概算
合同会社において、社員の損益分配の割合について定款の定めがないときは、その割合は、各社員の出資の価額に応じて定めることになっています(会法622①)。つまり、原則としては各社員の出資額の割合に応じて損益分配を行うことになります。
例えば、研究者であるがお金のないAと、お金があるBの2人が出資をして合同会社を設立したとします。この場合の出資額が、Aが100万円、Bが900万円だとすると、損益分配の割合も1:9となるのが原則です。
しかし、特定の取り決めを行い、定款で定めれば、柔軟な損益分配が可能だということになります。出資比率が1:9であっても、損益分配の比率をイーブンの5:5のようにすることも可能だということになります。定款自治の原則が働くということです。
なお、利益または損失の一方についてのみ分配の割合について定款で定めたときは、その割合は、利益と損失の分配に共通であるものと推定されます(会法622②)。つまり、利益分配の割合だけを定款で定めた場合であっても、損失が生じた場合にも同じ割合が用いられるということです。
なお、定款で定めれば、利益分配の割合と損失分配の割合を別にすることもできます。ただし、「一部の社員が損失を分担しない旨の定款の定めは、社員相互間の問題として、許されると解される(省略)。これに対し、一部の社員が利益分配を全く受けない旨の定款の定めは、対外的活動によって得た利益を出資者である社員に分配することを目的とするという、会社の営利法人の本質に反することになり、許されない」(引用 新基本法コンメンタール 会社法3(別冊法学セミナー no.239)奥島孝康・落合誠一・浜田道代(編)のうち、青竹正一(著)の52ページ)と解されます。
定款への記載
社員の損益分配の割合について定款に記載する場合は、「計算」の章の中で記載するのがよいでしょう。
記載例
1
(社員の損益分配の割合) 第○条 損益分配の割合は、社員○○○○が7割、社員○○○○が3割とする。 |
2 損益分配の割合について定款の定めがないときは、その割合は、各社員の出資の価額に応じて定まるのが原則ですので下記記載は必要ありませんが、明確にするためにあえて記載する場合があります。
(社員の損益分配の割合) 第〇条 社員の利益分配の割合は、各社員の出資の価額に応じて定める。 2 社員の損失分配の割合は、各社員の出資の価額に応じて定める。 |
税務上の注意点
出資比率と異なるように損益分配の割合を設定した場合は、その設定について経済的合理性を有していると認められないときは社員間で贈与などがあったとして課税関係が生じる場合があります。
例えば、親子で合同会社を設立するにあたって、親が900万円、子が100万円を出資したとします。この場合、出資比率が9:1なので、本来は損益分配の割合も、親が9、子が1となります。
出資比率 | 利益 | 損失 | |
---|---|---|---|
親 | 9 | 9 | 9 |
子 | 1 | 1 | 1 |
しかし、定款で利益分配の割合を、親が1、子が9と定めたとします(損失分配の割合は出資価額に応じて定める)。これについて、合理的な説明がつくのであればよいのですが、合理性が認められないときは問題となります。
出資比率 | 利益 | 損失 | |
---|---|---|---|
親 | 9 | 1 | 9 |
子 | 1 | 9 | 1 |
例えば、合理性が認められないような設定の場合でも、無条件に課税関係が生じないとするならば、親から子に無税で財産を移すようなことがやり方によっては可能です。それでは、相続税や贈与税といったものが意味をなくします。
そのため、出資比率と異なるように損益分配の割合を設定した場合は、その設定について合理性が求められることとなります。出資価額の割合と異なる損益分配の割合の設定をした場合、経済的合理性を有していると認められないときは贈与税等の課税関係が生じることがあるということになります。
各社員の資本の持分管理をする
事業年度ごとに作成される計算書類により合同会社の利益または損失の額が確定します。利益または損失の額が各社員に分配された場合、「純資産の部」が変動しますので、その時点で、以下のような「社員別資本持分表」 を作成しておきましょう。
なお、分配するに当たって1円未満の端数が出た場合は、総社員による同意により分配する社員を決めると良いでしょう。
合同会社 〇 〇 社員資本持分管理表 令和〇年〇月〇日作成( 〇回目 ) 単位:円
社員名 | 資本金 | 資本剰余金 | 利益剰余金 | 合計 |
---|---|---|---|---|
A | 2,000,000 | 400,001 | 2,400,001 | |
B | 1,000,000 | 200,000 | 1,200,000 | |
合計 | 3,000,000 | 600,000 | 3,600,001 |
(備考) 第〇期(事業年度令和〇/〇/〇~×/×/×)決算により、Aに利益剰余金400,001円、Bに利益剰余金200,000円が分配された。本来の損益分配の割合より社員Aは1円多く分配されたが、これは、総社員による同意による。 |
会社法622条(社員の損益分配の割合)
損益分配の割合について定款の定めがないときは、その割合は、各社員の出資の価額に応じて定める。
2 利益又は損失の一方についてのみ分配の割合についての定めを定款で定めたときは、その割合は、利益及び損失の分配に共通であるものと推定する。