(1)事案の概要
本件は、平成25年12月期の法人税等について原告Xを退職した元代表取締役甲への退職給与(以下「本件役員退職給与」という。)の支給額が損金の額に算入されるとして、Xが申告をしたところ、所轄税務署長から、本件役員退職給与の額には法人税法34条2項の「不相当に高額な部分の金額」があるとして、法人税等の再更正処分等を受けたことに対し、取消しを求める事案である(その他、青色承認取消処分、重加算税賦課決定処分の取消しを求める事案等があるが省略)。
○本件における事実等は、次のとおりである。
① Xは、肉用牛の飼育、肥育及び販売等を目的とする株式会社(12月決算)であり、農業生産法人である。甲は、Xの設立時に取締役に就任するとともに代表取締役に就任し、Xの代表取締役を退任するとともに取締役を退任した者(勤続年数34年)である。
② Xは、平成25年2月7日に開催した臨時株主総会において、甲の退職慰労金(本件役員退職給与)として2億9920万円を支給する旨を決議した。本件役員退職給与は、甲がXを退職する直前まで役員報酬として支給を受けていた月額110万円を基礎とし、勤続年数を34年及び功績倍率を8倍として、これらを乗じて算定されている。Xは、平成25年3月1日、甲に対し、本件役員退職給与を支給した。
③ 平成25年12月期の所得の金額の計算上、法人税について青色申告の承認を受けていたXは、提出期限までに申告したが、租税特別措置法(以下「措置法」という。)67条の3第1項2号に定める農業協同組合等に委託して行う肉用牛の売却に係る所得の課税の特例(以下「本件特例」という。)が適用されるとして、かつ、本件役員退職給与の支給額が損金の額に算入されるとして、申告をした。
④ 当初調査に基づき、所轄税務署長は、平成27年3月17日付けで、Xに対し、肉用牛の販売を本件特例が適用される取引に仮装していたとして、法人税の青色申告の承認の取消処分並びに法人税等の更正処分等をした。
⑤ Xは、平成27年3月25日付けで、関東信越国税局長に対し、上記の各処分についての異議申立てをしたが、関東信越国税局長は、同年6月2日付けで、同異議申立てを棄却する旨の決定をした。
⑥ 再調査に基づき、所轄税務署長は、平成27年6月29日付けで、Xに対し、Xが損金の額に算入した本件役員退職給与の額の一部が法人税法34条2項の「不相当に高額な部分の金額」に当たり、損金の額に算入されないことを理由として、法人税等の再更正処分等をした。
⑦ Xは、平成27年7月3日付けで、国税不服審判所長に対し、上記の各処分についての審査請求をし、同年8月24日付けで、所轄税務署長に対し、本件再更正処分等についての異議申立てをし、同異議申立ては、所轄税務署長が関係書類等を国税不服審判所長に送付したことから、国税不服審判所長に対する審査請求とみなされた。国税不服審判所長は、平成28年6月27日付けで、上記審査請求をいずれも棄却する旨の裁決(平成28年6月27日裁決・関裁(法)平27第65号)をした。
⑧ Xは、平成28年12月22日、本件訴えを提起した。
(2)判決要旨(棄却)(控訴)
① 被告Yは、本件役員退職給与のうち相当と認められる金額の算定方法として、平均功績倍率法を用いている。その算定要素のうち、まず、最終月額報酬額は、通常、当該退職役員の在任期間中における報酬の最高額を示すものであるとともに、当該退職役員の在任期間中における法人に対する功績の程度を最もよく反映しているものということができる。また、勤続年数は、法人税法施行令70条2号が規定する「当該役員のその内国法人の業務に従事した期間」に相当する。さらに、功績倍率は、これらの要素以外の役員退職給与の額に影響を及ぼす一切の事情を総合評価した係数であり、同業類似法人における功績倍率の平均値(平均功績倍率)を算定することにより、同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性が捨象され、より平準化された数値が得られるものということができる。このような各算定要素を用いて役員退職給与の相当額を算定しようとする平均功績倍率法は、その同業類似法人の抽出が合理的に行われる限り、法人税法34条2項及び法人税法施行令70条2号の趣旨に合致する合理的な方法というべきである。
② Xは、功績倍率の最高値又は勤続年数1年当たりの役員退職給与額の最高額を用いるべきである旨主張する。本件において合理的と認められる抽出基準により同業類似法人を抽出した結果、3法人という相当数の法人が抽出されている上、これらの法人の功績倍率には極端なばらつきがないのであって、本件において役員退職給与の相当額を算定するための指標として平均功績倍率を採用することが相当でないとか、最高功績倍率等がより適切であるとみるべき事情は見当たらない。したがって、Xの主張は採用できない。
③ Yが採用したXの同業類似法人の抽出基準はいずれも合理的であるということができる。そして、上記抽出基準に該当する原告の同業類似法人3法人の支給した役員退職給与に係る功績倍率は、1.17、1.34、0.65であり、その平均功績倍率は1.06であることが認められる。甲の最終月額報酬額は110万円、役員(代表取締役)としての勤続年数は34年であり、上記平均功績倍率にこれらを乗じると、3964万円余となる。
④ これに対し、Xは、甲の功績からすれば、最終月額報酬額(110万円)は、甲のXに対する功績の程度を反映したものではない旨を主張する。Xにおいては甲の役員報酬額が最も高額であったこと、平成10年頃からは現代表者が飼養管理部門、甲が財務、金融、人事等の管理部門を中心に担当しており、重要事項については2人で協議して決定していたこと、甲の具体的な貢献の態様及び程度は必ずしも明らかではないことからすれば、通常当該役員の在職期間中における法人に対する功績の程度を反映していると解される最終月額報酬額が、甲についてそうではなかったと認めるには足りないというべきである。 ⑤ 以上によれば、本件役員退職給与の額である2億9920万円のうち、上記3964万円余を超える2億5955万円余については、「不相当に高額な部分の金額」に該当すると認められる。