令和4年度税制改正
外国為替証拠金取引(FX取引)は、デリバティブ取引に該当しますが、クロスボーダーで行う金融商品取引法の市場デリバティブ取引及び店頭デリバティブ取引の決済により生ずる所得(以下「デリバティブ所得」といいます。)については、恒久的施設等に帰属するデリバティブ所得を除き、従来は、以下のように取り扱われていました。
・ 非居住者又は外国法人に係るデリバティブ所得は、国内源泉所得である「国内資産の運用・保有所得」に該当する
・ 居住者又は内国法人に係るデリバティブ所得は、国外源泉所得である「国外資産の運用・保有所得」に該当する
それが、「令和4年度税制改正の大綱」において、恒久的施設等に帰属するデリバティブ所得を除き、今後は、以下の取扱いがされることが法令上明確化されました。
・ 非居住者又は外国法人に係るデリバティブ所得は、国内源泉所得である「国内資産の運用・保有所得」に該当しない
・ 居住者又は内国法人に係るデリバティブ所得は、国外源泉所得である「国外資産の運用・保有所得」に該当しない
給与所得者が海外出向中であれば、一般的には恒久的施設を有しない非居住者に該当します。
つまり、非居住者又は外国法人が日本の金融機関等との取引により生じたデリバティブ所得は、国内源泉所得に該当しないため日本で課税されません(ただし、海外で課税)。
一方、居住者又は内国法人が海外の金融機関等との取引により生じたデリバティブ所得は、国外源泉所得に該当しないため日本で課税されます(外国税額控除の対象外)。
なお、上記の取扱いの変更は、過去に遡って適用されます。取扱いの変更により、税金が納め過ぎとなる方については、更正の請求を行い、納めすぎた税金の還付を求めること等ができます(ただし、一定の期間まで)。
〇国税庁HP「クロスボーダーで行うデリバティブ取引の決済により生ずる所得の取扱いについて」
https://www.nta.go.jp/information/other/0021012-080.pdf
改正の原因となった争い事例
下記の平成31年3月25日裁決(裁事114集)において、納税者の主張が認められなかったため、舞台を東京地裁に代えて、引き続き争われていました。
しかし、国税庁の方針変更があったため、課税庁側側が減額更正を行ない、実質的に、納税者の勝ちとなりました。
下記の裁決は国税不服審判所HPで公表されていたのですが、現在は、見れない状況です。
非居住者の店頭外国為替証拠金取引(FX取引)で生じた所得は国内源泉所得に該当するとされた事例-平成31年3月25日裁決(裁事114集)(棄却)
(1)事案の概要
本件は、日本に恒久的施設を有しない非居住者である審査請求人Xが日本の金融商品取引業者との間で行った店頭外国為替証拠金取引(FX取引)により生じた所得について、所轄税務署長が国内源泉所得たる国内にある資産の運用により生ずる所得に該当するなどとして所得税等の更正処分等をしたため、当該処分の適法性が争われた事案である。
店頭外国為替証拠金取引とは、店頭デリバティブのうち、売買の当事者が将来の一定の期間において通貨及びその対価の授受を約する売買であって、当該売買の目的となっている通貨の売戻し又は買戻し等の行為をしたときに差金の授受によって決済することができる取引をいう(金融商品取引法2㉒一)。
○本裁決における店頭外国為替証拠金取引に関する事実等は、次のとおりである。
① Xは、平成25年6月18日、店頭外国為替証拠金取引を始めるため、日本国内に営業所を有するK社に店頭外国為替証拠金取引口座(以下「取引口座」という。)の開設を申し込んだ。
② Xは、勤務先から中華人民共和国への転任命令がされたことにより、平成25年8月26日以降、国内に恒久的施設を有しない非居住者となった。
③ Xの行ったインターネットによるX名義の取引口座(以下「本件口座」という。)における店頭外国為替証拠金取引(本件FX取引)の経緯については、以下のとおりである。
(イ) Xは、平成25年6月21日、本件口座に3,000万円を入金し、同年7月1日以降、本件口座を利用して本件FX取引を始めた。
(ロ) Xが居住者であった平成25年8月25日までの本件FX取引による損益は、損失であった。
(ハ) Xが国内に恒久的施設を有しない非居住者となった平成25年8月26日以降、本件FX取引による損益は、全て利益が生じていた。
なお、平成25年分の売買損益のうち1,120万円は、平成25年8月23日(金曜日)に差金決済の約定が成立し、同月27日(火曜日)に本件口座に入出金記帳されたものであった。これは、決済日が、約定日の原則2営業日後であることによる。
(2)裁決要旨(請求棄却)
① 所得税法161条《国内源泉所得》1号(本件規定)にいう「資産」とは、「運用、保有若しくは譲渡」による所得を生じさせ得る財産権をいうものと解され、経済的価値を有する契約上の権利や地位などを広く含む概念と解するのが相当であるところ、非居住者期間中にXが行った店頭外国為替証拠金取引(本件FX取引)における未決済取引に係る契約上の地位は、差金決済を行うことにより利益又は損失を生じさせ得る財産権として本件規定にいう資産に該当する。そして、本件規定にいう資産の運用、保有により生ずる所得とは、資産の譲渡による所得以外の所得で、資産の運用又は保有に該当する行為によって生じた所得を広く含むと解するのが相当であるところ、本件FX取引に係る差金決済等に係る所得は、Xが上記の契約上の地位に係る権利を行使又は保有することにより生じたものであって、これを他に移転したことにより生じたものではないから、本件規定にいう資産の運用、保有により生ずる所得に該当する。
② Xは、本件FX取引のうち、平成25年8月23日に反対売買の約定が成立した取引について、当該約定日が所得税法36条1項にいう収入すべき時期であるから租税特別措置法(以下「措置法」という。)41条の14《先物取引に係る雑所得等の課税の特例》1項が適用される旨主張する。しかしながら、措置法第41条の14第1項にいう金融商品先物取引等の「決済」とは、反対売買による清算の決済を意味し、すなわち差金の授受によってされる行為をいうことであり、本件FX取引のうち、平成25年8月23日に反対売買の約定が成立した取引については、同月27日に決済がされ、その時点でXは国内に恒久的施設を有しない非居住者に該当するのであるから、措置法41条の14第1項が規定する要件を満たさない。