概要
信用取引とは、投資家が委託保証金(取引額の30%の保証金が必要。最低30万円)を証券会社に担保として預託し、資金・上場株式等を借りて売買を行う取引です。
現物取引に比べて、同じ資金での取引額が増える(3.3倍)という事になるので、利益も損失も現物取引に比べて大きくなります。
なお、損失が生じている場合は、追加の保証金(追証)を入金する必要な場合があり、追証ができないと、強制的に決済されてしまいます。
端的に言うと、借金をして株式売買取引金額を大きくしているため、いわゆる、ハイリスク・ハイリターンとなります。
なぜ、このようなハイリスク・ハイリターンの制度があるかというと、株式市場において現物取引しかできないとすると、株式の流動性が低くなり、一部の者により株価が左右される可能性があります。
公正な株価形成のため、手持ち資金や手持ち株式以上の売買ができるこのような信用取引制度が導入されました。
制度信用取引と一般信用取引
信用取引は、制度信用取引と一般信用取引があります。
制度信用取引では、資金・株式の返済期限(最長6か月)や品貸料等について、金融商品取引所によってきめられています。
一方、一般信用取引では、金銭等の返済期限や品貸料等について、証券会社と投資家の合意によってきめられます。制度信用取引よりも、金利が1%くらい高いです。
制度信用取引においては、資金・株式の返済期限が最長6か月と決められており、上場株式等の所有期間が1年を超えることがないため、信用取引等の方法による上場株式等の譲渡による所得は、事業所得又は雑所得として取り扱って差し支えないとされています(措通37の10・37の11共-2(注))。
信用買い(買建)、信用売り(売建)とは
① 信用買い(買建)の場合-信用取引により株式を買った場合
信用買いの場合は、証券会社から借りた資金で株式を買い付け、後に売却して資金を返済します。なお、現物株と同様に株価上昇で利益が発生します。
例えば、信用買いで100万円をした株式を160万円で売れれば、160万円-100万円=60万円が利益になるということです。ただし、株価の下落で損失が出るということです。
② 信用売り(売建) の場合 -信用取引により株式を売った場合
信用売りの場合は、証券会社から借りた株式を売りつけ、後に買い戻して株式を返済します。なお、現物株と逆のイメージで株価下落で利益が発生します。よって、現物株で発生する損失を相殺することもできるということになります(ヘッジ取引)。
例えば、信用売りで100万円をした株式を60万円で買えれば、100万円-60万円=40万円が利益になるということです。ただし、株価の上昇で損失が出るということです。
信用取引の決済方法
信用取引の場合、所定の期限内に、信用取引の決済をする必要があります。「買って売る」あるいは「売って買い戻す」という一連の行為を終わらせることを「手仕舞う(返済、 決済 )」といいます。
信用取引の決済方法には、主たる決済方法である反対売買による差金決済(売決済、買決済)と、現物株式の受渡しによる現物決済(現引、現渡)があります 。それぞれの信用取引の決済方法は次のとおりです。
信用取引した時点の株価のことを「建値」といい、取引約定後に反対売買されないまま残っている未決済分を「建玉」などといいます。
① 差金決済(信用買いに対しては「売り」、信用売りに対しては「買い」の反対売買を行う)
イ 売決済(信用買いの返済) … 証券会社から借りた資金で買付けた株式を市場で売却し、「株式を買う時に借りたお金」と「株式の売却代金」の差額(差金)の受渡しを行うことで決済する方法
ロ 買決済(信用売りの返済) … 証券会社から借りて売付けた株式について、売付けた株式と同種同量の株式を買戻し、「株式の売却代金」と「株式を買戻した時の代金」の差額(差金)の受渡しを行うことで決済する方法
② 現物決済(現金または株式を証券会社と直接受払いする決済)
イ 現引き(信用買いの返済) … 証券会社から借り入れた金銭を返済し、信用取引で買い付けていた株式を証券会社から現物株として引取る方法
ロ 現渡し(信用売りの返済)… 証券会社から借りて売付けた株式について、売付けた株式と同種同量の株式を自ら用意(もともと持っていた現物株式や別途調達した現物株式)して証券会社に引渡して返済し、売却代金を受取る方法
信用取引と所得税
① 差金決済
信用取引は上場株式やETFなど上場株式等の取引であるため、差金決済により、上場株式等の売却による所得が生じます。
信用取引の方法による上場株式等の売却による所得は、「雑所得(又は事業所得)」として取扱います(措通37の10・37の11共-2(注))。そして、現物取引の方法による上場株式等の売却と同様に、20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の税率による申告分離課税となります。
損失が生じた場合には、上場株式等の配当等との損益通算および繰越控除の対象となります。現物取引も行っていれば、信用取引とともにすべての損益を通算して譲渡益を確定させることになります。
なお、差金決済により生じた所得は、買い方・売り方ともその決済(反対売買)の日の属する年分の所得となり、取得価額は個別対応により計算します(「総平均法に準ずる方法」・「総平均法」は適用しません) 。
よって、同じ銘柄について差金決済の信用取引と現物取引をした場合には、差金決済の信用取引については取引ごとに取得価額を個別対応により計算し、現物取引については「総平均法に準ずる方法」または「総平均法」により取得価額を計算します。
② 現物決済
イ 現引き(信用買いの返済)
現物株式の取得であり売却ではないため、現引き時点で所得は生じません。現引きした株式を売却した場合、その取得日は信用取引で買建てた日(受渡日)となり、取得価額は現引の支払代金(払込価格)や手数料等となります。なお、その後、取得した現物株式を売却した場合の取扱いは、現物取引と同様であり、取得価額は「総平均法に準ずる方法」または「総平均法」により計算します。
ロ 現渡し(信用売りの返済)
手持ちの現物株式の売却として現物取引と同様の取扱いとなり、現渡した日が株式の譲渡日となり、譲渡価額は現渡しで受け取った代金(約定金額)となります (措通37の11-9) 。なお、取得価額は現渡しをした上場株式等の取得に要した金額により計算します。取得日は現渡しをした上場株式等と同一銘柄の上場株式等がある場合には、先入れ先出しによる取得日となりますが、上場株式等の売却益は保有期間によって税率は変わりません。
配当落調整金・金利・品貸料の取扱い
(1) 配当落調整金 (一般信用取引の場合100%、制度信用取引の場合84.685%)
買方が信用買いで買い付けた上場株式等は、すぐに、担保として証券会社に差し入れます。信用買い(買建)した上場株式等の名義は買い付けた者の名義ではなく証券会社等の名義のため、買い付けた者は、その買い付けた上場株式等の配当金を受取ることができません。また、後日の決済(売却)時には、配当落ちによる差額は株価下落となり、その分だけ損失となります。
一方、売方は、証券会社から借りた株式を売りつけ、後に買い戻して株式を返済しますが、証券会社が売方に、貸株をしなければ配当を受け取っていたはずです。
また、後日の決済(買い戻し)時には、売方は配当落ちによる株価下落により差額分だけ安く株式を購入できることになり、その分だけ益となります。
そのため、証券会社は、配当金相当額を、売方から徴収し、買方へ支払います。この金額を配当落調整金といいます。あくまでも配当落ちによる株価下落の調整部分であり、本来の配当金ではないため、税法上、配当所得ではなく、譲渡所得の計算に含まれます。よって、配当控除の対象にもなりません。
具体的には、 買方が支払を受ける配当落調整額に相当する額は、買付けに係る上場株式等の取得価額から控除し、 売方が支払う配当落調整額に相当する額は、上場株式等の譲渡に係る収入金額から控除します(措通37の11-7(5))。
なお、信用取引等の決済の日後に配当落調整額の授受が行われた場合は、その授受が行われた金額を買方は支払いを受けた年の総収入金額に算入し、売方は支払った年の必要経費に算入します(措通37の11-8)。
(2) 金利
信用取引の買方は、証券会社から資金の融資を受けて買建てを行うことから、その融資に係る利息を支払います(買方金利)。
一方、信用取引の売方は、株式を借りて売り、その売却代金を証券会社に預けることになるため、決済までの間の利息を受取ります(売方金利)。ただし、現状は0円のことが多いです。
この金利については、買方は信用取引に直接要した費用の額に算入します(措通37の11-7(1))。一方、売方(受取側)は信用売付けにかかる株式の売却による収入金額に算入します(措通37の11-7(3))。
(3)品貸料
信用売りの場合、売方は売却する株式を借りるわけですから、これに対する貸株料がかかります。品貸料が生じた銘柄については、信用取引の売方が品貸料を支払い、信用取引の買方が品貸料を受取ることになります。
この品貸料については、買方は信用買付けにかかる株式の売却による収入金額に算入します(措通37の11-7(2))。一方、売方は信用取引に直接要した費用の額に算入します(措通37の11-7(4))。
両建取引(現物保有+ 制度信用売建)で権利処理をおこなった場合
両建取引をすれば、例えば、現物銘柄の配当金100万円と制度信用取引にともなう支払調整金額846,850円の支払いとなり差引き153,150円の利益となります。153,150円に対して、特定口座内であれば通算されて31,112円(20.315%)が源泉徴収されます。結果、 153,150円 - 31,112円 =122,038円が正味の儲けとなります。ただし、逆日歩等の取引リスクは生じます。
通達
措通37の11-7(信用取引等に係る譲渡益の計算)
上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算に当たり、信用取引等の方法により上場株式等の買付け又は売付けを行った者が、当該信用取引等に関し、金融商品取引業者に支払う又は金融商品取引業者から支払を受ける次のものについては、それぞれ次に掲げるところによることに留意する。
(1) 買付けを行った者が金融商品取引業者に支払う買委託手数料、委託手数料等に係る消費税及び地方消費税、名義書換料並びに金利に相当する額は、当該信用取引等に伴い直接要した費用の額に算入する。
(2) 買付けを行った者が金融商品取引業者から支払を受ける品貸料の額は、上場株式等の譲渡に係る収入金額に算入する。
(3) 売付けを行った者が金融商品取引業者から支払を受ける金利に相当する額は、上場株式等の譲渡に係る収入金額に算入する。
(4) 売付けを行った者が金融商品取引業者に支払う売委託手数料、委託手数料等に係る消費税及び地方消費税並びに品貸料の額は、当該信用取引等に伴い直接要した費用の額に算入する。
(5) 買付けを行った者が金融商品取引業者から支払を受ける配当落調整額及び権利処理価額に相当する額は、買付けに係る上場株式等の取得価額から控除し、売付けを行った者が金融商品取引業者に支払う配当落調整額及び権利処理価額に相当する額は、上場株式等の譲渡に係る収入金額から控除する。
(注) 「配当落調整額」とは、信用取引等に係る株式につき配当が付与された場合において、金融商品取引業者が売付けを行った者から徴収し又は買付けを行った者に支払う当該配当に相当する金銭の額をいい、「権利処理価額」とは、信用取引等に係る株式につき、株式分割、株式無償割当て及び会社分割による株式を受ける権利、新株予約権(新投資口予約権を含む。)又は新株予約権の割当てを受ける権利が付与された場合において、金融商品取引業者が売付けを行った者から徴収し又は買付けを行った者に支払うこれらの権利の価額に相当する金銭の額をいう。
37の11-8(信用取引等の決済の日後に授受される配当落調整額)
上場株式等に係る譲渡所得等の金額を計算する場合において、信用取引等の決済の日後に配当落調整額の授受が行われた場合は、その授受が行われた金額をその授受が行われた年の総収入金額又は必要経費に算入することに留意する。
37の11-9(信用取引において現渡しの方法により決済を行った場合の所得計算)
金融商品取引法第156条の24第1項《免許及び免許の申請》の規定による信用取引の方法により上場株式等の売付けを行った場合において、いわゆる現渡しの方法により決済を行ったときの上場株式等に係る譲渡所得等の金額は、当該売付けの際の約定金額により、当該現渡しをした時に、当該現渡しをした上場株式等を譲渡したものとして計算するのであるから留意する。この場合において、当該上場株式等に係る取得価額は、当該現渡しをした上場株式等の取得に要した金額により、また、その取得の日は当該現渡しをした上場株式等及びそれと同一銘柄の上場株式等のうち先に取得したものから順次譲渡をしたものとした場合に当該譲渡をしたものとされる当該現渡しをした上場株式等の取得の日による。