概要
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言については、これを民法908条の遺産分割方法の指定と解し、当該遺産は遺産分割協議を要さず相続により承継されるものとした最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決(民集45巻4号477頁)があります。
「遺贈」と「相続させる遺言」
遺言で財産をあげるには、「遺贈」と「相続させる遺言」の2つがあります。遺贈は相続人、相続人以外のいずれに対してもできますが、相続させる遺言は相続人に対してしかできません。
なお、遺贈は民法上規定されています(民法964)が、相続させる遺言は、特に民法上規定されていません。しかし、判例では承認されていて、遺産分割の方法(民法908)を指定した遺言であり、遺言者(被相続人)の死亡によって、直ちに相続の承継の効果が生じると考えられています。
また、特定の相続人が遺言により取得することとなった財産が法定相続分を超える場合には、遺産分割方法の指定とともに、相続分の指定(民法902)も行われたと考えられています。
財産を特定の相続人(例えば、後継者など)にあげる場合には、遺言書に「遺贈する」と「相続させる」のどちらでも書けるということになりますが「相続させる」と書くべきでしょう。
遺贈により不動産の所有権が移転した場合、登記をしないと第三者に対抗できません。また、所有権移転登記は単独では申請できず、ほかの相続人の協力が必要です。
一方、不動産を「相続させる」旨の遺言によって取得した人は、その権利を登記なくして第三者に対抗できます。また、所有権移転登記を単独で申請することができます。
なお、所有権移転登記に要する登録免許税は「遺贈する」とした場合には、不動産の価額の「1000分の20」ですが、「相続させる」とした場合には、「1000分の4」となります。
しかし、「遺贈する」とした場合であっても「相続人に対する遺贈」については、相続に含まれるものとされ(登免法17、租法72)、相続人であることを証する戸籍謄本等を添付して登記申請を行えば「1000分の4」となります。
なお、相続人でない人に遺言で財産をあげる場合には、相続をすることができないので「遺贈する」と遺言書に書きます。
最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決(民集45巻4号477頁)要旨
一 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである。
二 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があった場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される。