概要
居住者又はその者と生計を一にする親族(その年分の総所得金額等が48万円以下の者)の有する資産について、災害、盗難又は横領によって損害を受けた場合や災害に関連してやむを得ない支出をした場合に雑損控除(所得控除)として控除できます(所法72、所令205、206)。なお、いわゆる所得控除ですので、損害の全額を取り戻せるわけではないということになります。
ただし、雑損控除の対象となる資産は、原則として、生活に通常必要な資産(自宅・家財など)であり、損失の発生原因は、「災害」、「盗難」又は「横領」に限定されており、「詐欺」による損失は対象となりません(所法72①、所令9)。
雑損控除はシャウプ勧告に基づき昭和25年に導入された制度で、当初は「災害」、「盗難」に限定されていましたが、昭和40年の税制改正で「横領」も加わりました。
当時の審議過程では「詐欺」による損失も議題に上がったのですが、詐欺であるかどうかの判断が難しい等の理由により、最終的に、雑損控除の対象となりませんでした。
平成23年5月23日裁決(裁事83集)の要旨
請求人は、いわゆる振り込め詐欺の被害に遭い、だまし取られた金額分の損失(本件損失)が、雑損控除制度の趣旨・目的に照らせば所得税法72条《雑損控除》1項に規定する「災害又は盗難若しくは横領」による損失、又は「災害」による損失、「盗難」による損失若しくは「横領」による損失のいずれかの損失に当たる旨主張する。
しかしながら、「災害」、「盗難」及び「横領」はいずれも別個の概念であること、また、①上記詐欺の犯人が指定した口座に3回にわたり振込送金した請求人の行為(本件各振込み)自体が、請求人の意思に基づいてなされているから、本件損失は「災害」による損失に当たらないこと、②「盗難」の意義は「財物の占有者の意に反する第三者による当該財物の占有の移転」と解されるところ、本件各振込みが請求人の意思に基づいてなされているから、本件損失は「盗難」による損失に当たらないこと、③「横領」の意義は「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をすること」と解されるところ、請求人が振り込んだ金銭に対する所有権は本件各振込みを終えた時点で、当該金銭に対する占有とともに上記詐欺の犯人側へ移転したと認められ、当該犯人はそもそも請求人の物の占有者ではないから、本件損失は「横領」による損失に当たらないことから、本件損失は、所得税法72条1項に規定する「災害又は盗難若しくは横領による損失」には当たらない。