
概要
暗号資産は、本来、譲渡所得の基因とならない資産であり、「その他雑所得」に該当します(所基通35-1(12))。
ただし、営利を目的として継続的に行う暗号資産の譲渡から生ずる所得は「業務に係る雑所得」や「事業所得」に該当します(所基通35-1(12)カッコ書、35-2)。
そして、事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定することとされています(所基通35-2(注))。
暗号資産の譲渡による所得が事業所得なのか雑所得なのかは、他の所得と損益通算できるのか否かの違いが生じるため重要です。
ただ、それだけでなく、暗号資産の譲渡による所得が「業務に係る雑所得」と「その他雑所得」なのかで必要経費の範囲が違ってしまうため、その点についても重要なのです。
なお、今後の裁判例等で、暗号資産の譲渡が営利を目的として継続的に行われているとは具体的にどのようなものなのかがわかると思いますが、現状、東京高裁平成10年12月17日判決(税資料239号528頁)が参考になるかと思います。
この東京高裁平成10年12月17日判決では、納税者Xが行った絵画の売買は、「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」に該当し、右売買による所得は譲渡所得に該当しない(雑所得である)とされました。
なお、所得税法33条(譲渡所得)2項1号において「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得」は譲渡所得から除外されています。
この東京高裁平成10年12月17日判決では、まず、納税者Xが行った絵画の売買が「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」なのか否かを判断し、「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」であるため譲渡所得ではないと判示しています。
結果、Xが行った絵画の売買による所得は、雑所得あるいは事業所得となるとされました。
次に、Xが行った絵画の売買が事業的規模で行われているかを判断し、事業所得ではなく雑所得であると判示しています。
今後、裁判において暗号資産の取引による所得区分が争われる場合は、以下のように判断されると思います。
(1)暗号資産の譲渡が営利を目的として継続的に行われているか否か
まず、暗号資産の譲渡が営利を目的として継続的に行われているか否かを判断します。暗号資産の譲渡が営利を目的として継続的に行われていない場合は、「その他雑所得」に該当します。
一方、暗号資産の譲渡が営利を目的として継続的に行われている場合は、「業務に係る雑所得」あるいは「事業所得」に該当します。
(2)事業的規模で行われているか否か
暗号資産の譲渡が営利を目的として継続的に行われている場合は、事業的規模で行われているか否かで「業務に係る雑所得」あるいは「事業所得」に該当します。
東京高裁平成10年12月17日判決(税資料239号528頁)要旨
概要
納税者Xは絵画を購入する目的で約2年間に総額11億円の借入をし、係争年分の2年間において、売買回数19回、売買数量31点、売却金額合計5億6,131万円余の絵画の売買を行い、また係争年分以前4年間で売買回数26回、売買数量87点、売却金額合計6億3,808万円余にものぼる絵画の売買を行っていたが、Xが行った絵画の売買は、「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」に該当し、右売買による所得は譲渡所得に該当しない(雑所得)とされた事例。
なお、所得税法33条(譲渡所得)2項1号において「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得」は譲渡所得から除外されている。
判示要旨
(1)資産の譲渡が営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡に当たるか否かの判断基準
ある資産の譲渡所得が「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得」に当たるか否かの判断に当たっては、その者の行っている資産の譲渡の客観的な態様・状況からみて経常的、計画的に発生する所得か否かを判断すべきであり、具体的には、①譲渡人の既往における資産の売買回数、数量又は金額、②売買のための資金繰り、③当該譲渡に係る資産の取得及び保有の状況等を総合して判断するのが相当である。
(2)当てはめ
各事実を総合的に判断すれば、Xは、多数の絵画を銀行からの借入金によつて購入、保有し、多数回にわたつて売買し、また、現実にも、多額の譲渡益を生じていることからして、本件絵画の売買は、「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」に該当するものというべきである。したがつて、本件絵画の売買による所得は法33条2項1号に定める「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得」に該当し、譲渡所得には該当しないというべきである。
(3)事業所得の意義と事業所得であるか否かの判断基準
事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうものと解されるところ、ある所得が事業所得に当たるか否かを判断するに当たっては、当該所得が社会通念上「事業」というに値する規模・態様においてなされる営利性、有償性、反復継続性をもった活動によって生じる所得か否かによって判断すべきであり、右の場合において「事業」というに値する規模・態様においてなされる活動といえるかどうかは、自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無、その者の精神的肉体的労務の投入の有無、人的、物的設備の有無、その者の職業・経験及び社会的地位等を総合的に勘案して判断すべきである。
(4)当てはめ
これを本件についてみると、本件絵画の売買が「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」に該当することについては前記(2)で説示したとおりであるが、自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無、その者の精神的肉体的労務の投入の有無、人的・物的設備の有無、その者の職業・経験及び社会的地位等については、以下の事実が認められる。
(イ) Xは、Iの代表取締役であるほか、7社の役員である。
(ロ) 本件絵画の売買に係る事務に関し従業員の雇用はなく、これに従事しているのはIの社員であり、その者に対し右事務に従事したことに対して給与等の支払はされていない。
(ハ) Xは、右事務のための画廊等の店舗を有せず、絵画の保管についてはIの倉庫を無償で借用している。
(ニ) 本件絵画の売買先は、ほとんど特定しており、Xが本件絵画の売買のために多くの労力や時間を費やしているということはない。
右事実を総合すると、本件絵画の売買による所得は、いまだ社会通念上「事業」というに値する規模・態様においてなされる活動によつて生じる所得に該当するとは認められないというべきである。
したがつて、本件絵画の売買による所得は、法35条1項に規定する雑所得に該当するというべきである。