貸株取引では、投資家が保有する現物株式を証券会社に貸し出して、銘柄に応じた貸株金利を受取り、また、権利確定日に貸し出しを続けて配当金の代わりに貸株配当金相当額を受け取ることになります。

 貸株金利、貸株配当金相当額は、いずれも雑所得として課税の対象となります。証券会社は、貸株取引により顧客から借り入れた株式を、貸株市場において更に機関投資家に貸し出し、そこで得た金利が財源となり貸株金利等として個人投資家に支払われるということになります。

 個人投資家によっては、株主優待・配当金・議決権等といった株主としての権利は取得したいと思う者もいるため、「権利確定日前に一旦当該株式の返還を受ける」ということも選択できるような仕組みをとっている証券会社があり、その場合は、返却されている期間は貸株金利を得られず、株主優待・配当金・議決権等の権利が取得できるということになります。

貸株取引により受領した配当金相当額は、配当所得に該当せず、雑所得に該当するとされた事例-平成31年1月28日裁決(大裁(所)平30第47号)(棄却)

(1)事案の概要

 本件は、貸株取引により株式を証券会社(以下「本件証券会社」という。)に貸し出していた審査請求人Xが、本件証券会社から、当該株式の発行会社が配当した剰余金に代えてこれに相当する額の金員を受け取ったものの、当該金員に係る所得を含めずに所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該金員は株主たる地位に基づいて受け取る配当金ではないので、当該金員に係る所得は配当所得ではなく雑所得に該当するなどとして所得税等の更正処分等を行ったことに対し、Xが、当該金員に係る所得は雑所得に該当しないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

○本件貸株取引における事実等は、次のとおりである。
① 本件証券会社は、貸株取引により借り入れた株式について、振替機関〔社債、株式等の振替に関する法律(以下「社債株式振替法」という。)2条2項〕である株式会社証券保管振替機構において開設した振替口座に係る振替口座簿に、その増加の記載又は記録を受けることにより管理をしている。
② 貸株取引の顧客は、貸株取引により本件証券会社に貸し出した株式の配当金について、(イ)原則として、基本契約書の定めに基づく配当金相当額として受け取ることになるが、(ロ)権利確定日前に一旦当該株式の返還を受けることにより、当該株式の発行会社から剰余金の配当として受け取ることもできる。上記(ロ)の方法を選択する場合、顧客は、本件証券会社に対して当該株式を個別に一定期間貸し出さないという指示をする、又は、事前にAサービス(本件証券会社が権利確定日前に一旦当該株式を返還する処理を自動的に行うサービスをいう。以下同じ。)に申し込む必要がある。Xは、本件各年分において、本件貸株取引により本件証券会社に貸し出した株式について上記指示をしておらず、また、事前にAサービスに申し込んでいなかった。
③ 本件証券会社は、貸株取引により顧客から借り入れた株式を、原則として貸株市場において更に機関投資家に貸し出している。上記株式の発行会社は、当該株式が権利確定日に機関投資家に貸し出されている場合、当該機関投資家に対して剰余金の配当を行い、その際、当該機関投資家に係る所得税等及び住民税の源泉徴収を行う。他方、上記発行会社は、上記株式が権利確定日に機関投資家に貸し出されていない場合、本件証券会社に対して剰余金の配当を行い、その際、本件証券会社に係る所得税等の源泉徴収を行う。

(2)裁決要旨(棄却)

① 貸株取引は、株式の消費貸借契約に基づく取引であることから、本件貸株取引により証券会社に貸し出した株式の所有権は、Xから証券会社に移転する。そして、証券会社は、当該株式について、振替機関において開設した振替口座に係る振替口座簿に、その増加の記載又は記録を受けるところ、振替株式については、その発行会社が、振替機関から、権利確定日における振替口座簿上の株主の名称等の通知を受け、これに基づき株主名簿の内容を変更することにより、権利確定日の株主が決定される。そうすると、貸株取引の貸借期間が権利確定日を越える場合には、貸株取引に係る株式の権利確定日時点の株主は、権利確定日における振替口座簿上の株主である証券会社となることから、株主として発行会社から剰余金の配当を受ける権利を行使することができるのは、証券会社である。
② 貸株取引の顧客は、貸株取引により証券会社に貸し出した株式の配当金について、(イ)原則として、基本契約書の定めに基づく配当金相当額として受け取ることになるが、(ロ)権利確定日前に一旦当該株式の返還を受けることにより、当該株式の発行会社から剰余金の配当として受け取ることもできる。上記(ロ)の方法を選択する場合、顧客は、証券会社に対して当該株式を個別に一定期間貸し出さないという指示をする、又は、事前にAサービスに申し込む必要がある。Xは、証券会社に対して貸株取引に係る株式を個別に一定期間貸し出さないという指示をしておらず、また、事前にAサービスに申し込んでもいなかったから、貸借期間中に権利確定日を越えた当該株式に係る剰余金の配当を受ける権利を行使することができるのは、証券会社である。
③ したがって、本件金員は、上記株式の発行会社が配当する剰余金ではなく、これに代えて証券会社から基本契約書の定めに基づき支払われた金銭であると認められるから、配当所得に該当せず、雑所得に該当する。