概要

 株式会社と違い、合同会社では社員の死亡によって当然に社員の地位が相続人に引き継がれるものではありません(会社法607①三)。

 合同会社では社員同士の結びつきや信用関係が重要視されているため、ある社員が死亡した場合に、当然にその相続人が社員になってしまうならば、他の社員に影響を与えてしまい、会社の運営がうまくいかなく場合があるからです。

 合同会社における社員とは、株式会社における株主と取締役を併せ持った性格があり、原則として、業務を執行する立場であるからです。

 なお、合同会社の場合は、死亡または合併による消滅は社員の法定退社の事由となります。そして、相続人その他の一般承継人は持分の払い戻しを受けます(会社法611①)。

 社員1名の合同会社の場合、社員が亡くなると法定解散事由となってしまいます(会社法641四)。

 ただし、社員が死亡した場合または合併により消滅した場合における当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する旨を定款で定めることができます(会社法608①)。定款に記載する場合は、「社員及び出資」の章の中に記載するとよいでしょう。

 社員1名の合同会社の場合は、必ず、定款で定めておいてください。また、合同会社の社員である経営者が亡くなったときでもスムーズに後継者に事業承継をしたいと思うなら、定款で定めることが必要です。

 なお、「承継する旨」の定款の定めがある場合には、相続人その他の一般承継人(社員以外の者)は持分を承継したときに、その持分を有する社員となります(会社法608②)。そして、その一般承継人にかかわる定款の変更がされたものとみなされます(会社法608③)。

 また、相続による一般承継人が2人以上ある場合には、各一般承継人は、承継した持分についての権利を行使する者1人を定めなければ、その持分についての権利を行使することができません。ただし、合同会社が各一般承継人が権利を行使することに同意したならば、かまいません(会社法608⑤)。

定款の定め方

 定款の定め方は、いろいろなパターンが考えられます。

「例えば、社員の死亡時に特定の相続人が持分を承継するという定めも可能である(省略)。また、①相続人が希望する場合に持分を承継する、②他の社員が同意をした場合に相続人が持分を承継する、③相続人は(他の社員の同意や相続人の意思表示などがなくとも)当然に持分を承継する、といった定めもいずれも可能である(省略)。合併の場合も、同様に他の社員の同意を条件としたりするなどの定め方が可能となろう」(神田秀樹(編)会社法コンメンタール第14巻239ページより引用)

 なお、特定の相続人に持分を承継させる場合には、その旨についての定款の記載だけでなく遺言書の作成も必要になります。

定款例

(社員の相続)
第○条 社員山田太郎が死亡した場合には、当該社員の相続人山田花子は、社員山田太郎の持分を承継して社員となる。

(社員の相続)
第○条 社員が死亡した場合には、当該社員の相続人は、当該社員の持分を承継して社員となることができる。

(社員の相続)
第○条 社員が死亡した場合には、当該社員の相続人は、他の社員全員の承諾を得て、当該社員の持分を承継して社員となる。

(社員の相続)
第○条 社員が死亡した場合には、当該社員の相続人は、当該社員の持分を承継して社員となる。

(社員の相続及び合併)
第○条 社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合には、当該社員の相続人その他の一般承継人は、当該社員の持分を承継して社員となる。

社員の相続と相続税

(1)持分の払戻しを受ける場合(「承継する旨」の定款の定めがない場合)

 持分の払戻しについては、「退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない。」(会社法611②)とされていることから、持分の払戻請求権として評価します。

 そして、その価額は、評価すべき持分会社の課税時期における各資産を財産評価基本通達の定めにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の合計額を控除した金額(評価額と簿価との差額に係る法人税額等相当額の控除は行わない。)に、持分を乗じて計算した金額となります。

払戻請求権の価額 = (各資産の相続税評価額の合計額-各負債の合計額) × 持分割合

 なお、払戻請求額が元本(出資)を超える場合には、死亡した社員に対する「みなし配当課税(所法25①六)」が生じます。つまり、相続税の問題だけでなく、所得税の問題も生じます。神戸地裁平成4年12月25日判決(税資193号1189頁)において、払戻請求権について相続税が課され、また、みなし配当として所得税が課されるとすると、二重に課税されるという納税者の主張は採用されませんでした。

 社員複数で合同会社を運営している場合、社員1名が亡くなっても存続は可能です。ただし、持分相当の払い戻しを遺族にすることになるので、会社の存続が厳しくなる可能性があります。

 例えば、持分割合が50%づつの社員2名が合同会社を運営していて、社員1名が亡くなった場合、ごそっと会社の半分の財産がなくなる感じです。また、資本金の額の減少にもなるでしょう。

 なお、払戻を受ける遺族の方も大変です。亡くなった人の確定申告の場合、準確定申告となり、通常の確定申告と違い、申告期限は亡くなった日(相続の開始があったことを知った日)の翌日から4ヶ月以内です。

 例えば7月1日に亡くなった場合は、11月1日までに準確定申告をする必要があります。納税の期限も申告期限と同じです。

 持分払戻請求権の額を評価するのも通常簡単ではないため、4ヶ月以内に申告するのは容易ではありません。また、会社側の協力なしでは払戻請求権の額を評価することができませんが、積極的に協力してくれるとも限りません。

 申告期限内に申告することができなければ期限後申告となり、本税の他に、通常、無申告加算税もかかってしまいます(通則法66)。

 期限後申告となったことに「正当な理由がある場合」は無申告加算税はかかりませんが、「持分払戻請求権の額を評価するには4か月で額を確定できるほど容易なものではない」というぐらいでは、認められるのは難しいでしょう。

 合同会社ではないですが、期限内申告書を提出できなかったのは、医療法人に対する出資持分の払戻請求権の金額が法定申告期限までに確定しなかったこと等が原因である旨の納税者の主張が認められなかった令和2年9月4日裁決(熊裁(所)令2第1号)があります。

 また、払戻請求権の額を評価でき4ヶ月以内に申告ができたとしても、納税の期限も申告期限と同じです。

 会社側も遺族に対してお金をすぐに用意できるとは限りません。会社の資産が現金預金しかないというのは、ほとんどないからです。

 申告・納税期限までに、会社から遺族に対して実際に払戻請求権に係る金銭の交付がされていなくても、払戻請求権という経済的価値があるため、みなし配当に対する所得税の申告と納税が必要となる場合があり、遺族は所得税を負担することとなり、個人で負担することは不可能な場合もあるでしょう。

(2)持分を承継する場合(「承継する旨」の定款の定めがある場合)

 出資持分を承継する場合には、取引相場のない株式の評価方法に準じて出資の価額を評価します(評基通194、178~193)。よって、出資一口当りの評価額を算出し、相続する口数を掛けて評価額を計算します。

 ただし、合同会社の場合、通常、定款には出資口数の定めの記載がないことが多いので、その場合、実務上では1口50円、1口500円等の仮の口数でいくつか計算してみて、端数処理で影響の出ない口数によって評価をします。

 例えば、500万円の資本金の場合、500万円を1口1円として500万口という形で評価をし、仮に1口の価格が0.9円という評価額になると端数切捨てで0円評価になってしまうことになります(評価明細書第5表の⑪欄は表示単位が円であり、円未満を切り捨てて記載することとされています)。

 このような場合だと1口1円ではなく1口50円、または1口500円として計算することが望ましいということになります(もちろん、1口の金額を1,000円又は1万円などと仮定して算定する方が妥当であれば、それを用います)。

 経過措置型医療法人の場合も、通常、定款に出資口数の定めがありませんが、出資金を評価する場合には1口50円換算で評価計算をするようなことが行われています。

 なお、(2)の場合は(1)と違って相続税のみ考えればよいです。

(3)死亡した社員の会社債務についての債務控除の適用

 合名会社、合資会社の会社財産をもって会社の債務を完済することができない状態にあるときにおいて、無限責任社員が死亡した場合、その死亡した無限責任社員の負担すべき持分に応ずる会社の債務超過額は、相続税の計算上、被相続人の債務として相続財産から控除することができる(国税庁HP質疑応答事例「合名会社等の無限責任社員の会社債務についての債務控除の適用」)。

 しかしながら、合同会社は合名会社、合資会社と違い、その社員の全部が有限責任社員となり、無限責任社員は存在しない(会社法576④)。そして、有限責任社員は、その出資の価額を限度として、持分会社の債務を弁済する責任を負う(会社法580②)だけなので、合名会社、合資会社の無限責任社員のように、会社債務についての債務控除の適用はないということになる。

神戸地裁平成4年12月25日判決(税資193号1189頁)(棄却)(確定)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 原告Xは、皮革製品の小売業を営む出資金4000万円の合資会社であり、いわゆる同族会社である。

② 昭和60年5月12日、Xの無限責任社員であるN1が死亡し、Xを退社したが、Xには社員資格の承継について定款に別段の定めがなく、N1の相続人であるN2らは当然にはXの社員になることができないため、Xは昭和61年9月19日、N2らとの間でN1の出資持分を払い戻す旨の協定書を作成し、同年11月4日、右協定書に基づいて、N2らに対し、N1の出資持分払戻金(以下「本件払戻金」という。)として3982万円余を支払つた。

③ 所轄税務署長は、本件払戻金のうちN1の出資金の額73万円を超える部分の3909万円余(以下「本件金額」という。)は、所得税法25条1項2号に規定する配当等の額とみなす金額(以下「みなし配当」という。)に当たるとして、Xに対し、平成元年1月27日付けで、昭和61年11月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、所得税法181条1項、182条2号の規定により、本税の額を781万円余(3909万円余×20%)とする納税告知(以下「本件納税告知」という。)及び国税通則法67条1項の規定により不納付加算税の額を78万円余とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定」といい、本件納税告知と併せて「本件処分」という。)をした。

④ Xは、これに対し、死亡退社の場合は所得税の対象にならないなどと主張して、処分の取消しを求めた。

(2)本件の主な争点

 本件の争点は、①合資会社の無限責任社員が死亡退社した場合の出資持分払戻金のうち出資金の額を超える部分はみなし配当に当たるかどうか、②右部分に対して課税すると相続人らの相続税と二重に課税することにならないかどうか、である。

(3)判決要旨(棄却)(確定)

① 所得税法25条1項2号は、株主又は合名会社、合資会社若しくは有限会社の社員その他法人の出資者(法人税法2条15号、以下「法人の株主等」という。)が、当該法人からの退社又は脱退により出資持分の払戻しとして交付される金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本等の金額のうちその交付の基因となつた株式(出資を含む。)に係る部分の金額を超える部分の金額は、利益の配当又は剰余金の分配の額とみなすと規定している。

② 法人が退社した株主等に対してその出資持分を払い戻すことは、形式的には法人の利益の配当には当たらないものの、当該株主等が入社してから退社するまでの間に社内に蓄積された利益積立金が出資持分の払戻しという形ではあるが社外に流出するものであるから、実質的には利益の配当に相当するということができる。そこで、所得税法は、右条項を設けて、法人が退社した株主等に出資持分を払い戻した場合に、この株主等が受ける経済的利益を配当とみなして課税することにしたものである。

③ 合名会社の社員及び合資会社の無限責任社員については、その死亡が退社原因のひとつとされている(商法147条、85条)が、所得税法25条1項2号の趣旨からすると、社員等が死亡により退社した場合であつても、社内に蓄積された利益が社外に流出するという点では他の理由による退社の場合と同じであるから、死亡退社による持分の払戻しの場合の出資の額を超える部分をみなし配当に当たらないと解して、他の退社事由の場合と異なつた取扱いをするのは合理的ではなく、かえつて、他の事由による退職の場合と異なつた取扱いをするならば、課税上の不均衡さえ生じることになる。また、所得税法には、同法25条1項2号の「退社」の意味について特に規定がなく、退社原因の中から、特に死亡による場合を除いていないし、商法における退社の意味と同様に解すべきであるから、合名会社の社員等が死亡によつて退社する場合であつても、退社による持分払戻請求権に係る所得のうち出資の額を超える部分は、その所得が誰に帰属するかはともかく、みなし配当に当たると解するのが相当である。
 前記争いのない事実によれば、合資会社であるXは、同社の無限責任社員が死亡によつて同社を退社したことに伴つて、右死亡社員の出資持分を払い戻したのであるから、この払戻金のうちの本件金額はみなし配当に当たる。

④ Xは、本件払戻金は相続税の対象になる相続財産を構成するものであるから、N2らに対する相続税の問題として処理すべきであると主張する。
 所得税法9条1項20号は、相続、遺贈又は個人からの贈与(以下「相続等」という。)により取得するもの(相続等により取得したものとみなされるものを含む。)については所得税を課さないと規定している。このような財産については、相続税又は贈与税が課されるため、更に所得税を課税すると二重に課税することになるから、そのような二重課税を排除するため、所得税法上はこれを非課税扱いにしたのである。
 N2らは、N1が死亡したため同人の出資持分の払戻しを受ける請求権(以下「本件払戻請求権」という。)を相続によつて取得したのであるから、右請求権について相続税を課される(相続税法1条1項、2条1項)ことになり、本件金額がみなし配当として所得税が課されるとすると、二重に課税されることになるようにみえないわけではない。

⑤ しかし、本件払戻請求権は、Xの社員であるN1の出資持分がN1の死亡によつて持分払戻請求権に転化し、一旦被相続人に帰属した後に、被相続人の遺産として相続人に承継されたものと解するのが相当である。そして、本件処分は、死亡社員であるN1に対してみなし配当所得が発生したとしてされたものであるから、相続人らの相続税と二重課税として所得税法上非課税とされるものということはできない。(実質的にも、会社から社外に利益が流出するところに着目したみなし配当課税と、被相続人から相続人に財産が承継されることに着目した相続税とが重なり合うということはできない。なお、持分払戻請求権が一旦N1に帰属し、N2らがそれを相続によつて取得した場合、このN2らが相続によつて取得した請求権は所得税法上一応一時所得に該当するが、この所得については、まさにN2らの課される相続税と二重課税の関係にあるから、前記条項によつて非課税とされるべきものであることはいうまでもない。)

⑥ Xは、これに対して、本件請求権は一旦N1に帰属し改めてN2らが相続したという関係にないと主張する。確かに、本件のような社員の死亡退社による持分払戻請求権と一見類似しているようにみえる死亡退職金や生命保険の死亡保険金(以下「死亡退職金等」という。)などについては、受給者の固有財産と一般に解されており、相続税法が死亡退職金等を相続等によつて取得したものとみなすと規定している(3条1項1号、2号)のも、これらの権利が被相続人から相続等によつて取得したものには当たらないという前提に立つているためであると解することができる。しかし、死亡退職金等は、それらの給付が退職金の支給規定や保険契約に基づいて支給されるもので、右規定等によれば内縁の妻など相続人以外の者も支払の対象になつていること、右規定等が定めた給付事由である被相続人の死亡という事実が発生したときに初めて支払われるものであることなどから、一旦被相続人に帰属した後に相続人に相続されるというのではなく、直接受給者に帰属するその固有財産と解されているのである。
 これに対し、本件払戻請求権は、Xの定款に別段の定めもなく、前述のような支給規定や契約に基づくものではなく、退社したN1が本来支払を受けるはずのところをその同人が死亡しているためにN2らが支払を受けるに過ぎない場合であり、死亡退職金等の場合と同様に直接相続人に帰属すると解することはできず、Xの右主張は採用することができない。

⑦ また、Xは、死者は権利の主体とはなりえないなどと主張し右解釈を争う。しかし、持分払戻請求権は、株主等が退社したことによつて社員が有していた出資持分が転化したものであつて、実質は出資持分の経済的側面そのものであり、両者の間には同一性が認められるのであるから、もともと出資持分を有していた被相続人に払戻請求権が帰属すると解したからといつて、死者に権利を帰属させたと非難するには当たらないものである。さらに、相続とは被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することであり(民法896条)、前述のとおり持分払戻請求権が相続人らに直接帰属すると解する根拠はなんら存在しないのであるから、もしも右請求権が被相続人に帰属しないというのであれば、右請求権は相続による包括承継の対象ではないことになり、N2らは右請求権を取得できないことになる。したがつて、持分払戻請求権が被相続人に帰属しないというXの右主張は、本件請求権が相続税の対象であるという前提と相容れないものであり、採用することはできない。

期限内申告書を提出できなかったのは、医療法人に対する出資持分の払戻請求権の金額が法定申告期限までに確定しなかったこと等が原因である旨の納税者の主張が認められなかった令和2年9月4日裁決(熊裁(所)令2第1号)

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人X(被相続人の兄)が、被相続人に係る所得税等の期限後申告書を提出したため、原処分庁が、所得税等に係る無申告加算税の賦課決定処分をしたことに対し、Xが、期限内申告書を提出できなかったのは、被相続人の医療法人に対する出資持分の払戻請求権の金額が法定申告期限までに確定しなかったこと等が原因であり、正当な理由があるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2)本件の主な争点

 期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か。

(3)裁決要旨

① Xは、一般的に医療法人の出資持分払戻請求権の額を評価するには4か月で額を確定できるほど容易なものではないこと等の理由から、出資持分の額の払戻しを受けてから又は出資持分の額が定まってから4か月以内に準確定申告がされた場合は、「正当な理由があると認められる場合」に該当すると解すべきである旨主張する。しかしながら、Xの主張する事情は、Xの主観に基づく事情であるといわざるを得ず、当該事情は、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情とは認められないから、「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。

② 国税通則法(以下「通則法」という。)及び所得税法には、判明した事実からすれば申告義務が生じる場合に所得金額等の全容が判明しないことを理由として、申告書の提出自体を免除し又は猶予する旨を定めた規定は見当たらず、法定申告期限内に判明したところに基づいて申告した場合において、その後に所得金額等の全容が判明したときは、通則法19条《修正申告》1項又は同法23条《更正の請求》1項をすることができるものとする規定が設けられている。これらのことからすれば、Xの主張する事情は、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情とは認められない。

③ Xは、本件出資持分の払戻額を〇〇とみて準確定申告をすれば、少なくとも〇〇の納税を医療法人からの配当の支払を受けないまま負担することとなり、一個人で負担することは不可能である旨主張する。しかしながら、申告は納税者の判断と責任において行うものである上、Xの主張する事情であるXが現実に納税資金を有しているか否かはあくまでもXの主観的な事情にすぎず、納税資金がないことは通則法46条《納税の猶予の要件等》等の規定により徴収上考慮されることがあるとしても、このことをもって申告書の提出義務が左右されるものではない。

持分会社の社員の死亡退社に伴う持分払戻請求権の価額相当額のうち、出資した金額を超える部分はみなし配当に該当するとされた事例-令和4年6月2日裁決(裁事127集)(棄却)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 審査請求人Xらは、平成28年10月○日に死亡したDの共同相続人である(以下、Dの死亡により開始した相続を「本件相続」といい、本件相続の開始日を「本件相続開始日」という。)。

② Dは、昭和25年2月○日に設立された合資会社E社の無限責任社員であった。
 なお、本件相続の開始直前における本件合資会社に対する出資の総額は2,000,000円であり、このうちDの出資(以下「本件出資」という。)の額は○○○○円であった。

③ E社の定款には、社員が死亡した場合に当該社員の相続人が当該社員の持分を承継する旨の定め及びその場合の持分の払戻しに関する定めはなく、また、社員の退社による持分の払戻しの計算方法に関する定めもない。

④ Xらは、E社の社員として、死亡により退社したDのE社に対する持分払戻請求権(以下「本件払戻請求権」という。)の払戻金額を零円とすることに同意する旨を記載した平成29年1月28日付の「同意書」と題する書面(以下「本件同意書」という。)を作成した。

⑤ Dの共同相続人であるXらは、Dの遺産について遺産分割協議を行い、本件払戻請求権について、Xらが各5分の1を取得する旨を記載した平成29年7月16日付の遺産分割協議書を作成した。

⑥ E社は、本件相続開始日から原処分が行われた令和元年8月9日までの間において、Xらに対して本件払戻請求権に係る金銭の交付を行っていない。

⑦ Xらは、Dに係る平成28年分の所得税等について法定申告期限までに申告した(以下「本件申告」という。)。

⑧ 原処分庁は、これに対し、Dが死亡退社したことに伴い発生した持分払戻請求権の価額のうちDの出資額を超える金額は、Dに対する配当とみなされるとして、そのみなし配当に係る所得(以下「本件みなし配当所得」という。)が申告されていないとして、令和元年8月9日付で、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

⑨ これに対し、Dの相続人であるXらが、上記持分払戻請求権に係る金銭等の交付を受けておらず、配当とみなされる金額はないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2)本件の主な争点

 DがE社を死亡退社したことにより、Dにおいて、みなし配当が認められるか否かである。

(3)裁決要旨(棄却)

① 所得税法25条1項5号は、法人からの社員の退社による持分の払戻しにより当該社員が交付を受ける金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の出資に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額に係る金銭その他の資産を剰余金の配当等とみなす旨規定しているところ、これは、法人が退社した社員に対して持分を払い戻すことは、形式的には法人の利益配当に当たらないものの、当該社員が入社してから退社するまでの間に社内に蓄積された利益積立金が持分の払戻しという形で社外へ流出するものであって、実質的には利益配当に相当するということができるから、これを剰余金の配当等とみなして課税することとしたものである。

② 会社法607条1項柱書及び同項3号は、持分会社の社員は、死亡により退社する旨規定しているところ、Dは、平成28年10月○日に死亡したので、同日においてE社を退社したことが認められる。
そして、会社法611条1項は、退社した持分会社の社員は、同法608条1項及び2項の規定により当該社員の一般承継人が社員となった場合を除き、その出資の種類を問わず、その持分の払戻しを受けることができる旨を、同法611条2項は、退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない旨をそれぞれ規定しており、E社の定款に社員が死亡した場合に、当該社員の相続人が当該社員の持分を承継する旨の定めは設けられていないから、Dは、死亡退社時の本件合資会社の財産の状況に従って、その持分の払戻しを受けることとなる。
 そうすると、Dは、平成28年10月○日にE社を死亡退社したことにより、同日、E社に対しその持分の払戻しを請求できる権利(本件払戻請求権)を取得したものと認められる。

③ 所得税法は、現実の収入がなくとも、その収入の原因たる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして課税するという、いわゆる権利確定主義を採用しているところ、持分会社の社員が死亡退社した場合には、その社員の有していた社員権(出資)が死亡と同時に持分払戻請求権に転換し、その転換した時点において、持分払戻請求権の価額のうち元本(出資)を超える部分が、所得税法25条1項の規定により剰余金の配当等(みなし配当)として当該死亡社員の所得を構成するものと解される。本件の場合には、本件払戻請求権を承継した共同相続人であるXらに対して本件相続開始日から令和元年8月9日までの間に本件払戻請求権に係る金銭の支払はされていないのであるが、Dは死亡と同時に本件払戻請求権を取得したのであるから、Dについて社員権が本件払戻請求権に転換した時点、すなわち本件相続開始日において、本件払戻請求権の価額相当額の経済的価値がDにもたらされたといえ、所得税法25条の「金銭その他の資産の交付を受けた場合」に該当し、このうち本件出資に対応する部分を超える金額が、剰余金の配当等としてDの所得を構成するものと認められる。

④ 会社法611条2項は、退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない旨規定し、また、E社の定款に退社による持分の払戻し及び払戻しの計算に関する特段の定めは設けられていないから、E社は、本件払戻請求権に基づきDあるいは共同相続人であるXらに対し、Dの死亡退社の時におけるE社の財産の状況に応じた持分の払戻しをすることになると認められる。そうすると、退社によりDにもたらされた経済的価値、すなわち本件払戻請求権の価額については、Dの死亡退社の時におけるE社の財産の状況により決せられることとなる。この点、本件払戻請求権の価額について、原処分においては、本件相続開始日におけるE社の各資産を評価通達の定めにより評価した価額の合計額から、本件相続開始日における各負債の合計額を控除した金額に、本件出資のE社に対する出資割合を乗じて計算しており、この計算方法は、Dの退社時のE社の財産の状況に従った合理的な方法と認められ、当審判所の調査及び審理の結果によっても、これと異なる計算方法によることが相当と認められる事情もない。
 したがって、上記計算方法により計算すると、本件払戻請求権の価額が、DがE社から死亡退社したことによる持分の払戻しとしてDにもたらされた経済的価値に相当すると認められる。

⑤ 以上によれば、Dは、本件相続開始日に、E社から死亡退社による持分の払戻しとして本件払戻請求権を取得し、本件払戻請求権の価額に相当する金銭その他の資産の交付を受けたのであるから、このうち、その交付の基因となった本件出資に対応する部分の金額を超える金額について、Dのみなし配当と認められる。