棚卸資産を低額譲渡した場合

 棚卸資産を「著しく低い価額で譲渡」した場合には、その譲渡の時における棚卸資産の価額と実際の販売価額(この価額は当然収入金額に算入されます。)との差額のうち「実質的に贈与をしたと認められる金額」も、事業所得の計算上収入金額に算入されます(所法40①二)。

 この「著しく低い価額で譲渡」した場合とは、その譲渡した時における棚卸資産の通常の販売価額のおおむね70%相当額未満で譲渡した場合をいいます(所基通40-2)。

 また、「実質的に贈与をしたと認められる金額」とは、原則として、その時の通常の販売価額と実際の販売価額との差額に相当する金額をいいますが、その通常の販売価額のおおむね70%相当額から実際の販売価額を差し引いた金額としても差し支えないとされています(所基通40-3)。

 したがって、通常の販売価額の70%相当額から実際の販売価額を控除した金額が実質的に贈与をしたと認められる金額になりますから、この金額も事業所得の収入金額に計上することになります。

 結果的に、事業所得の収入金額は以下のように、販売価額のおおむね70%相当額となることになります。

収入金額=実際の販売価額+(通常の販売価額のおおむね70%相当額-実際の販売価額)=販売価額のおおむね70%相当額

 なお、棚卸資産を著しく低い価額で譲渡した場合であっても、商品の型崩れ、流行遅れなどによって値引販売が行われることが通常である場合はもちろん、実質的に広告宣伝の一環として、または金融上の換金処分として行うようなときには、そこに実質的に贈与したと認められる金額はないため、この規定の適用はされません(所基通40-2(注))。

棚卸資産を贈与した場合

 自分の事業の棚卸資産を贈与した場合には、棚卸資産を販売した場合と同様に、贈与した棚卸資産の価額をその棚卸資産の通常の販売価額で計算して総収入金額に算入することになっています(所法39、40①一、所基通39-1)。

 ただし、贈与をした棚卸資産の取得価額以上の金額をもって、その備付け帳簿に記載し総収入金額に算入しているときは、その金額が通常の販売価額に比し著しく低額(おおむね70%未満)でない限り、認められます(所基通39-2)。

計算例

(Q)
450,000円で購入した商品を450,000円で売却しました。
なお、その商品の通常の販売価額は1,000,000円でありました。
この場合の所得金額はいくらでしょうか?

(A)

〇 低額譲渡に該当するかどうかの判定
① 売却価額 :450,000円
② 時価の70%相当額:1,000,000円 × 70% =700,000円
③ ①<②であることから、売却価額は、時価の70%相当額未満であり、低額譲渡に該当します。

〇 総収入金額算入額
 低額譲渡に該当する場合の総収入金額は、実際の売却価額に加えて、通常の販売価額の70%相当額との差額を総収入金額に算入することとなります。
450,000円 [実際の売却価額] + (700,000円 - 450,000円) [通常の販売価額の70%相当額との差額] = 700,000円 [総収入金額算入額]

〇 所得金額の計算
700,000円 [総収入金額] - 450,000円 [原価] = 250,000円 [所得金額]

法令等

所法39条(たな卸資産等の自家消費の場合の総収入金額算入)

 居住者がたな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)を家事のために消費した場合又は山林を伐採して家事のために消費した場合には、その消費した時におけるこれらの資産の価額に相当する金額は、その者のその消費した日の属する年分の事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入する。

所法40条(たな卸資産の贈与等の場合の総収入金額算入)

 次の各号に掲げる事由により居住者の有するたな卸資産(事業所得の基因となる山林その他たな卸資産に準ずる資産として政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)の移転があつた場合には、当該各号に掲げる金額に相当する金額は、その者のその事由が生じた日の属する年分の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入する。
一 贈与(相続人に対する贈与で被相続人である贈与者の死亡により効力を生ずるものを除く。)又は遺贈(包括遺贈及び相続人に対する特定遺贈を除く。) 当該贈与又は遺贈の時におけるそのたな卸資産の価額
二 著しく低い価額の対価による譲渡 当該対価の額と当該譲渡の時におけるそのたな卸資産の価額との差額のうち実質的に贈与をしたと認められる金額
2 居住者が前項各号に掲げる贈与若しくは遺贈又は譲渡により取得したたな卸資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、次に定めるところによる。
一 前項第一号に掲げる贈与又は遺贈により取得したたな卸資産については、同号に掲げる金額をもつて取得したものとみなす。
二 前項第二号に掲げる譲渡により取得したたな卸資産については、当該譲渡の対価の額と同号に掲げる金額との合計額をもつて取得したものとみなす。

所基通39-1(家事消費又は贈与等をした棚卸資産の価額)

 法第39条又は第40条《たな卸資産の贈与等の場合の総収入金額算入》に規定する消費又は贈与、遺贈若しくは譲渡の時における資産の価額に相当する金額は、その消費等をした資産がその消費等をした者の販売用の資産であるときは、当該消費等の時におけるその者の通常他に販売する価額により、その他の資産であるときは、当該消費等の時における通常売買される価額による。

所基通39-2(家事消費等の総収入金額算入の特例)

 事業を営む者が法第39条若しくは第40条に規定する棚卸資産を自己の家事のために消費した場合又は同条第1項第1号に規定する贈与若しくは遺贈をした場合において、当該棚卸資産の取得価額以上の金額をもってその備え付ける帳簿に所定の記載を行い、これを事業所得の金額の計算上総収入金額に算入しているときは、当該算入している金額が、39-1に定める価額に比し著しく低額(おおむね70%未満)でない限り、39-1にかかわらず、これを認める。

所基通40-2(著しく低い価額の対価による譲渡の意義)

 法第40条第1項第2号に規定する「著しく低い価額の対価による譲渡」とは、同条に規定する棚卸資産の39-1に定める価額のおおむね70%に相当する金額に満たない対価により譲渡する場合の当該譲渡をいうものとする。

(注) 法第40条第1項第2号の規定の趣旨は、たとえ譲渡の形式をとっている場合でも、実質的に部分的な贈与をしたと認められる行為は、その実質に着目して課税処理をすることにあるから、棚卸資産を著しく低い対価で譲渡した場合であっても、商品の型崩れ、流行遅れなどによって値引販売が行われることが通常である場合はもちろん、実質的に広告宣伝の一環として、又は金融上の換金処分として行うようなときには、この規定の適用はないことに留意する。

所基通40-3(実質的に贈与をしたと認められる金額)

 法第40条第1項第2号に規定する「実質的に贈与をしたと認められる金額」とは、同項に規定する棚卸資産の39-1に定める価額とその譲渡の対価の額との差額に相当する金額をいうのであるが、当該棚卸資産の39-1に定める価額のおおむね70%に相当する金額からその対価の額を控除した金額として差し支えない。