の出資持分を他者に譲渡)と退社(退社して、出資持分の払い戻しを受ける)という方法がありますが、この方法が厳しく制限されていないのか(例えば、払戻し制限額が設けられていないのか)
 エクシアの定款では「代表社員は、その裁量により当社全体の払戻金の総額を設け、また、払戻金額の各社員毎の割当を行うことができる。」とありました。

〇定款変更
 仮に定款を見せてもらっても、現時点での定款でしかありません。将来、定款変更をされる可能性があるので、定款変更をするための条件はどのようになっているのか

エクシア合同会社の定款の「社員の持分の払戻手続等」に関する定め

 エクシア合同会社の定款には、社員の持分の払戻手続等に関し、以下の定めがありました(東京地裁令和5年11月13日判決・令和4年(ワ)第17669号)。

(ア)15条(任意退社)
 各社員は、エクシア合同会社への入社から1か月を経過した日以降、いつでも、エクシア合同会社に対して申し出ることにより、次の払戻方法の定めに従い、エクシア合同会社を退社した上で払戻金額を金銭にて受領することができる。かかる場合、当該社員は申出日の属する月の翌々月の末日をもって退社するものとする。(中略)また、出資金の一部の払戻についても、本条の規定に準じて行うものとし、退社申出日を払戻申出日、持分金額を持分金額の範囲内で社員の希望する金額と読み替える。ただし、代表社員は、その裁量により、当社全体の払戻金額の総額の制限を設け、また、払戻金額の各社員毎の割当を行うことができる。各社員からの制限額を超える払戻の請求は、受け付けられないものとする。
 持分金額の算定基準時:退社申出日の属する月の末日
 払戻日 退社申出日の属する月の翌々月末日
 払戻金額 持分金額
 申出日 書面又は電磁的記録をもって随時

(イ)19条(持分金額)
 各社員の持分金額の計算方法は、任意の日において、当該社員の総出資価額に対して当該日までに定款の規定に従い当該社員に分配した損益を加減し、当該社員に配当された金銭の価額を減じた金額とする。

(ウ)20条(期中払戻)
 エクシア合同会社は、業務執行社員を除く各社員が希望する場合、持分金額に対して、エクシア合同会社と当該社員の個別に合意する一定の割合に相当する金額の出資金を、毎月末日を払戻日とし、法令の定める払戻制限額の範囲内で、払戻日の属する月の翌月の末日までに業務執行社員を除く当該社員に対して払い戻すものとする。(中略)ただし、代表社員は、その裁量により、当社全体の払戻金額の総額の制限を設け、また、払戻金額の各社員毎の割当を行うことができる。

 15条(任意退社)と20条(期中払戻)の最後に、「ただし、代表社員は、その裁量により、当社全体の払戻金額の総額の制限を設け、また、払戻金額の各社員毎の割当を行うことができる。」とあります。

 このような払戻制限規定について、東京地裁令和5年11月13日判決(令和4年(ワ)第17669号)は以下のように判示しました。

「本件払戻制限規定(本件定款20条ただし書を含む。)は、株式会社等と異なり、出資と経営が一体となり、また、社員となった者から出資された出資金を事業用途に用いることが想定されている合同会社の特質に照らせば、任意退社した社員からの持分払戻請求や期中における社員からの持分評価額の払戻請求が集中し、これに全て応じた場合に企業の経営や存続に支障を来しかねなくなることを避けるために設けられた規定であると解されるから、被告(エクシア合同会社)が、上記の趣旨で本件払戻制限規定を定款で設けていることが直ちに不合理であるとは断じ得ない。もっとも、合同会社の社員は、持分譲渡の自由が認められておらず(会社法585条1項、2項)、やむを得ない事由があれば、定款の定めに関わらず退社し、持分の払戻を受けることができるものとされていること(会社法606条3項、611条)、被告の社員は、入社から1か月を経過した日以降であれば、いつでも任意退社して持分の払戻を申し出ることができるものとされ(本件定款15条本文)、また、被告との合意により、退社によらずに期中の持分評価額の払戻の申出も認められていること(本件定款20条本文)に照らせば、被告の代表社員が本件払戻制限規定を適用して社員からの持分ないし持分評価額の払戻を制限できるのは、被告の財務状況、事業の運用状況、社員の入退社や社員からの持分等の払戻請求及び払戻の状況等の諸事情に照らし、社員からの持分等の払戻に全て応じた場合に被告が事業を継続的に遂行することが困難となる蓋然性が認められることを要するものと解され、そのような事情のないまま、代表社員が本件払戻制限規定を適用して社員に対する持分等の払戻を制限することは、その裁量を逸脱するものであり、効力を有しないと解すべきである。」

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