相殺

概要

  いわゆる国内FXと海外FXの損益は相殺できません。

 FX取引により生じる所得で申告分離課税の対象となるのは、金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)に規定する店頭デリバティブ取引と市場デリバティブ取引の範囲に含まれるFX取引であり、金商法の無登録業者等(主に外国の金融業者)を相手方として行うFX取引による差益については、総合課税の雑所得の対象となります(措法41の14、37の12の2②一)。

 よって、例え、同一年の取引であっても、総合課税の雑所得と分離課税の雑所得とは全く別の課税標準を構成するもの(措法41の14①)であるため、いわゆる国内FXと海外FXは相殺(両者の損益を通算)することはできません。

海外FXに関する過去の税制改正等

(イ)平成22 年8 月から「レバレッジ上限を50 倍」、平成23 年8 月から「レバレッジ上限を25 倍」とするよう個人投資が規制される。

(ロ)平成23 年度税制改正において、先物取引の特例の適用対象に、市場デリバティブ取引に追加して、平成24 年1月1日以後に行う店頭デリバティブ取引に係る所得が特例の対象となる。

(ハ)平成28 年度税制改正により、平成28 年10 月1 日以後に行う先物取引については、金融商品先物取引等のうち店頭デリバティブ取引については、金融商品取引法に規定する金融商品取引業者(第一種金融商品取引業を行う者に限ります。)又は登録金融機関を相手方として行う取引に限るとされた。

 金融所得課税の一体化の観点から平成23年度税制改正により、平成24年1月1日以後、市場を介して行われる一定の市場デリバティブ取引だけでなく、FX業者との相対取引である一定の店頭デリバティブ取引についても、「先物取引に係る雑所得等の課税の特例」の対象となり、申告分離課税が適用されることとなりました。

 ただし、平成28年度税制改正により、平成28年10月1日以後に行う海外FXは総合課税の雑所得となりました。平成28年度税制改正の解説では、この理由について、以下のように解説しています。

「近年、金融商品取引法に基づく金融商品取引業の登録をしていない海外に所在する業者が、インターネット取引によって日本の居住者を相手方として店頭取引等を行うケースが見受けられ、投資家とのトラブルが生じています。こうした海外の無登録業者との取引は適切な投資家保護が確保できない取引であることから、無登録業者との取引を本特例の対象外とする観点から(略)改正が行われました」

 海外FX業者は、ほとんどが金融庁での登録を受けることなく商品を提供しており、金融庁は、そのことに関して以前から懸念をもっていました。

 法律上は、海外所在業者であったとしても、日本の居住者のために又は日本の居住者を相手方として金融商品取引を業として行う場合は、金融商品取引業の登録(日本の「金融商品取引法」に基づく登録)が必要であり、日本で登録を受けずに金融商品取引業を行うことは、禁止されています(違反者は罰則の対象)。

 ただし、無登録の海外所在業者は、業務の実態等の把握が難しく、仮にトラブルが生じたとしても業者への追及は極めて困難であるため、登録をしていない海外FX業者は野放しにされているのが実情です。

 なお、海外FX業者が金融庁での登録を受けない背景の1つに、最大25倍(平成23 年8 月から)というレバレッジ限定商品しか提供できないことがあげられます(ハイレバレッジ商品が提供できない)。

外部リンク先 金融庁HP「無登録の海外所在業者による勧誘にご注意ください」
https://www.fsa.go.jp/ordinary/kanyu/20090731.html

上場株式等の譲渡所得等と先物取引に係る雑所得等の違い

 上場株式等の譲渡所得等と先物取引に係る雑所得等のどちらも、条文上、「課税の特例(分離課税)」と「損失の繰越控除」という構造になっています。

 上場株式等の譲渡所得等の場合は、「損失の繰越控除」の条文で、登録を受けていない国外の証券業者への売委託により行った上場株式等の譲渡に係る損失は、「損失の繰越控除」ができないとされています。

 ただし、国内証券会社への売委託による譲渡所得とは相殺できます。つまり、「課税の特例(分離課税)」で、登録を受けていない業者を通じた取引が特例を利用できないと記載されていないため、分離課税であることには変わりがないからです。

 一方、先物取引に係る雑所得等の場合は、「課税の特例(分離課税)」の条文で、登録を受けていない相手方として行う取引は、分離課税ではない、つまり、総合課税であるとされています。

上場株式等の譲渡所得等

措置法37条の11 (上場株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)
1 居住者(略)が、平成28年1月1日以後に上場株式等の譲渡をした場合には、当該上場株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(略)については、(略)、他の所得と区分し、その年中の当該上場株式等の譲渡に係る事業所得の金額、譲渡所得の金額及び雑所得の金額として政令で定めるところにより計算した金額(以下この項において「上場株式等に係る譲渡所得等の金額」という。)に対し、上場株式等に係る課税譲渡所得等の金額(略)の100分の15に相当する金額に相当する所得税を課する。
この場合において、上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、同法その他所得税に関する法令の規定の適用については、当該損失の金額は生じなかつたものとみなす。

措置法37条の12の2(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除)
1 確定申告書(略)を提出する居住者(略)の平成28年分以後の各年分の上場株式等に係る譲渡損失の金額がある場合には、第37条の11第1項後段の規定にかかわらず、当該上場株式等に係る譲渡損失の金額は、当該確定申告書に係る年分の第8条の4第1項に規定する上場株式等に係る配当所得等の金額を限度として、当該年分の当該上場株式等に係る配当所得等の金額の計算上控除する。
2 前項に規定する上場株式等に係る譲渡損失の金額とは、当該居住者(略)が、上場株式等の譲渡のうち次に掲げる上場株式等の譲渡(略)をしたことにより生じた損失の金額として政令で定めるところにより計算した金額のうち、その者の当該譲渡をした日の属する年分の第37条の11第1項に規定する上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除してもなお控除しきれない部分の金額として政令で定めるところにより計算した金額をいう。
一 金融商品取引法第2条第9項に規定する金融商品取引業者(同法第28条第1項に規定する第一種金融商品取引業を行う者に限る。次号において「金融商品取引業者」という。)又は同法第2条第11項に規定する登録金融機関(第3号において「登録金融機関」という。)への売委託により行う上場株式等の譲渡
(略)
5 確定申告書を提出する居住者(略)が、その年の前年以前3年内の各年において生じた上場株式等に係る譲渡損失の金額(この項の規定の適用を受けて前年以前において控除されたものを除く。)を有する場合には、第37条の11第1項後段の規定にかかわらず、当該上場株式等に係る譲渡損失の金額に相当する金額は、政令で定めるところにより、当該確定申告書に係る年分の同項に規定する上場株式等に係る譲渡所得等の金額及び第8条の4第1項に規定する上場株式等に係る配当所得等の金額(第1項の規定の適用がある場合にはその適用後の金額。以下この項において同じ。)を限度として、当該年分の当該上場株式等に係る譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得等の金額の計算上控除する。

先物取引に係る雑所得等

措置法41条の14(先物取引に係る雑所得等の課税の特例)
1 居住者(略)が、次の各号に掲げる取引又は取得をし、かつ、当該各号に掲げる取引又は取得(以下この項及び次条において「先物取引」という。)の区分に応じ当該各号に定める決済又は行使若しくは放棄若しくは譲渡(以下この項及び次条において「差金等決済」という。)をした場合には、当該差金等決済に係る当該先物取引による事業所得、譲渡所得及び雑所得については、(略)、他の所得と区分し、その年中の当該先物取引による事業所得の金額、譲渡所得の金額及び雑所得の金額として政令で定めるところにより計算した金額(以下この項において「先物取引に係る雑所得等の金額」という。)に対し、先物取引に係る課税雑所得等の金額(略)の100分の15に相当する金額に相当する所得税を課する。この場合において、先物取引に係る雑所得等の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、同法その他所得税に関する法令の規定の適用については、当該損失の金額は生じなかつたものとみなす。
一 商品先物取引等(略)
二 金融商品先物取引等(金融商品取引法第2条第21項第1号から第3号までに掲げる取引(略)で同項に規定する市場デリバティブ取引(略)に該当するもののうち政令で定めるもの又は同法第2条第22項第1号から第4号までに掲げる取引(略)で同項に規定する店頭デリバティブ取引(略)に該当するもの(第37条の12の2第2項第1号に規定する金融商品取引業者又は登録金融機関を相手方として行うものに限る。)をいう。以下この号において同じ。) 当該金融商品先物取引等の決済(略)
三 金融商品取引法第2条第1項第19号に掲げる有価証券(略)の取得(略)

措置法41条の15(先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除)
1 確定申告書(略)を提出する居住者(略)が、その年の前年以前3年内の各年において生じた先物取引の差金等決済に係る損失の金額(この項の規定の適用を受けて前年以前において控除されたものを除く。)を有する場合には、前条第1項後段の規定にかかわらず、当該先物取引の差金等決済に係る損失の金額に相当する金額は、政令で定めるところにより、当該確定申告書に係る年分の同項に規定する先物取引に係る雑所得等の金額を限度として、当該年分の当該先物取引に係る雑所得等の金額の計算上控除する。