特約の付された複合型株券貸借取引(SLOW)は、一定期間(通常1~3か月程度)の株券貸借取引に、特約権(株券を買い取る権利であり、プレミアムともいう)を金融商品取引業者に付与する特約権取引(店頭デリバティブ取引(金商法2㉒))を付加した取引です。

 証券会社等の金融商品取引業者が一定期間、株券を投資家から借り受け、特約権行使日における当該株券の時価(終値)が特約価格を超える場合には、金融商品取引業者は特約権を行使して当該株券を特約価格にて投資家から買い取ります。

 一方、特約権行使日における当該株券の時価が特約価格を下回る場合には、金融商品取引業者は特約権を放棄して当該株券と同種、同等、同数の株券を投資家へ返還する取引です。

 特約権行使日とは、契約満期時のことであり、条件決定参照日となります。また、特約価格とは、当該株券の金融商品取引業者による当初決められた買取り価格のことであり、行使価格ともいいます。 

 つまり、下記のようになるということです。

(1)特約権行使日における株券の時価(終値)>特約価格

 金融商品取引業者は特約権を行使して当該株券を特約価格にて投資家から買い取ります。つまり、特約価格×対象数量の金額が金融商品取引業者から投資家に支払われます。

(2)特約権行使日における株券の時価(終値)≦特約価格

 金融商品取引業者は特約権を放棄して当該株券と同種、同等、同数の株券を投資家へ返還します。 

特約の付された複合型株券貸借取引(SLOW)の特徴

〇あくまでも、特約権行使日における株券の時価と特約価格の比較であるため、期間中に株券の時価が特約価格を上回っても買い取りが確定するわけではありません。

〇金融商品取引業者が当該株券を買い取る場合、返還するいずれの場合でも、所定の特約権料(プレミアム料ともいいます)が金融商品取引業者から投資家に支払われます。

 特約権取引は、「店頭デリバティブ取引」であり、特約権料は、取引終了日(特約権行使日の3営業日後)に、特約権行使の場合の買取代金、又は、特約権放棄の場合の返還される株券とともに、当該特約権取引の対価として金融商品取引業者から投資家へ支払われるものです。

〇契約によっては、賃借料が金融商品取引業者から投資家に支払われます。

〇対象期間が対象銘柄の決算期をまたぐ場合、所定の特約権料とは別に、配当金相当額が金融商品取引業者から投資家に支払われます。対象株式等の発行会社から金融商品取引業者に配当金等の支払いが行われた後、金融商品取引業者から投資家に支払われます。

〇投資家の特定口座内の株券等が貸し出された場合は、原則として、株券等の返還時には特定口座へ戻し入れられます。

〇原則として、取引期間中の解約はできないため、取引期間中に対象株券等を市場で売却することはできません。よって、対象銘柄の株価が急上昇したといっても、売却して利益を確保することはできません。

所得税法上の取扱い

株券の譲渡と特約権料

(1)特約権行使日における株券の時価(終値)>特約価格

 金融商品取引業者の特約権の行使により投資家が当該株券の返還に代えて金銭の支払を受けたときには、そのときに当該株券の譲渡があったものとして取り扱われます(措通37の10・37の11共-1(1))。20.315%の申告分離課税となります。

 投資家が支払を受ける特約権料は、金融商品取引業者による特約権の行使により株券が買い取られたときには、売却代金に加算して譲渡収入金額の一部として取り扱います。

 つまり、特約価格×対象数量と特約権料の合計金額が譲渡収入金額となります。

(2)特約権行使日における株券の時価(終値)≦特約価格

 株券貸借取引は、金融商品取引業者が取引終了日に、投資家から借り受けた株券と同種、同等、同数の株券を投資家へ返還することを約する取引であり、その実態は「消費貸借」(民法587)であると認められることから、金融商品取引業者の特約権の放棄により投資家が当該株券と同種、同等、同数の株券の返還を受けたときには、当該株券の譲渡はなかったものとして取り扱われます。

  投資家が支払を受ける特約権料は、特約権の放棄により当該株券と同種、同等、同数の株券の返還を受けたときには、雑所得(申告分離課税の対象)となります。

賃借料及び配当金相当額

 賃借料は、株券貸借取引から生ずる果実であることから、所得税法第23条(利子所得)から同法第34条(一時所得)に掲げる所得に該当せず、雑所得(総合課税の対象)となります。

 また、配当金相当額についても、株主たる地位に基づいて受ける配当金ではなく、株券貸借取引から生ずる果実であることから、配当所得には該当せず、賃借料と同じく、雑所得(総合課税の対象)となります。