概要
平成30年度税制改正において、「法人税等の申告書の電子情報処理組織による提出義務」の制度が創設され、令和2年4月1日以後に開始する事業年度から、大法人は法人税・消費税等の納税申告書及び添付書類の提出を電子的に行わなければならないこととなりました(法法75の4①、消法46の2①)。
大法人とは、内国法人のうち事業年度開始の時の資本金の額等が1億円を超える法人などをいいます(法法75の4②一、消法46の2②一)。
よって、大法人が消費税の還付を受ける場合にも、電子申告を行う必要があるということになります。
ただし、電子的な提出が困難と認められる一定の事由があるときは、所轄税務署長の承認に基づき、例外的に書面による申告書等の提出が可能となっています(法法75の5、消法46の3)。
資本金の額が1億円を超える法人が、消費税の還付を受けるためには、電子申告を行わなければならないとされた事例-東京地裁令和6年1月12日判決(棄却)(控訴)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 原告Xは、がん及び生活習慣病等に関する検査の企画、開発、受託及び実施等を目的とする株式会社である。
Xの資本金の額は、3億3430万円である。
② Xは、令和4年5月30日、所轄税務署長に対し、本件課税期間に係る消費税等の確定申告につき、消費税等の合計還付税額が499万円余(本件控除不足額)である旨を記載した確定申告書を提出(本件書面申告)したが、電子申告をしなかった。
なお、Xは、消費税法46条の3に規定する電子申告が困難である場合の特例の適用について、所轄税務署長の承認を受けていなかった。
③ 所轄税務署長は、令和4年6月23日付けで、Xに対し、本件書面申告につき「申告書の効力のない旨のお知らせ」を送付した。
④ Xは、令和5年4月21日、本件訴訟を提起した。
(2)本件の争点
本件の争点は、Xが、仕入れに係る消費税額の控除不足額(消費税法45条1項5号。以下「控除不足額」という。)に相当する消費税等に係る還付金(以下「控除不足額に係る還付金」という。)の還付を受けるための確定申告を、電子申告の方法により行うことを要するか否かである。
(3)判決要旨(棄却)(控訴)
① 平成30年度税制改正により、申告書の電子情報処理組織による提出義務が創設され、特定法人である事業者については、本件各規定により、消費税法45条1項の規定にかかわらず、確定申告を電子申告により行わなければならない旨規定された。すなわち、経済社会のICT(情報通信技術。以下同じ。)化の進展等を踏まえ、行政手続の電子化が推進される中で、税務手続においてもICTの活用を推進し、データの円滑な利用を進めることにより社会全体のコスト削減及び企業の生産性向上を図るという観点から、また、電子申告に当たってはシステム面での投資を要する法人が存在することも考慮して、まずは、財務基盤が一定程度安定していると考えられる特定法人である事業者について電子申告が義務化されたものである。
② 電子申告の義務化は、税務手続においてもICTの活用を推進し、データの円滑な利用を進めることにより社会全体のコスト削減及び企業の生産性向上を図ることを目的として規定されたものであり、かかる立法目的は、「納税義務の適正な履行を確保する」(消費税法1条1項)という同法の目的に沿うものであり、公共の福祉に合致する。
また、各規定の導入に当たっては、準備期間を確保する趣旨から、各規定の適用開始時期は、令和2年4月1日以後に開始する課税期間に係る消費税の申告からとされたほか、一定の事由により電子情報処理組織を使用することが困難であると認められる場合に例外的に書面申告を行うことができる旨の特例も設けられている。
一方で、電子申告の導入に伴う経済的負担は、通信費用、電子証明書の利用に伴う費用〔電子証明書の取得・更新費用(証明期間が12か月の場合7900円)、ICカードリーダライタ等の取得費用(2000円から6000円程度)等〕及び納税の際のインターネットバンキング等の利用手数料であり、比較的軽微である。
電子申告の義務化の対象となる事業者が、資本金の額が1億円を超える法人等であって、これらの負担も過大なものとは認められない。そうすると、電子申告の義務化が、上記の目的を達成するための手段として必要性もしくは合理性を欠くことが明らかということもできず、立法府の裁量権の範囲を超えるものではない。
③ 消費税法52条1項は、同法45条1項の規定による申告書の提出があった場合において、控除不足額の記載があるときは、税務署長は、当該申告書を提出した者に対し、当該控除不足額に相当する消費税を還付する旨規定しており、かかる規定によれば、控除不足額に係る還付金の還付請求権は、同法45条1項の規定による申告書を提出することによって発生することとなる。そして、特定法人である事業者については、本件各規定により、消費税法45条1項の規定にかかわらず、確定申告を電子申告により行わなければならない旨規定されている。
以上の各規定の文言によれば、特定法人である事業者が、控除不足額に係る還付金の還付を受けるためには、電子申告を行わなければならないことは明らかである。
④ Xは、本件課税期間において特定法人である事業者に当たり、消費税法46条の3に規定する電子申告が困難である場合の特例の適用について所轄税務署長の承認を受けていなかった。したがって、控除不足額に係る還付金の還付を受けるためには電子申告をすることを要することとなるところ、Xは、現時点まで、本件事業年度の確定申告について電子申告をしていないから、控除不足額に係る還付金の還付請求権は発生しておらず、その還付を受けることはできない。
⑤ Xの請求は理由がないからこれを棄却することとする。