概要

 所得税では、故意に「確定申告書を法定申告期限までに提出しないことにより税を免れた者」について、5年以下の懲役もしくは500万円以下(脱税額が500万円を超える場合には、情状により脱税額以下)の罰金に処し、又はこれらを併科することとされています(所法238③④)。

 巨額の所得を得ながら、税を免れる故意をもって申告を行わず、結果的に多額の税額を免れるケースが増えたため、平成23年度税制改正で、積極的な所得隠蔽行為は伴わないものの、故意に「納税申告書を法定申告期限までに提出しないことにより税を免れた者」を処罰する規定が創設されました。

「税を免れる故意をもって申告書を提出せず、税を免れた者」とは、「脱税犯」と「申告書不提出犯」との間に位置する犯罪類型とされ、脱税犯の一種として処罰されます。

構成要件

ほ脱犯(不正無申告脱税犯)

「ほ脱犯(不正無申告脱税犯)」の構成要件は、以下となっています。

① 偽りその他不正の行為があること
② 税を免れた結果が発生していること
③ ①と②の因果関係があること
④ ①〜③についての認識(故意)があること

10年以下の懲役もしくは1,000万円(情状により脱税額)以下の罰金又はこれらの併科(所法238①②)

故意の申告書不提出によるほ脱犯

「故意の申告書不提出によるほ脱犯」の構成要件は、以下となっています。

① 納税義務者であること
② 申告義務があること
③ 申告を行わなかったこと
④ 税を免れたこと
⑤ ③と④との間に因果関係があること
⑥ ①〜⑤についての認識(故意)

5年以下の懲役若しくは500万円(情状により脱税額)以下の罰金又はこれらの併科(所法238③④)

故意の申告書不提出犯(秩序犯)

「故意の申告書不提出犯(秩序犯)」は、以下となっています。

① 納税義務者であること
② 申告義務があること
③ 申告を行わなかったこと
④ ①〜③についての認識(故意)

1年以下の懲役又は50万円以下の罰金(所法241)

罰金

 ほ脱犯(不正無申告脱税犯)の場合の罰金は1,000万円(情状により脱税額)以下の罰金となっています。また、故意の申告書不提出によるほ脱犯の場合の罰金は500万円(情状により脱税額)以下の罰金となっています。

 そのため、ほ脱犯(不正無申告脱税犯)で脱税額が1000万円を超えるときは、脱税額まで増額される場合もあります。ただし一般的には、罰金額の目安は脱税額のおよそ10~30%になっています。

 なお、これらは罰金の話で、加算税(重加算税)は別にかかります。

福岡地裁令和6年7月24日判決(令和6年(わ)327号)

概要

 漫画家業を営む被告人Xが、自己の所得税を免れようと考え、3年間にわたり、その所得税等の法定納期限までに、確定申告書を提出しないで同期限を徒過させたことにより、所得税の納付を免れたとして、Xに懲役10か月及び罰金1100万円、3年間の懲役刑の執行猶予が言い渡された事案。 

量刑の理由

 Xは、作画を担当する漫画が人気を博したため、多額の所得を得るようになったにもかかわらず、3年間にわたり確定申告を行わず、合計約4700万円の所得税の納付を免れたもので、数年にわたる多額の脱税である点は悪質である。しかし、本件は、事務作業が極めて不得手で、金銭への関心も薄く、年齢相応の社会制度に対する理解が不足したXが、急激に人気漫画家となり、確定申告の重要性を軽く見て、目の前の仕事やプライベートを優先させ、事務作業から逃げ続けた結果、本件各犯行に至ったというものである。その経緯等に汲むべき点があるとはいえないものの、経済的な利得を目的とした犯行と比較すれば、被告人が本件各犯行に至ったことを強く非難すべきとまではいえない。
 以上の犯罪事実に関する事情に加え、Xに前科前歴がないこと、Xが国税庁の指摘を受けて令和4年には修正申告を行い、加算税及び延滞税を加えた金額を既に納付していること、さらに、Xが後悔するとともに反省し、資料の整理も含めて税理士に依頼して令和4年度以降は確定申告を行っており、Xが再度脱税行為に及ぶ可能性は低いと考えられることなどの事情を考慮し、Xには短期間の懲役刑を科した上でその執行を猶予するのが相当である。
 ただし、脱税行為は結果として利益とならないことを示すため、Xに対しては、相当額の罰金刑を併科すべきである。 
 以上を踏まえ、主文のとおり判決する。
(求刑 懲役10月、罰金1400万円)