概要
消費税を払いたくないので、2年ごとに会社を新設するスキームを考えている人もいるでしょう。今後、インボイス制度があるので、事業者相手のビジネスだと無理ですが、消費者相手のビジネスですと考える人もいるでしょう。
ただし、全くすすめられません。名古屋地裁平成21年11月5日判決(税資259号-193順号11306)が参考になると思います。
この原告及び原告代表者は、偽りその他不正の行為により原告の平成15年課税期間から平成17年課税期間までの各課税期間に係る消費税等を免れたとして、消費税法70条1項、64条1項1号、地方税法72条の95第3項、1項前段の罪により、名古屋地方裁判所に起訴され、平成20年5月15日、原告につき罰金1300万円、原告代表者につき懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を受けています。
名古屋地裁平成21年11月5日判決(税資259号-193順号11306)(棄却)(確定)
(1)事案の概要
① 原告Xは、衛生用陶磁器の製造及び販売等を目的とする資本金1000万円の株式会社である。
Xは、取引先から衛生用陶磁器製品の製造作業等を請け負い、Xが雇用している日系ブラジル人等の従業員を取引先の工場に派遣し、取引先から請負代金を得ることを業務としていた(以下、この工場に派遣されていた従業員を「外勤社員」といい、それ以外の従業員を「内勤社員」という。)。
② Xは、平成9年ころ、消費税等や労災保険料につき合計2000万円ないし3000万円程度の滞納があったため、X代表者甲は、平成10年2月ころ、戊税理士に対し、これらの滞納を解消するため、税金を少なくする方法がないかを相談し、その際、他の人材派遣会社が別会社を設立して消費税を安くするという方法を採っていると聞いており、Xにおいてもこうした方法を採ることができないかと尋ねた。
戊税理士は、甲に対し、複数の別会社を設立して、Xが取引先から請け負った業務をこれらの別会社に割り振って外注委託する形を採ることにより、当時4億円以上あったXの売上げをそれらの会社に分散させ、簡易課税制度の適用を受けて、消費税等を安くする方法を提案した。
③ 甲は、平成10年3月3日、別会社3社を設立し、Xの複数の取引先を別会社ごとに割り当てた上、Xが取引先から請け負った業務をその別会社に外注委託し、Xが取引先から請負代金等の支払を受けると、Xの取り分を差し引いて、残りを別会社名義の預金口座に送金するという経理処理を行った。これにより、仕入税額控除として、課税標準額に対する消費税額から別会社の外注加工費に係る消費税額が控除されることになるとともに(取引先に対しXの従業員を派遣していた従前の業務形態では、従業員に対する給与は課税仕入れに当たらないから、その税額を控除することはできなかった。)、別会社に係る消費税等は、新設法人の免税制度によりすべて免税された。
④ 平成10年当初、甲は、別会社の設立後2年を経過した後は簡易課税制度の適用を受けた上で消費税等を支払わなければならなくなると考えていたが、平成11年6月末にDが2度目の決算期を迎える前には、このまま消費税等を支払わないで済ませたいと思い、更に別会社を作って従前の別会社への外注加工費を付け替えることにより、同年7月以降も消費税等を免れようと考えた。
そこで、甲は、平成11年6月に別会社1社を、平成12年2月に別会社1社を設立し、Xが取引先から請け負った業務をこれらの別会社に外注委託することにより、Xの外注加工費をこれらの別会社に付け替えた。その後も、同様にして、順次、ある別会社の設立後2度目の決算期を迎えた後は、別の別会社を新たに設立し、その会社に外注委託するという処理を繰り返し、課税標準額に対する消費税額から別会社の外注加工費に係る消費税額が控除されることになるとともに、別会社に係る消費税等は、新設法人の免税制度によりすべて免税された。
⑤ 甲は、平成17年10月、他の人材派遣会社が消費税等の脱税で起訴されたという新聞記事を読んだ後は、既存の別会社が2度目の決算期を迎えても新しい別会社は作らないこととしたが、Xは、平成18年8月1日、名古屋国税局による査察調査を受け、摘発された。
⑥ Xは、平成12年10月1日から平成13年9月30日まで、同年10月1日から平成14年9月30日まで、同年10月1日から平成15年9月30日まで、同年10月1日から平成16年9月30日まで及び同年10月1日から平成17年9月30日までの各課税期間に係る消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について修正申告をしたところ、処分行政庁から平成19年3月27日付けで重加算税の賦課決定を受けたことから、これらの賦課決定の取消しを求めた。
(2)主な争点
Xが本件各確定申告において消費税等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を仮装又は隠ぺいしたとして同法68条1項の重加算税の賦課要件を満たすか否かである。
(3)判決要旨(棄却)(確定)
① 事実関係によれば、(イ)各別会社の資本金はX等の資金が原資となっており、ほとんどの別会社は、その設立後に再び出捐者に返金し、資本の実体を有していないこと、(ロ)別会社の実質的な経営者は甲であって、別会社の代表者らは別会社の業務を行っておらず、また、丙と丁(甲の内妻の父母)に対しては、Xの役員として名義を借りていることのお礼として2人で月額20万円が支払われており、両名を除く別会社の代表者に対しては、名義貸しの対価として月額5万円が支払われていたものの、取締役報酬としての実質を有する金員は支払われていなかったこと、(ハ)別会社の本店所在地には別会社の事業所はなかったこと、(ニ)内勤社員についてはXと別会社とで人数が均等になるよう適当に割り当てられていたこと、(ホ)Xと別会社との間で、外注加工業務に関する契約や取決めはなく、内容虚偽の業務委託契約書が作成されていたこと、(ヘ)Xと別会社の取り分の率が別会社から支出する経費とXの利益状況とのバランスを考慮して定められ、しかも、平成15年ころからは、取り分の率に従ってされた帳簿上の外注加工費の計上と実際の送金とは大きくかけ離れていたこと、(ト)別会社の設立後2度目の決算期を迎えた後は、順次、別の別会社が新たに設立されて、その会社に外注委託するという経理処理が繰り返されていたこと等の事実を総合すると、本件における別会社はいずれも会社としての実体はなく、Xから別会社への外注委託取引は架空のものであったと評価せざるを得ない。
② Xは、営利を目的とする会社は、その営利追求のために会社を分離したり、子会社を設立したりすることは何ら違法ではなく、その際、資本金を最初の代表者がすべて実質的に負担し、別会社の所在地には営業実態がなく、別会社の代表者が実質的な機能、権限を持たないとしても何ら不思議ではなく違法ではないから、別会社の実体がないといえないと主張するが、甲が設立した別会社は、資本の払込み、取締役の就任、営業実態のいずれにおいてもその実体を伴っていないものであるから、この別会社が実体のないものであることは明らかである。
したがって、Xが計上した別会社に対する本件外注加工費は架空のものであって、本件各課税期間の消費税等の計算において、課税標準額に対する消費税額から本件外注加工費に係る消費税額を控除することはできないというべきである。
③ Xないし甲は、何ら実体のない別会社を次々に設立し、これら別会社にXの従業員を転籍させたように装い、また、別会社との取引が正当なものであるかのように架空の業務委託契約書などを作成するなどして、Xの請負業務を別会社に外注委託したかのような事実を作出し、別会社に対する本件外注加工費の支払があったかのごとく仮装した経理処理を行っていたのであって、これらの行為は、国税通則法68条1項にいう「隠ぺい」又は「仮装」に当たるものと認められる。