金地金の売買による所得区分
金地金を売却して生じた所得は、原則、譲渡所得として総合課税の対象です。多くの方は、この譲渡所得に該当します。
ただし、継続的に営利目的で売買を行っている場合の所得は、事業所得または雑所得として総合課税の対象になります(所法33②)。
なお、事業所得に該当するような場合とは、事業的規模で金地金の売買をし、その儲けで生活をしているような方ですので、ほとんど該当しないと思います。
問題は、譲渡所得と雑所得との間の線引きですが、具体的な線引きはありません。
譲渡所得の計算方法
金地金の売却に係る譲渡所得の計算は、特別控除(最高50万円)の適用があるほか、所有期間が5年超の場合には課税対象が1/2となります。
なお、総合課税の譲渡所得のため、所有期間が5年超かどうかは譲渡日で判定します(所法33③一)。土地に係る分離課税の譲渡所得(措法31①、32①)のように、譲渡した年の1月1日で判定しません。
イ 所有期間5年以内(短期譲渡所得)の場合
課税される譲渡所得の金額
={売却収入-(取得価額+譲渡費用)}-特別控除(最高50万円)
ロ 所有期間5年超(長期譲渡所得)の場合
課税される譲渡所得の金額
=[{売却収入-(取得価額+譲渡費用)}-特別控除(最高50万円)]×1/2
(注) 譲渡所得の特別控除の額は、その年の金地金の譲渡益とそれ以外の総合課税の譲渡益の合計額に対して50万円です。これらの譲渡益の合計額が50万円以下のときはその金額までしか控除できません。
また、イとロの両方の譲渡益がある場合には、特別控除額は両方合せて50万円が限度で、イの譲渡益から先に控除します。
総合課税の譲渡所得は、所得金額の計算上、特別控除額50万円を控除することとされており、年間50万円を超えない限り、確定申告をする必要はありません。
なお、確定申告書を提出する場合は、「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表)【総合譲渡用】」を添付します。
事業所得または雑所得の計算方法
所得の金額=総収入金額-必要経費
金地金の売買による損失(損益通算)
金地金の売買による損失については、その所得区分に応じ、次のように取り扱われます(所法69)。
イ 譲渡所得に該当する場合
金地金は生活に通常必要でない資産に該当するものと考えられますので、その売買による損失を他の所得(給与所得など)と損益通算することはできません(所法69②、所令178①二)
ただし、同じ所得である譲渡所得に属する他の資産の譲渡益(他に譲渡所得の基因となる資産の譲渡による利益。例えば、キャンピングカー、ゴルフ会員権や絵画などの売却による所得)から控除することができます。
ロ 事業所得に該当する場合
他の所得と損益通算をすることができます。
ハ 雑所得に該当する場合
他の所得と損益通算をすることはできませんが、雑所得内においては他の黒字の雑所得と通算することができます。
金地金の取得価額が不明の場合
取得価額が不明の場合、売却収入の5%を取得価額(所基通38-16)として申告する方法があります。
ただし、田中貴金属工業様のHPから以下のことが分かります。
2023年2月24日時点における金の1gあたりの店頭小売価格(税込)8,739円、店頭買取価格(税込)8,619円であることがわかります。現時点で取得価額が不明の金を売却しようとすると、8,619円の5%である431円を取得価額とすることになります。
ただし、1974以降、現時点までの金の最低価格は、1999年9月の小売価格(税抜)917円です。つまり、1974以降、金が431円で取引されたことがないのです。
よって、取得価額が不明の場合、売却収入の5%を取得価額とせずに、最低価格であった1999年9月の小売価格を用いて申告する人がいます。
また、地金番号で、いつ製造・出荷したかが分かりますので、それ以降で一番最低価格であった小売価格を用いて申告する人もいます。
ただし、同じように申告しようと思っている人がいて、その結果、税務署に否認されても、当事務所では一切の責任を負いません。
金定額購入システム(純金積立、金積立口座)で取得した金地金を譲渡した場合
(1) 所有期間の判定について
金地金の所得区分が譲渡所得に該当する場合、所有期間が5年以内なのか5年超なのかで税額計算が変わってきますが、以下のように考えます。
譲渡した金地金の所得区分が譲渡所得に該当する場合において、その所有期間は、所得税基本通達33-6の4の取扱いに準じ、預り口座において先に取得したものから順次譲渡したもの(先入先出)により判定します。
仮に、純金積立した金額が200万円あり、5年超の金額が100万円、5年以内の金額が100万円の場合で、100万円分(売価ではなく取得費)売ったとしても、先入先出により、全額、所有期間5年超(長期譲渡所得)で譲渡所得を計算します。
なお、所有期間の判定については先入先出で考えますが、取得費については、下記のように総平均法に準ずる方法により算出します。
(2) 取得費等について
譲渡した金地金の所得区分が雑所得又は譲渡所得に該当する場合において、雑所得又は譲渡所得の金額の計算に際して総収入金額から控除される必要経費又は取得費については、所得税法48条3項及び所得税法施行令118条の規定に準じ、有価証券の評価方法である総平均法に準ずる方法により算出します。
(3)所得区分
金積立口座による金を売却した際の利益については、通常の金地金の売買による所得区分と同じです。
購入自体が毎月購入(積立)となっていても、売却が数年に1回程度であれば、一般的には譲渡所得として取り扱われています。
(4)参考
国税庁HP「東京国税局文書回答事例-金定額購入システムで取得した金地金を譲渡した場合の課税上の取扱いについて」
https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/shotoku/19/01.htm
サラリーマンが金地金を売って利益を得た場合、確定申告が必要か?
給与所得者(給与年収2,000万円以下の年末調整対象者に限る)で給与所得以外の所得金額の合計額が20万円以下の場合に該当するときは、所得税においては申告不要とすることができますが、住民税においては申告しなければなりません。
ここでいう、20万円とは特別控除(最高50万円)を差し引いた金額で考えます。
支払調書
一度の取引で200万円を超える金地金を売却した場合、買取業者は「金地金等の譲渡の対価の支払調書」を税務署に提出することになります(所法225①十四、所法224の6、所令350の7)。
その支払調書には、住所(居所)、氏名、個人番号、数量、金額等が記載されます。よって、200万円以内に抑えて売却する人は結構いるそうです(どうしてでしょうかね?)。
なお、200万円とは売却益ではなく、売却価額(手数料等を差し引く前の金額)のことです。
金融類似商品
銀行や証券会社等の金融機関が扱う「金投資口座」や「金貯蓄口座」などからの利益は金地金の現物の譲渡とは異なり、実態は金融取引に近いことから、金融類似商品の収益として一律20.315%(所得税及び復興所得税15.315%、地方税5%)の税率による源泉分離課税となります。
この分離課税は、源泉徴収だけで課税関係が終了しますので、他の所得と合算して確定申告をすることはできません。
なお、「金投資口座」や「金貯蓄口座」は、金融機関から売り戻し条件付で金を購入するもので、上述した「金積立口座」とは異なる商品です。