概要
合同会社と株式会社は、両方とも法人格があるので、契約や税制面などでは、特に違いはありません。また、出資者全員の責任を有限責任とする点でも共通です。合同会社と株式会社の大きな違いは、所有と経営が分離しているか一致しているか、ということです。プラス、設立費用と周知度です。
そもそも、日本において、株式会社でかつ上場している事は一種のブランドでした。株式会社というだけで信用があり、事業拡大のための出資も集めやすいと言われていました。株式会社は、有限責任制のもとで多くの出資者を募って大量の資金を調達し、専門的な知識を持つ経営者に会社の運営を任せる特徴があります。現在、日本には254万社の会社があり、会社数で見れば、わずか0.15%に過ぎない公開株式会社が日本経済の柱でした。日本経済の中核は、所有と経営を分離し事業を展開してきた、株式会社が担ってきました。
一方、合同会社は、所有と経営が一致しています。なぜなら、合同会社は、原則として、出資者が業務執行を行うからです。その業務執行をスムーズに行うため、合同会社では、定款自治がとられています。定款自治とは、定款による自治運営が可能なことです。例えば、全員一致で定款の変更や、その他の会社のあり方を決定できます。
合同会社と株式会社の具体的な違い
それでは実際に、合同会社と株式会社の具体的な違いをみていきましょう。
監視機関
株式会社では一定の機関(株主総会、取締役会、代表取締役、監査役等)の設置が強制されています。監視機関が強く、組織設計の自由に制約があります。定款の変更、合併、取締役の任命、出資者への配当など重要な意思決定は、原則として株主総会で多数決決議により決めることが強制されているからです。
しかし現代では、ソフト産業に対応した柔軟な組織編制がとれる会社形態が求められるようになりました。合同会社は、法人格を有していますが、監視機関の設置が義務付けられていないので、迅速な意思決定が可能です。合同会社では、株主総会や取締役会などの機関を設けて会社の意思決定をするのではなく、出資者間で直接合意をすることによって、より合理的な意思決定が行われます。
損益分配
株式会社は、株主の意見を大切にするので、株主の意向に添った経営に陥りがちです。株式会社である以上、利益を出し続け株主に配当していく義務があるので、雇用よりも配当が優先され従業員の削減をよぎなくされることもあります。ですから、人材重視の株式会社をつくるには相当の工夫と努力が必要で、大変難しいです。原則として、権限の配分や、利益の分配も、いくら株を持っているかで決まります。
しかし、合同会社は、特定の取り決めを行えば、出資者の様々なアイデアや知識を活かし、出資比率に関わらず、事業への貢献の度合いなどに応じて、利益配分や損失負担を、自由に決定できます。つまり、合同会社は何株持っているか、いくら出資したかではなく、いかにアイデアが面白いか、いかに技術が優れているか、といった基準で新しい事業を行え、貢献度に応じて損益分配もできます。
株主と社員
合同会社ではお金を出す人のことを、株式会社のように「株主」とはいわず、「社員」といいます。
合同会社の社員の同意等の権利は、原則として1社員につき1個となっています。なお、定款の作成には全社員の同意が必要であり、定款の変更にも原則として全社員の同意が必要です。
つまり、社員一人一人が定款の作成・変更といった重要なことについて拒否権を有しているということです。株式会社のように資本を多く出した者が支配する仕組みにはなっていません。
ようするに、「お金」と「人」のどちらに力点を置いているかに違いがあります。
「譲渡制限のある株式会社」と「合同会社」
旧商法から会社法に変わってから、実を言うと、株式会社においても柔軟な意思決定や利益の分配ができるようになりました。しかし、それでも定款自治があり、監視機関の設置義務のない合同会社に比べると、株式会社は硬直的であるといえます。
例えば、会社法が成立し、株式会社であっても譲渡制限会社ならば、定款に定めれば、配当請求権、残余財産分配請求権、議決権の3つの権利について、株主ごとに異なる取り扱いをすることができるようになりました。つまり、定款で、「議決権を株主が持っている株式数に関わらず、頭数により一株主一議決権とする」と定めれば、それが認められるものと考えられます。
しかし、合同会社と譲渡制限のある株式会社が決定的に違うことがあります。それは、譲渡制限のある株式会社でも、最低でも株主総会と1名の取締役という機関は絶対に必要となります。しかし、合同会社では機関をまったく置かないことができます。
設立費用
株式会社設立と、合同会社設立では、約15万円近く設立費用が違っていきます。もちろん、株式会社を設立する方が高くつきます。
現物出資
株式会社の場合、現物出資財産について検査役や設立時取締役等の調査 、税理士等の証明、不動産鑑定士の鑑定評価が必要とされていますが、合同会社では要求されていません。
決算公告
株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならないことになっています(会社法440①)。
なお、決算公告を官報に掲載する場合、最低でも7万円はかかるため、ホームページで掲載する株式会社が最近増えてきました。もっとも、決算公告をホームページで掲載することによって、取引先だけでなく第三者にも簡単に会社の財務状況を閲覧されてしまうということになります。
一方、合同会社は決算公告をする義務がありません。
周知度
周知度では、株式会社の方が高いです。株式会社という言葉を聞いたことがない人は、ほとんどいないでしょう。ただし、会社設立合計に占める合同会社の割合は平成25年は約15%でしたが、令和3年には約28%と倍近くになっています。現在では、世間に、合同会社が認知されているといえます。
株式会社と合同会社のどちらで設立すべきか?
お金にある程度余裕があるならば、株式会社を選ぶべきだと思います。合同会社とでは、周知度が違います。また、「譲渡制限のある株式会社」であるならば、事実上、合同会社と比べてもデメリットはありません。
なお、飲食業やデザイナー業、コンサル業、不動産管理業、サービス業のように、会社の組織形態がどうであろうと、顧客に気にされないような職業の場合は、合同会社で問題ないと思います。