概要

 税務上の特典があるので、会社の申告は青色申告がお得です。ただし、会社が2事業年度連続して期限後申告したら、青色申告の承認は取り消されます。

 「法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」(平成12年7月3日/課法2-10)において、以下の項目が列挙されています。

1 帳簿書類を提示しない場合における青色申告の承認の取消し
2 税務署長の指示に従わない場合における青色申告の承認の取消し
3 隠ぺい、仮装等の場合における青色申告の承認の取消し
4 無申告又は期限後申告の場合における青色申告の承認の取消し
5 相当の事情がある場合の個別的な取扱い
6 電子帳簿保存の承認の取消しと青色申告の承認の取消し

 その中の「4」において、「法第127条第1項第4号の規定による取消しは、2事業年度連続して期限内に申告書の提出がない場合に行うものとする。この場合、当該2事業年度目の事業年度以後の事業年度について、その承認を取り消す。」と通達されています。

 なお、この場合の2事業年度連続とは「青色申告としての2事業年度連続」と考えられています。例えば、X1事業年度が白色申告で期限後申告となり、X2事業年度(青色申告の承認1期目)が青色申告で期限後申告の場合、X3事業年度が青色申告で期限内申告であれば、青色申告の承認は取消されないと考えられています。

 この事務運営指針に関して争われた平成17年4月22日判決(税資255号-128(順号10009))がありますが、納税者の負けとなっています。ですから、青色申告の承認を維持したい場合は、期限内に申告し続けましょう。

 また、2事業年度連続で確定申告書を提出期限までに提出しなかった原因が、税理士法人の担当職員が期限内に提出することを失念したことが理由であった福岡地裁令和4年12月14日判決(令和3年(行ウ)29号)においても、申告手続を税理士に委任し、その税理士が代理人として申告した以上、その申告は申告名義人である納税者の行為として取り扱われるものと解され、納税者の負けとなっています。

 なお、個人(所得税)の場合は、法人と違って、期限内申告どうのこうのは関係ないです。「個人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」(平成12年7月3日/課所4-17)においては、以下の項目しか列挙されていません。

1 帳簿書類を提示しない場合における青色申告の承認の取消し
2 税務署長の指示に従わない場合における青色申告の承認の取消し
3 隠ぺい、仮装等の場合における青色申告の承認の取消し
4 相当の事情がある場合の個別的な取扱い
5 電子帳簿保存の承認の取消しと青色申告の承認の取消し

取消しをしないことが相当である「特別な事情」

 2事業年度連続して期限内に申告書の提出がない場合においても、役員その他相当の権限を有する地位に就いている者が知り得なかったこともやむを得ないと認められるなどその事実の発生について特別な事情があり、かつ、再発防止のための監査体制を強化する等今後の適正な記帳及び申告が期待できるなど、取消しをしないことが相当と認められるものについては、青色申告の承認が取り消されない場合もあります(上記事務運営指針の5①)。

 ここにおける「特別な事情」ですが、下記の事例が参考になると思います。

 令和元年12月4日裁決(関裁(法)令元第22号)において、納税者Xは「記帳や申告書類の作成を税理士等に依頼せず、Xの代表者が、書籍などを参照しながら、会計ソフトを用いて記帳及び申告書類を作成していた。平成29年11月期申告書は、初めての申告で確定申告書の作成に手間取り、また、平成30年11月期申告書は、平成29年11月期からの資産の繰越処理等に手間取ったことから、それぞれの提出期限までに提出することができなかったものであり、これらの事情は、本件事務運営指針の5に定める特別な事情に該当する。」と主張したのですが、Xの主張する事情は、いずれもXの内的事情にすぎず、Xの責めに帰すことのできない外的事情には当たらないから、事務運営指針の5に定める「特別な事情」とは認められないと判断されました。

 一方、平成30年2月21日再調査決定(諫法第3号)において、申告書の提出を担当した社員が、郵送でも宅配便でも申告書の提出受理日は同じとの誤解のもとに宅配便で行ってしまい、結果的に申告が1日遅れとなり、青色申告の承認の取消処分となったのですが、下記理由により、処分が取り消されました。

①(1) 特別な事情について
 平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度(以下「28年3月期」といいます。)の法人税の確定申告書(以下「28年3月期申告書」といいます。)及び29年3月期の法人税の確定申告書の提出について、2期連続して期限内申告書の提出がない場合には当たるが、「2期連続」の1期目である28年3月期申告書は、申告書の提出を担当したA株式会社の社員が、郵便でも宅配便でも申告書の提出受理日は同じとの誤解のもとに宅配便により発送したため、結果的に1日遅れとなったが、発送伝票のとおり、佐川急便への依頼日は平成28年5月31日である。
(2) 再発防止体制の強化等
 請求人は、この度の件を深く反省し、今後の申告をB会計事務所に依頼済みであり、「法人税申告手続きのチェックシート」を用いて提出期限厳守の指導を受けており、再発防止のため提出期限の厳守はもとより、記帳等の監査体制を強化する等、今後の適正な記帳及び申告が確実に期待できる。
② そこで、再調査の請求に係る調査を行ったところ、28年3月期申告書の提出がその提出期限までになされなかったことについて特別な事情があり、かつ、再発防止のための監査体制を強化する等今後の適正な記帳及び申告が期待できると認められる。
 よって、請求人の上記主張には理由がありますので、原処分を取り消す。

法人税法127条(青色申告の承認の取消し)

 第百二十一条第一項(青色申告)の承認を受けた内国法人につき次の各号のいずれかに該当する事実がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該各号に定める事業年度まで遡つて、その承認を取り消すことができる。この場合において、その取消しがあつたときは、当該事業年度開始の日以後その内国法人が提出したその承認に係る青色申告書(納付すべき義務が同日前に成立した法人税に係るものを除く。)は、青色申告書以外の申告書とみなす。
一 その事業年度に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が前条第一項に規定する財務省令で定めるところに従つて行われていないこと 当該事業年度
二 その事業年度に係る帳簿書類について前条第二項の規定による税務署長の指示に従わなかつたこと 当該事業年度
三 その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること 当該事業年度
四 第七十四条第一項(確定申告)の規定による申告書をその提出期限までに提出しなかつたこと 当該申告書に係る事業年度
2 第百二十一条第一項の承認を受けた内国法人につき、第四条の五第一項(連結納税の承認の取消し)の規定により第四条の二(連結納税義務者)の承認が取り消された場合には、納税地の所轄税務署長は、その取り消された日の前日(当該前日が連結事業年度終了の日である場合には、その取り消された日)の属する事業年度まで遡つて、第百二十一条第一項の承認を取り消すものとする。
3 第一項後段の規定は、前項の場合について準用する。
4 税務署長は、第一項又は第二項の規定による取消しの処分をする場合には、第一項又は第二項の内国法人に対し、書面によりその旨を通知する。この場合において、その書面には、その取消しの処分の基因となつた事実が第一項各号又は第二項のいずれに該当するかを付記しなければならない。

平成17年4月22日判決(税資255号-128(順号10009))(棄却 )(確定) 要旨

(1)事案の概要

 本件は、原告X社が、所轄税務署Yから、2事業年度にわたる期限後申告を理由として、法人の青色申告の承認の取消処分を受けたことについて、裁量権の逸脱ないし濫用等の違法を主張して、処分の取消しを求めた事案である。

○本判決に至るまでの事実等は、次のとおりである。
① X社は株式会社であり、毎年4月1日から翌年3月31日までを事業年度としているが、設立以来、各事業年度について、青色申告をしてきた。

② X社は、平成13年3月期の確定申告書(法定提出期限同年5月31日)を同年12月21日に提出し、平成14年3月期の確定申告書(法定提出期限同年5月31日)を平成15年5月28日に提出し、連続する2事業年度にわたる期限後申告をし、法人税法127条1項4号に該当するに至った。

③ Yは、平成15年6月30日付けをもって、本件期限後申告を理由として、原告の平成14年3月期以後の法人税の青色申告の承認を取り消す旨の処分をした(以下この処分を「本件処分」という。)。

④ X社は、本件期限後申告をしたものの、これに続く平成15年3月期には期限内申告をしており、平成16年3月期についても、税理士に決算書類の作成を依頼するなどの改善措置を講じ、期限内申告が確実に見込まれる状態にあったから、真に青色申告にふさわしくない法人には当たらないなどと主張した。

(2)判決要旨(棄却)(確定)

① 青色申告制度は、完備した帳簿書類を基礎とした正確な申告を奨励するために、一定の帳簿書類を備え付けている者に限って青色の申告書を用いて申告することを認め、かつ青色申告に通常の申告(白色申告)には認められない各種の特典を与えることとしたものである。そして、青色申告の承認の取消しの制度は、青色申告の承認を受けている法人であっても、その後に青色申告の前提条件を欠くに至り、又は青色申告制度を維持するための秩序が乱されることとなるときは、その承認を取り消す措置が必要であることから、青色申告の承認を受けている法人について、一定の事実があった場合には、税務署長は、その事実があった事業年度までさかのぼってその承認を取り消すことができるものとしたものである。

② 青色申告の承認の取消しをすることができるのは、法人税法127条1項(青色申告の承認の取消し)各号に該当する場合でなければならないことはもちろんであるが、同項本文が、同項各号に該当する事実がある場合には、青色申告承認を取り消すことが「できる」と規定して、取消しの要否を税務署長の裁量に委ねていることからすると、形式的には各号該当性が認められるものの、青色申告にふさわしくない事案とはいい難いような事案について青色申告承認取消処分がされた場合には、裁量権の逸脱ないし濫用の違法が生じる余地があるものというべきである。そこで、本件においてそのような裁量権の逸脱ないし濫用の違法があるかどうかを検討する。

③ 本件期限後申告は、2事業年度にわたっており、それぞれの申告が法定申告期限を徒過した期間は、平成13年3月期については6か月以上、平成14年3月期については11か月以上に及んでいるところ、このような事態が生じた理由について、X社からは格別の主張や立証がされていない。そして、きちんと帳簿書類を作成して申告に備えていれば、本来、期限内に申告ができないという事態が生ずることはあり得ない事柄なのであるから、2年間続けて約半年、約1年という申告遅れを起こすというのは、青色申告者に期待されている行動から大きく逸脱したものといわざるを得ないのであり、この観点からすると、X社は、法に定める各種の恩典を受けるのにふさわしい前提を備えた法人と評価するのは到底困難であるというほかない。そうすると、本件が青色申告にふさわしくない事案に当たるとして、X社に対する青色申告の承認を取り消した原処分について、裁量権の濫用ないし逸脱の違法を認めることはできない。

④ 本件指針に照らしてみても、本件処分は、2事業年度連続して期限内に申告書の提出がない事案について、当該2事業年度目の事業年度以後の事業年度について青色申告の承認を取り消したものであって、本件指針の定めに従ったものということができ(本件指針の記の4参照。なお、記の5の①に該当すべき事情については、X社から何らの主張がない。)、同種事案に対する事務運営と異なる処分であるとはいい難い。

⑤ なお、X社の主張には、X社が平成15年3月期に期限内申告をしたことから、その後にされた本件処分が違法となるという趣旨にも解される部分がある。しかしながら、本件条項その他の法の規定には、期限後申告を理由とする青色申告承認取消処分の時期を制限する規定はないから、納税者が期限後申告をした後に期限内申告に復したからといって、その後に、過去の期限後申告を理由とする青色申告承認取消処分をすることができなくなるわけではない。したがって、X社の主張のうち、裁量権の逸脱ないし濫用の違法をいう部分は、これを採用することができない。

⑥ X社の請求は理由がないからこれを棄却することとする。

青色承認取消処分は、「法人の青色申告の承認の取消しについて」(事務運営指針)に沿ってされたものであって、課税庁の裁量権の逸脱又は濫用は認められないとして適法であるとされた事例-東京地裁平成30年10月23日判決(税資268号-96(順号13201))(棄却)(控訴)

(1)事案の概要

1 X(原告会仕)は、会社法472条1項に規定する休眠会社(株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過したもの)に該当することから、平成27年1月20日に解散したものとみなされ(以下「本件みなし解散」という。)、解散登記された。

2 Y(課税庁)は、本件みなし解散に伴い、Xの事業年度終了の日が3月末日から1月20日となるため、Xの本店所在地宛てに、本件みなし解散に伴いXの事業年度が変更される旨などを記載したお知らせ文書などを郵送したが、「あて所に尋ねあたりません」との理由で返戻された。

3 Xは、Yに対し、「平成26年4月1日から平成27年3月31日まで」及び「平成27年4月1日から平成28年3月31日まで」を事業年度とする法人税の各確定申告書(以下、それぞれ「平成27年3月申告書」及び「平成28年3月申告書」という。)を提出した。

4 Yは、Xの「平成26年4月1日から平成27年1月20日まで」及び「平成27年1月21日から平成28年1月20日まで」(以下、それぞれ「平成27年1月期」及び「平成28年1月期」という。)の法人税の各確定申告書がそれぞれの提出期限までに提出されていないことから、法人税法127条1項4号の取消事由に該当するとして、平成28年1月期以後の青色申告の承認の取消しを行った(以下「本件青色承認取消処分」という。)。

5 Xは、本件みなし解散によりXの事業年度が平成27年1月期及び平成28年1月期になったことを知り得ず、また、平成27年3月申告書及び平成28年3月申告書を提出していることから、法人税法127条1項4号の取消事由に該当しない旨主張し、本件青色承認取消処分の取消しを求めて提訴した。

(2)本件の争点

 本件青色承認取消処分にYの裁量権の逸脱又は濫用があり、当該処分が違法であるか否か。

(3)判決要旨(棄却)(控訴)

1 Xの平成27年3月申告書及び平成28年3月申告書は、事業年度の異なる確定申告書を提出したものであって、適法な確定申告書の提出とは認められない。

2 Xは、本件みなし解散を知り得なかったから、平成28年1月期の申告書を期限内に提出することは不可能であったと主張するが、会社法472条1項本文の規定からすれば、X代表者が本件みなし解散に係る官報公告を認識していなかったとしても、Xに係るみなし解散の効力に影響はなく、Xは、平成27年1月期及び平成28年1月期の申告期限までに確定申告書を提出する義務を免れるものではない。また、Yからのお知らせ文書などがXに到達しなかったのは、Xが、Yに対して、相当の期間、本店所在地以外の連絡先を通知していなかったためである。

3 したがって、本件青色承認取消処分は事務運営指針に沿ってされたものであって、その判断に不合理な点はなく、Yがその裁量権を逸脱し又は濫用したとは認められない。