概要

「時価よりも著しく低い価額の対価による譲渡」とは、時価の70%相当額未満で譲渡する場合をいいますが、時価よりも著しく低い価額の対価による譲渡により取得した場合は、その譲渡の対価の額とその取得の時におけるその暗号資産の価額との差額のうち実質的に贈与をされたと認められる金額の合計額が取得価額となります(所令119の6②二、所法40①二、所基通40-2)。

 そして、「実質的に贈与したと認められる金額」は、時価の70%相当額からその譲渡対価の額を差し引いた金額として差し支えないとされています(所基通40-3)。
つまり、取得価額=譲渡対価の額+(時価の70%相当額-譲渡対価の額)であるため、取得価額=時価の70%相当額となります。

 なお、「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」では記載されていませんが、著しく低い価額の対価で暗号資産の譲渡を受けた場合は、財産の低額譲受による利益(相法7)に該当し、贈与により取得したものとみなされる場合もあるでしょう。

 一方、暗号資産を時価よりも著しく低い価額の対価により譲渡した側の個人は、その対価の額とその譲渡の時におけるその暗号資産の価額との差額のうち「実質的に贈与したと認められる金額」を総収入金額に算入する必要があります。

 つまり、総収入金額=譲渡対価の額+(時価の70%相当額-譲渡対価の額)であるため、総収入金額=時価の70%相当額となります。

計算例

受贈者側の取得価額

(Q)以下のように、父は息子に、暗号資産を取得価額と同一価額で売却しましたが、この売却額は、その売却時の暗号資産の相場(時価)と比べて低額なものとなっていました。この場合の取得者である息子の暗号資産の取得価額はどうなりますか。
・令和〇年 3月1日  父は10BTCを450万円(1BTC=45万円時価)で購入した。
・令和〇年6月10日  父は10BTCを450万円で息子に売却した。なお、売却時における交換レートは1BTC=100万円であった。

(A)
〇 低額譲渡に該当するかどうかの判定
① 実際の売却価額 : 450万円
② 時価の70%相当額:(100万円×10BTC)× 70% =700万円
③ ①<②であることから、売却価額は、時価の70%相当額未満であり、低額譲渡に該当します。

〇取得価額
 低額譲渡により暗号資産の取得をした個人が、その暗号資産を将来、譲渡した場合における当該暗号資産の取得価額は、その対価の額とその取得の時におけるその暗号資産の価額との差額のうち実質的に贈与したと認められる金額との合計額となります。
取得価額=譲渡対価の額+(時価の70%相当額-譲渡対価の額)
    =450万円+(700万円-450万円)
    =700万円

贈与者側の所得金額

(Q)以下のように、父は息子に、暗号資産を取得価額と同一価額で売却しましたが、この売却額は、その売却時の暗号資産の相場(時価)と比べて低額なものとなっていました。この売却による父の所得金額はどうなりますか。
・令和〇年 3月1日  父は10BTCを450万円(1BTC=45万円時価)で購入した。
・令和〇年6月10日  父は10BTCを450万円で息子に売却した。なお、売却時における交換レートは1BTC=100万円であった。

(A)
〇 低額譲渡に該当するかどうかの判定
① 実際の売却価額 : 450万円
② 時価の70%相当額:(100万円×10BTC)× 70% =700万円
③ ①<②であることから、売却価額は、時価の70%相当額未満であり、低額譲渡に該当します。

〇 総収入金額算入額
 低額譲渡に該当する場合の総収入金額は、実際の売却価額に加えて、時価の70%相当額との差額を総収入金額に算入することとなります。
総収入金額=譲渡対価の額+(時価の70%相当額-譲渡対価の額)
    =450万円 + (700万円- 450万円)
= 700万円
〇 所得金額の計算
所得金額=総収入金額-譲渡原価
    =700万円-450万円
    =250万円

疑問点

「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」を読んで個人的に疑問に思うことは、贈与なのか、それとも、低額譲渡なのかにより、表面上は、取得金額や総収入金額が「時価」、「時価の70%相当額」の違いが生じ、所得移転操作が可能とみえます。

 例えば、夫が取得価額(譲渡原価)400万円、時価1,000万円の暗号資産を妻に贈与あるいは低額譲渡したとします。そうすると、一見すると以下のように読めます。

(贈与の場合)
夫の所得金額=総収入金額-譲渡原価=1,000万円-400万円=600万円
妻の取得価額=贈与時における暗号資産の取得価額=1,000万円
(1万円で譲渡の場合)
夫の所得金額=総収入金額(時価の70%相当額)-譲渡原価=700万円-400万円=300万円
妻の取得価額=時価の70%相当額=700万円

 どちらの場合であっても、最終的に妻が暗号資産を他者に売却した場合の夫婦合計の所得金額は一緒です。仮に、上記の贈与あるいは低額譲渡された側の妻が、将来、その暗号資産を時価1,500万円で売却したとします。この場合の、夫婦合計の所得金額は下記のように、どちらであっても1,100万円となります。

(贈与の場合)
夫の所得金額=600万円
妻の所得金額=総収入金額-譲渡原価=1,500万円-1,000万円=500万円
夫婦合計の所得金額=600万円+500万円=1,100万円
(1万円で譲渡の場合)
夫の所得金額=300万円
妻の所得金額=総収入金額-譲渡原価=1,500万円-700万円=800万円
夫婦合計の所得金額=300万円+800万円=1,100万円

 夫婦合計の所得金額は結果的に一緒だといっても、それぞれの所得は違います(一般的には、妻より夫の方が所得が多いでしょう)。そのため、悪意をもって低額譲渡をすれば、税操作が可能のようにみえますが、おそらく、問題になる場合があるでしょう。