健康保険

 会社の健康保険制度に加入しているサラリーマン(給与所得者)は、株式売却益や配当等を確定申告しても、健康保険料の額に影響はありません。

 ただし、自営業者、年金受給者が株式売却益や配当等を確定申告すると、健康保険料の額に影響があります。

サラリーマン(給与所得者)の健康保険

 サラリーマンは、「協会けんぽ(主に中小企業)」か「組合健保(主に大企業)」に加入していますが、その健康保険料の額は、サラリーマン自身の月給および賞与の額に基づいて決まるため、株式売却益や配当を確定申告しても健康保険料の額に影響はありません。

 なお、サラリーマンで会社の健康保険に入っていない(違法なのですが、会社でそもそも協会けんぽに加入していない等)場合は、下記、国民健康保険料と同じ取扱いになります。

自営業者、年金受給者の健康保険

 75歳未満の自営業者、年金受給者が株式売却益や配当を確定申告をすることで「前年の所得金額等」が増加します。そのため、翌年の国民健康保険料も増加します。ただし、株式売却益等等が基礎控除額以下であり所得金額がゼロの場合を除きます。

 国民健康保険料の年間保険料の最高限度額(令和5年度)は介護分の負担がある場合(40~64歳の方)は104万円、介護分の負担のない場合は87万円となっています。

 国民健康保険料について、厚生労働省は令和6年度から年間上限額を今より2万円引き上げ、年間保険料の最高限度額は、介護分の負担がある場合は106万円、介護分の負担のない場合は89万円となる予定です。 

75歳以上の人の健康保険

 75歳以上の人は、それまで加入していた健康保険、国民健康保険から脱退して、後期高齢者医療制度に加入し後期高齢者医療保険料を支払います。

 75歳以上の人が株式売却益や配当等を確定申告した場合における保険料に及ぼす影響は、上記の国民健康保険と同様の考え方です。

 年間保険料の賦課限度額は、66万円(令和5年度)となっています。

介護保険

 介護保険料については、40~64歳の方(第2号被保険者)の場合は、加入している健康保険の保険料と一緒に納めます。よって、サラリーマンの場合、会社で加入している健康保険の保険料と一緒に納めます。株式売却益や配当を確定申告しても影響はありません。

 自営業者の場合、国民健康保険料と一緒に納めます。介護分の負担がある場合(40~64歳の方(第2号被保険者))の国民健康保険料の年間保険料の最高限度額は104万円(介護保険料分含む)となっています。

 65歳以上の方(第1号被保険者)になると、国民健康保険料等は別に介護保険料を支払うことになるのですが、国民健康保険料と同様に株式売却益や配当を確定申告をして所得が増えれば介護保険料が増加します。なお、各自治体によって介護保険料の最高額に相当の差があります。

 例えば、同じ東京23区内といっても、令和4年度において江戸川区の介護保険料最高額は254,880円ですが、港区の介護保険料最高額は382,194円となっています。よって、65歳以上の方が株式売却益や配当を確定申告をする場合は注意が必要です。

児童手当

 児童手当の支給に所得制限が設けられていますが、この場合の所得額には分離課税配当所得は含まれません。よって、配当については総合課税による申告をした場合のみ含まれるということになります。

西宮市HP「児童手当システムにおける所得額算定の誤りについて」
https://www.nishi.or.jp/shisei/koho/kishahappyoshiryo/2014/press_list201408/jidoteate.html

 また、株式譲渡所得は、総所得に含まれませんし、土地・建物等譲渡所得や先物取引に係る雑所得等ではないので所得額に含まれません。

仙台市HP「児童手当<よくある質問>」
http://www.city.sendai.jp/kodomo-jigyo/kurashi/kenkotofukushi/kosodate/teate/jitefaq.html

条文 児童扶養手当法施行令4条(手当の支給を制限する場合の所得の額の計算方法)

前年に株式の譲渡損失があったため繰越控除の適用を受けようと確定申告をした場合

 前年に株式の譲渡損失があったため繰越控除の適用を受け、今年の株式の譲渡益と相殺する場合、以下のような取り扱いとなります。

●国民健康保険料・後期高齢者医療保険料
 前年の株式の譲渡損失が今年の株式の譲渡益を上回る場合は、基本的に影響ありませんが、前年の譲渡損失が今年の譲渡益を下回る場合は、申告することにより所得が追加されるため保険料額が増えます。
(例)前年の譲渡損失500万円、今年の譲渡益300万円の場合、相殺で所得0円となるので、保険料額に影響はありません。
(例)前年の譲渡損失200万円、今年の譲渡益300万円の場合、相殺で所得100万円となり、申告することで保険料額が増えます。

●介護保険料(65歳以上の方の場合)
 繰越控除の金額は算定の基準に入らないため、申告することにより今年の譲渡所得の金額のみが影響し、保険料額が増えます。
(例)前年の譲渡損失500万円、今年の譲渡益300万円の場合、繰越控除は適用されないため300万円の所得となり、保険料額が増えます。

医療費の窓口負担 

 令和4年10月1日から、医療機関等の窓口で支払う医療費の自己負担割合が、それまでの「1割」または「3割」に、新たに「2割」が追加され、「1割」「2割」「3割」の3区分となります。

 健康保険料や介護保険料の場合、所得が基準となりますが、医療費の窓口負担は所得だけが基準となるのではなく収入も基準となります。

 株式売却金額-取得金額=所得金額

 株式売却の場合、売却金額が収入となります。株式売却金額、所得金額の両方が算定基準になるので注意をしてください。高齢者の方で株式譲渡損失がでたから、翌年以降の損失の繰越控除のためにといって、赤字なのに申告したら、医療費の窓口負担が3割になってしまったという相談が結構あります。

 申告することで、税負担が少なくなるが医療費の窓口負担が増えるケースがあり、最終的な負担額が増える場合もありますので、確定申告をする場合は注意をしてください。

〇東京都後期高齢者医療広域連合(自己負担割合判定フローチャート)
https://www.tokyo-ikiiki.net/_res/projects/default_project/_page_/001/001/969/202308flow.pdf

住民税申告不要制度

 特定口座(源泉徴収あり)内で株式売却益があったり、上場株式の配当があっても、確定申告しない場合は国民健康保険料、介護保険料や医療費の窓口負担に影響はありません。

 また、確定申告をする場合であっても、特定口座(源泉徴収あり)内の株式売却益と上場株式の配当を、住民税の申告において所得税とは異なる方法(申告不要制度)を選択することにより国民健康保険料、介護保険料や医療費の窓口負担への影響を回避することができます(現時点では、異なる方式はできません)。

 なお、特定口座(源泉徴収なし)や一般口座内の株式売却益は、原則として確定申告義務があり、住民税の申告において所得税とは異なる方法(申告不要制度)を選択することができないので、国民健康保険料、介護保険料や医療費の窓口負担に影響を与えます。

その他

専業主婦が株式売却により扶養からはずれ、国保・国民年金保険料の支払いを求められることはあるのか?