概算取得費

概要

 譲渡をした株式等について、その株式等の譲渡による収入金額の100分の5に相当する金額(概算取得費)を譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費として計算しているときは、これを認めて差し支えないものとされています(措通37の10・37の11共-13)。

 他方、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得等の金額の計算等について、措置法通達37の11の3-14(株式等に係る譲渡所得等の課税の特例に関する取扱い等の準用)は、同通達37の10・37の11共-1から37の10・37の11共-12まで、37の10・37の11共-14、37の10・37の11共-18から37の10・37の11共-21まで、37の10・37の11共-24、37の11-1から37の11-13まで及び37の12の2-1の取扱いを準用する旨定めています。

 つまり、特定口座内保管上場株式の譲渡に係る譲渡所得等の金額の計算に当たっては、措置法37条の11の3の規定に基づくところ、同法の取扱いを定めている措置法通達37の11の3-14は、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得等の金額の計算において準用すべき取扱いから概算取得費を認める旨を定めた同通達37の10・37の11共-13の取扱いを除いていることから、特定口座内保管上場株式等の譲渡に係る取得費を概算取得費として計算することはできないことになります。

 なお、令和6年4月22日裁決(裁事135集)は、「特定口座から一般口座への上場株式等の移管後に当該上場株式等を譲渡した場合に概算取得費を取得費とすることができること(略)は、法令等の適用の結果にすぎない。」と判断しています。

 特定口座内の上場株式等は一般口座に移すことはできます(ただし、一般口座へ移動すると、再度特定口座へ戻すことはできません。)ので、概算取得費を取得費としたい場合はそのことについて検討するのもよいでしょう。

 また、株式等の譲渡における負債利子の控除についても、同様に注意をする必要があります。

措置法通達

〇 37の10・37の11共-13(株式等の取得価額)
 株式等を譲渡した場合における事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費又は取得費に算入する金額は、所得税法第37条第1項《必要経費》、第38条第1項《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》、第48条《有価証券の譲渡原価等の計算及びその評価の方法》及び第61条《昭和27年12月31日以前に取得した資産の取得費等》の規定に基づいて計算した金額となるのであるが、譲渡をした同一銘柄の株式等について、当該株式等の譲渡による収入金額の100分の5に相当する金額を当該株式等の取得価額として事業所得の金額若しくは雑所得の金額を計算しているとき又は当該金額を譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費として計算しているときは、これを認めて差し支えないものとする。

〇 37の11の3-14(株式等に係る譲渡所得等の課税の特例に関する取扱い等の準用)
 特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得等の金額の計算、信用取引等(措置法第37条の11の3第2項に規定する信用取引又は発行日取引をいう。37の11の4-1において同じ。)に係る上場株式等の譲渡による雑所得等の金額の計算等については、37の10・37の11共-1から37の10・37の11共-12まで、37の10・37の11共-14、37の10・37の11共-18から37の10・37の11共-21まで、37の10・37の11共-24、37の11-1から37の11-13まで及び37の12の2-1の取扱いを準用する。

特定口座内で譲渡した上場株式等の取得費を概算取得費とすることはできないとされた事例-令和6年4月22日裁決(裁事135集)(棄却)

(1)事案の概要

 本件は、源泉徴収選択口座である特定口座内(以下「本件特定口座内」という。)で保有していた上場株式等の一部(以下「本件譲渡株式」という。)を譲渡した審査請求人Xが、当該譲渡に係る上場株式等の取得費について、実際の取得価額に基づく金額と概算による取得費との差額に相当する金額を特定口座年間取引報告書に記載された金額に加算(Xは「みなし取得費と取得原価との差額」とした。)して確定申告をしたところ、原処分庁が、当該差額に相当する金額は取得費に加算すべき金額ではないなどとして所得税等の更正処分等をしたのに対し、Xが、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2)本件の主な争点

 源泉徴収選択口座である本件特定口座内で保有していた本件譲渡株式の譲渡所得の金額を申告するに当たり、概算取得費を本件譲渡株式の譲渡所得に係る取得費とすることが可能か否かである。

(3)裁決要旨(棄却)

① 特定口座制度は、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額に係る区分計算の特例と、特定口座においてした上場株式等の譲渡による所得に係る源泉徴収や申告不要の特例等とが相まって、個人投資家の所得計算や申告手続に係る負担軽減の基礎となっている制度であるといえ、このような特定口座制度の下においては、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額は、その特定口座内における上場株式等の受入れに係る記録を基礎として、金融商品取引業者等において、特定口座内保管上場株式等に関する固有の計算方法により一元的に計算することが予定されているというべきである。
② 法は、源泉徴収選択口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額を申告するに当たり、居住者において同所得の金額の計算上取得費に算入する金額の計算をすることを予定していないものと解するのが相当である。
③ 措置法通達37の11の3-14が、概算取得費による取得費を認める旨を定めた措置法通達37の10・37の11共-13を準用していないことは、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算に当たり、概算取得費を取得費とすることを認めない趣旨であると解するのが相当であって、この理は、上記②で述べた、法は、源泉徴収選択口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額を申告するに当たり、居住者において同所得の金額の計算上取得費に算入する金額の計算をすることを予定していないとの解釈に沿うもので、当審判所においても相当と認められる。
 また、所得税基本通達38-16は、措置法通達37の10・37の11共-13と同様に、土地建物等以外の資産の譲渡による譲渡所得の金額の計算上、概算取得費による取得費を認める旨定めているが、措置法通達における準用についての上記検討によれば、上記所得税基本通達の定めが源泉徴収選択口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得について申告をする場合において適用されると解することはできないというべきである。
④ 本件譲渡株式についても、その譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額は、本件特定口座内における本件譲渡株式の受入れに係る記録を基礎として、金融商品取引業者等D社において、特定口座内保管上場株式等に関する固有の計算方法により一元的に計算された金額となるのであって、概算取得費を取得費とすることはできない。
⑤ 特定口座から一般口座への上場株式等の移管後に当該上場株式等を譲渡した場合に概算取得費を取得費とすることができること及び特定口座における株式等の譲渡と一般口座における株式等の譲渡とで負債利子の控除に関する取扱いが異なることは、法令等の適用の結果にすぎない。