上場株式等の売却損と配当等との損益通算
上場株式等の売却損は、上場株式等の配当等および特定公社債等の利子等と損益通算することが可能です(但し、相対取引等は除く。)。なお、給与所得などの総合課税の所得との損益通算をすることはできません(措法37の10①、37の11①)。
損益通算するためには、上場株式等の配当等について、原則として、申告分離課税による確定申告を行うことが必要です(措法8の4①、37の12の2①)。つまり、上場株式等の配当等を総合課税により確定申告した場合は損益通算できません。
国内の証券会社を通さずに受けとった外国上場株式の配当や株式譲渡損の場合
金融商品取引業者等(国内で登録した金融業者等)を通さずに受けとった外国上場株式の配当でも申告分離課税を選択した場合は、金融商品取引業者等を通じて譲渡した上場株式の譲渡損と損益通算できます(措法37の12の2)。
一方、金融商品取引業者等(国内で登録した金融業者等)を通さずに譲渡した外国上場株式の譲渡損は、上場株式等の譲渡になることから、上場株式等の譲渡所得の計算内では差し引きして計算することはできます。ただし、配当との損益通算や繰越控除の特例の適用を受けることはできません。
上場株式等の売却損の繰越控除
上場株式等の金融商品取引業者等を通じた売却取引により生じた売却損は、確定申告義務はありませんが、確定申告することにより翌年以降3年間繰越すことができます。
上場株式等の売却損を上場株式等の配当等・特定公社債等の利子等と損益通算した場合は、損益通算後に残った売却損が繰越対象です。繰越した売却損は、翌年以降3年間に生じる各年分の利益(上場株式等・特定公社債等の売却益等、配当等、利子等)と通算できます。
売却損を繰越すためには、損失が生じた年について一定の書類を添付した確定申告書を提出し、かつ、翌年以降も連続して確定申告書を提出する必要があります。売却損を繰越した翌年において通算を行わない場合でも、さらに次の年に売却損を繰越すためには、その年も確定申告書の提出が必要です。
上場株式等に係る譲渡損失の損益通算と繰越控除の両方がある場合の本年の上場株式等の配当等を通算する順序
(イ)本年分から損益通算をし、過去3年分の上場株式等に係る繰越損失については最も古い年に生じた上場株式等の売却損から通算する
繰越してきた過去3年の各年分に生じた上場株式等の譲渡損失があり、当年も上場株式等に係る譲渡損失が生じている場合、本年の上場株式等の配当等・特定公社債等の利子等からこれらの損失を差し引く順序は、次のとおりです(措法37の12の2⑤、措令25の11の2⑧)。
①本年分(損益通算)、②本年の3年前分、③本年の2年前分、④本年の前年分
(ロ) 繰越してきた上場株式等の譲渡損失は、本年の上場株式等・特定公社債等の譲渡益から通算する
前年以前から繰越してきた上場株式等の譲渡損失は、本年の上場株式等・特定公社債等の譲渡益があれば、まず、その譲渡益と通算しなければなりません。繰越してきた譲渡損失が本年の上場株式等・特定公社債等の譲渡益と通算してもなお残った場合、本年の上場株式等の配当等・特定公社債等の利子等との通算が可能となります(措通37の12の2-4)。
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
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① 上場株式等の譲渡損益 | △200万円 | △30万円 | △50万円 | 100万円 |
② 上場株式等の配当等 | 50万円 | 50万円 | 50万円 | 50万円 |
③ ①+② | △150万円 | 20万円 | 0円 | 150万円 |
④ 前年からの繰越損失 | 0円 | △150万円 | △130万円 | △130万円 |
⑤ ③+④ | △150万円 | △130万円 | △130万円 | 20万円 |
⑥ 翌年への繰越損失分 | △150万円 | △130万円 | △130万円 | 0円 |
期限後申告の上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除
所得税の取り扱い
上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除を適用するためには、譲渡損失が生じた年分について「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」、「申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算および繰越控除用)を添付した確定申告書を提出するとともに、その後の年分についても確定申告書付表を添付した確定申告書を連続して提出する必要があります。
なお、確定申告書には期限後申告書が含まれます(所法2①三十七、措法2①十、37の12の2⑦)。例えば、令和3年に上場株式等に係る譲渡損失の金額があったが、確定申告をしていなかった場合においても、令和3年分について特例を適用した期限後申告書を提出すれば、令和4年分の当初申告において繰越控除の適用を受けることができます。
一般口座及び特定口座(源泉あり、なし)のいずれであっても、取り扱いは同じです。
ただし、令和4年分の申告をした後に、令和3年分の期限後申告書を提出した場合には、令和4年分について繰越控除を求める更正の請求をすることはできません。
住民税の取り扱い
上場株式等の譲渡所得に損失があった場合は、期限内に申告書を提出する場合(所得税の申告書をその期限内に税務署に提出した場合を含みます)でないと所得税では認められている翌年以降への繰越控除が住民税では認められません。また、同様に他口座の上場株式等の配当等所得や譲渡所得との損益通算が認められなくなることで住民税額が高くなります。
ただし、実務上は、住民税の納税通知書が送達される日までに確定申告書を提出(地法附則35の2の6)すれば住民税の計算においても救われますので、税務署に提出申告期限(3月15日)までに確定申告書を提出できなかった場合でも4月末日をめどに税務署に提出すれば救われる可能性があります。
令和4年度税制改正により、上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の適用要件が所得税と一致する規定の整備が行われます。おそらく、住民税の納税通知書が送達した後の申告でも適用は可能になると思われます。令和6年度分(2024年度分)以後の個人住民税から適用されます。
明細書等の添付なしで申告している場合
譲渡損失の金額が生じた年分
確定申告書に「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」や「申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算および繰越控除用)」の添付がない場合であっても、更正の請求において当該譲渡損失の金額が明らかにされた場合には、確定申告書に当該株式等に係る譲渡損失の金額に関する明細書等の添付があった場合と同様に取り扱うこととされています(措通37の12の2-5)。
例えば、令和3年に上場株式等を譲渡したことにより譲渡損失が発生したが、これを当初の確定申告書に記載せずに申告していたとしても、令和3年分の申告について更正の請求をした上で、令和4年分の申告において、令和3年分の譲渡損失の金額を上場株式等に係る譲渡等の計算上、控除することができます。
ただし、令和3年分の譲渡損失を令和4年分の上場株式等に係る譲渡所得の金額から控除するためには、令和3年分の申告についての更正の請求は、令和4年分を申告する前(同日を含む)までに行う必要があると考えられています(平成20年3月14日裁決より類推)。
また、特定口座(源泉あり)内の所得については、当初申告において申告していない場合は、申告不要を選択したこととなるため、更正の請求は認められません。
譲渡損失の金額が生じた年分以後
確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)の添付なしで申告し、前年からの繰り越した損失を計上していない場合は、通法23条1項にいう「課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」に該当しないから、更正の請求には理由がないこととなります。
(1)平和30年分の上場株式の譲渡損失について翌年以降に繰り越すための申告を適正に行っていたが、令和元年分については、株式取引がなかったため、医療費控除の申告のみを行っていたとします。
令和2年分については、株式譲渡の年間取引が黒字となったから、平和30年分の譲渡損失を控除するため、令和元年分について、申告し忘れた平和30年分からの繰越損失を計上する旨の「更正の請求」を行おうとしても、更正の請求には理由がないため、結果として、令和2年分において平成30年分の譲渡損失を控除することはできません。
(2)平和30年分の上場株式の譲渡損失200万円について翌年以降に繰り越すための申告を適正に行っていたが、令和元年分については、株式譲渡益100万円(特定口座源泉なし)、不動産所得100万円があったが、不動産所得の申告のみを行っていたとします。
本特例は、特例を受ける旨の記載のある確定申告書(措置法37条の12の2⑪の所定の記載事項を記載した確定申告書付表を含むものに限る。)に当該控除を受ける金額の計算に関する明細書(計算明細書)を添付して提出することによりその適用をうけることができることとされていますが、令和元年分において本特例の適用を受けるための確定申告書を提出していないため、平成30年分で生じた上場株式の譲渡損失200万円のうち100万円を令和元年分の譲渡益100万円から繰越控除することはできません。
また、上場株式等の譲渡損失の金額を翌年以降に繰り越すためには、確定申告書(措置法37条の12の2⑪の所定の記載事項を記載した確定申告書付表を含むものに限る。)を提出しなければいけませんが、本件の場合、令和元年分において確定申告書付表を含む確定申告書が提出されていないから、この事例における「平成30年分で生じた上場株式等の譲渡損失の金額」は、「措置法37条の12の2⑥に規定する上場株式等に係る譲渡損失の金額」で順次控除できるものには該当しません。
よって、平成30年分で生じた上場株式の譲渡損失200万円を令和2年分以降に繰越すこともできません。
なお、確定申告をしていない株式譲渡益100万円については、修正申告をする必要があります。
申告期限後になって上場株式等に係る譲渡損失の金額が過少であることに気が付いた場合
課税標準等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は計算に誤りがあったことにより、申告書に記載した純損失等の金額が過少であるときは、更正の請求をすることができます(通法23①二)。
この純損失等の金額には、上場株式等に係る譲渡損失の金額が含まれるため、当初の確定申告において上場株式等に係る譲渡損失の金額を申告し、申告期限後になって当該損失の金額が過少であることに気が付いたような場合は、更正の請求をすることができます(通法2六ハ(1)、措法37の12の2⑩、措通37の12の2-6)。
ただし、特定口座(源泉あり)内の所得については、当初申告において申告していない場合は、申告不要を選択したこととなるため、更正の請求においてその所得又は損失の金額を譲渡所得等の金額の計算上算入することは認められません。
譲渡損失発生年分申告要件が設けられた趣旨
大阪地裁令和元年10月18日判決(税資269号-104(順号13327))では、譲渡損失発生年分申告要件が設けられた趣旨について、以下のように判示しています。
「措置法37条の12の2第8項(現行、第7項)は、本件特例(編注、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除のこと)の適用要件として、損失発生年分の所得税につき損失発生年分添付書類の添付がある確定申告書を提出すること(損失発生年分申告要件)を定めているところ、損失発生年分申告要件が設けられた趣旨は、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の対象となるのは、上場株式等に係る譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額に限られることから、当該損失の金額を申告上明らかにさせておく必要があるためであると解される。このような趣旨に鑑み、本件通達は、損失発生年分の確定申告書に損失発生年分添付書類の添付がない場合であっても、更正の請求において当該損失の金額が明らかにされた場合には、確定申告書に損失発生年分添付書類が添付された場合と同様に取り扱う旨の運用を定めたものということができる。 そして、損失発生年分の所得税につき、更正の請求に基づく更正により、新たに上場株式等に係る譲渡損失の金額があることとなった場合においても、控除年分において本件特例に基づく繰越控除の計算をし、所得税が課される株式等に係る譲渡所得等の金額を確定させるためには、控除年分の前年以前3年内の各年において生じた上場株式等に係る譲渡損失の金額が確定している必要がある、すなわち、連続した申告によって、控除年分の株式等に係る譲渡所得等の金額を確定する必要があるから、(略)連続申告要件の趣旨が妥当し、本件特例が適用されるためには、少なくとも当該更正の請求の後に、損失発生年分の後の年分の所得税につき、順次、当該年分の確定申告書を提出していること(すなわち連続申告要件を充足すること)を要するというべきである。」