賃貸物件の自宅兼事務所の地代家賃、水道光熱費等(いわゆる家事関連費)を按分計算して必要経費にしている個人事業主は多いでしょう。また、個人名義で借りている自宅兼会社利用(大家が会社へのまた貸しを許可している場合)の地代家賃、水道光熱費等を按分計算して、会社の損金にしている中小企業代表者もいるでしょう。

 この場合の気を付ける点は、ずばり、目立たないようにすることです。これしかないといえます。一般的な目安といわれている按分割合15~30%ぐらいだと目立たないのですが、50~60%ぐらいにしてると非常に目立ちます。

 もちろん、実際に、50~60%ぐらいを業務のために利用しており、それが業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分していることを証明できれば問題はありません(所法45、所令96一、所基通45-1)。ただ、それって非常に難しいことではないのかなと思います(独身で狭いワンルームマンションならありえますが)。

 また、稀に、地代家賃と水道光熱費の按分割合を変えている人もいますが、これも目立ちます。どうして割合が違うのかを証明する必要があります。感覚で、電気代を多く利用しているから等というラフな考え方では、税務調査の際に否認される可能性があるので注意をしてください。

 自宅兼事務所で保険代理店業務を営む個人事業主が支払った地代家賃、水道光熱費等を必要経費として認めなかった東京地裁平成25年10月17日判決・税資263号-187(順号12311)が参考になるかと思われます。

 この事案からわかることは、本当の争い(裁決・裁判)になると、「必要な部分として明確に区分することができるもの」という要件を満たすことが非常に難しく、必要経費として全く認められないということが起きてしまうということです。ほどほどの按分割合で申告することが、結果的に、得するといえます。

東京地裁平成25年10月17日判決・税資263号-187(順号12311)の判示(要旨)

(事実等)
① 原告(納税者)は、妻と共同で、代理店として、生命共済商品又は生命保険商品の販売や傘下代理店の募集等を行っていた(妻も同じ)。本件は、原告が、事業所得の金額の計算上、(1)原告が居住する住宅に係る地代家賃、(2)水道光熱費とする費用の各支出の一部を必要経費に算入して申告したところ、税務署長から、それらの支出は所得税法45条1項1号に規定する家事上の経費に該当するとして更正処分を受けた事案である。他の争いもあるが省略。
② 原告は、本件住宅(駐車場部分を含む。)を賃料月額17万円で賃借し、妻と子供2人と共に、本件住宅に居住している。本件住宅は2階建てであり、1階に約15畳のリビング・ダイニングキッチンと洗面所、トイレ及び浴室があり、2階に約6.5畳、5.5畳、5.7畳の合計3室の洋室がある。
③ 原告が本件地代家賃のうち事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきと主張した金額は、確定申告から不服申立てに至る経緯において変遷し、かつ、原告が本訴において主張した本件地代家賃の事業使用割合は60%であるが、本件水道光熱費の事業使用割合は50%であり、本件地代家賃と本件水道光熱費の事業使用割合が異なることについて原告は何ら合理的な説明ができていない。

(判示要旨)
① 家事関連費のうち必要経費に算入することを認めるためには、当該金額が、(1)事業所得等を生ずべき業務の遂行上必要であること、(2)その必要な部分の金額が明確に区分されていることの二つの要件を満たしていれば足りるものとして検討することとする。
② 「1階部分の利用実績表」と題する原告が記載・所持している手帳の写しによれば、原告は、妻と共同で、本件住宅において、代理店や顧客を招いて、商品説明やセミナー等を開催していたことが認められる。
 原告は、本件住宅の1階の洗面所、トイレ、リビング・ダイニングキッチン(シンク部分を除く。)並びに2階の洋室のうちの1部屋(以下「リビング等」という。)を本件各業務の専用スペースとして常時使用していた旨主張し、これを裏付けるものとして、1階ダイニングキッチンを「セミナールーム」「テーブルプレゼンテーションルーム」、リビングを「食事会、軽いパーティー、酒宴、茶会」「来客用パーティールーム」「来客用おもちゃ 絵本 ゲーム・DVD置場」、2階5.7畳の洋室を「事務所」「仕事用衣装置場」「ミーティングルーム」と記載した本件住宅の間取り図及び本件住宅内の写真、本件住宅の使用状況を現認したという公認会計士の意見書を提出している。
③ しかし、本件住宅は、全体として居住の用に供されるべき3LDKの2階建て住宅であり、その構造上、本件住宅の一部について、居住用部分と事業用部分とを明確に区分することができる状態にないことが明らかであり、原告がその家族と共に本件住宅に居住していることを併せて考えると、リビング等を各業務の専用スペースとして常時使用し、それ以外の用向きには使用していなかったとは考えられない。したがって、地代家賃のうち本件住宅の全面積にリビング等が占める割合に相当する部分を各業務の遂行上必要な金額であるという原告の主張を採用することはできない。
④ 原告は、本件地代家賃のうち、近隣の駐車場使用料の相場相当額についても必要経費に算入することができる旨主張するところ、本件住宅に附属する駐車場部分の利用代金は、本件地代家賃に含まれているものであるが、本件各業務の内容に照らすと、本件各業務の遂行に当たり、原告が所有する車両を使用する必要があるのか不明である。仮に、本件各業務の遂行のために原告が所有する車両を使用する機会があるとしても、本件住宅が原告らの自宅であり、それに附属する駐車場に駐車する当該車両が本件各業務の遂行のみに使用されるものとは考え難く、原告の主張に照らしても、当該車両を本件各業務の遂行に使用する頻度や時間も明らかではないから、本件地代家賃のうちの駐車場代金相当額について、本件各業務の遂行上必要なものとして明確に区分することができるということはできず、当該相当額を事業所得の必要経費へ算入することはできないものといわざるを得ない。
⑤ 水道光熱費についても、本件住宅のうち各業務の遂行のために使用されるいわば専用スペースとして使用されていた部分はなく、リビング等が各業務に使用されていた実態も明らかではないから、各業務の遂行のために必要な部分として明確に区分することができるものはなく、必要経費に算入することはできないというほかない。

法令

所得税法45条1項1号(家事関連費等の必要経費不算入等)
 居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。
一 家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの

所得税法施行令96条1号(家事関連費)
 法45条1項1号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費

所得税基本通達45-1(主たる部分等の判定等)
 令第96条第1号《家事関連費》に規定する「主たる部分」又は同条第2号に規定する「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分」は、業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定する。

所得税基本通達45-2(業務の遂行上必要な部分)
 令第96条第1号に規定する「主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。