概要
食事のための金銭の支出は、本来個人の稼得所得(課税済所得)の中から支弁されるべきものであり、この食事を他の者から支給されたような場合には、その支給を受けた個人は、他の者から経済的利益を享受したこととなり、原則として所得を構成することとなります(所法36①②)。
つまり、使用者である会社から従業員が食事を支給されたような場合は、本来は、その従業員の給与として課税対象となります。
ただし、給与所得者が、その使用者から支給を受ける食事については、一種の福利厚生的な要素があり課税所得としてとらえることは必ずしも相当でないとして、一定の条件に該当する食事については課税しなくて差支えないこととされています。
具体的には、残業又は宿直若しくは日直をした者(その者の通常の勤務時間外における勤務としてこれらの勤務を行った者に限る。)に対し、これらの勤務をすることにより支給する食事については、課税しなくてもよいことになっています(所基通36-24)。
通常の勤務時間内に支給された食事は、適用外となります(昭和57年3月18日裁決・大裁(法諸)56第288号)。
また、残業又は宿直若しくは日直をした者以外に対する食事提供は、提供を受けたものに対して原則として給与課税となるのですが、食事の価額(所基通36-38)の半額以上をその者から徴収している場合で、使用者の負担額が月額3,500円(消費税及び地方消費税相当額を除いた金額、平成元年1月30日直法6-1「消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取扱いについて」)以下であるときは、課税されません(所基通36-38の2)。
飲食店で従業員に賄いを提供し、賄い代を給与から徴収するような形で利用されることが多いです。会社の負担額が3,500円を超えている場合や、従業員の負担が半額未満である場合には、全額が給与課税(源泉徴取)の対象とされます。
また、深夜勤務者(労働協約又は就業規則等により定められた正規の勤務時間による勤務の一部又は全部を午後10時から翌日午前5時までの間において行う者をいう。)に対し、使用者が調理施設を有しないことなどにより深夜勤務に伴う夜食を現物で支給することが著しく困難であるため、その夜食の現物支給に代え通常の給与に加算して勤務一回ごとの定額で支給する金銭で、その一回の支給額が300円(消費税及び地方消費税相当額を除いた金額)以下のものについては、課税しなくてもよいことになっています(昭和59年7月26日直所3-8「深夜勤務に伴う夜食の現物支給に代えて支給する金銭に対する所得税の取扱いについて」)。一回の支給額が300円を超える場合には、その全額が給与課税(源泉徴取)の対象とされます。
残業食事代
勤務時間外における従業員へ支給する食事にかかる費用については、全額が福利厚生費となり給与課税とされません。
ただし、会社(使用者)が夜食を購入して支給するなど、何らかの方法で現物を支給することによらなければ、適用は受けられないものと解されるため、従業員が自由に好きな場所で夜食を食べ、その領収書を会社に提出させ、その実費を会社が従業員に支給しているような場合は、給与課税になると考えられます。
また、食事にかかる費用があまりにも高かったり、頻度が多い場合は、税務調査の際にもめる可能性はあるといえます。
従業員に対する夜食代金につき、1人1回500円、月平均2回で計算した金額を福利厚生費に計上しうる残業食事代とすべきであると認定された青森地裁昭和61年4月15日判決(昭和57年(行ウ)4号)があります。ただし、古い事例であり、現在、夜食代が1回500円で済むかというと難しいため、500円にこだわる必要はないかと思います。
なお、代表者の家族しか働くものがいない会社で、残業により食事を会社が出す場合も、税務調査の際にもめる可能性はあるといえます。
悪用すれば、残業食事という形をとり、代表者とその家族の夜飯にかかる費用を経費で落とせてしまうからです。
所得税基本通達
所基通36-24(課税しない経済的利益……残業又は宿日直をした者に支給する食事)
使用者が、残業又は宿直若しくは日直をした者(その者の通常の勤務時間外における勤務としてこれらの勤務を行った者に限る。)に対し、これらの勤務をすることにより支給する食事については、課税しなくて差し支えない。
所基通36-38(食事の評価)
使用者が役員又は使用人に対し支給する食事については、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に掲げる金額により評価する。
(1) 使用者が調理して支給する食事 その食事の材料等に要する直接費の額に相当する金額
(2) 使用者が購入して支給する食事 その食事の購入価額に相当する金額
所基通36-38の2(食事の支給による経済的利益はないものとする場合)
使用者が役員又は使用人に対し支給した食事(36-24の食事を除く。)につき当該役員又は使用人から実際に徴収している対価の額が、36-38により評価した当該食事の価額の50%相当額以上である場合には、当該役員又は使用人が食事の支給により受ける経済的利益はないものとする。ただし、当該食事の価額からその実際に徴収している対価の額を控除した残額が月額3,500円を超えるときは、この限りでない。
社会保険での取り扱い
食事の供与(労働者が使用者の定める施設に住み込み1日に2食以上支給を受けるような特殊の場合のものを除く)は、その支給のための代金を徴収すると否とを問わず、次の各号の条件を満たす限り、原則として、これを賃金として取り扱わず、福利厚生として取り扱うことになっています(労基法11、昭和30年10月10日基発644号)。
(1) 食事の供与のために賃金の減額を伴わないこと
(2) 食事の供与が就業規則、労働協約等に定められ、明確な労働条件の内容となっている場合でないこと
(3) 食事の供与による利益の客観的評価額が、社会通念上、僅少なものと認められるものであること