概要
対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、その利益を受けた時において、その利益を受けた者が、その利益を受けた時におけるその利益の価額に相当する金額をその利益を受けさせた者から贈与(その行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなします(相法9)。
東京地裁昭和51年2月17日判決(昭和48年(行ウ)128号)では、この相続税法9条の規定の趣旨を以下のように判示しています。
「規定の趣旨は、私法上の贈与契約によつて財産を取得したのではないが、贈与と同じような実質を有する場合に、贈与の意思がなければ贈与税を課税することができないとするならば、課税の公平を失することになるので、この不合理を補うために、実質的に対価を支払わないで経済的利益を受けた場合においては、贈与契約の有無に拘わらず贈与に因り取得したものとみなし、これを課税財産として贈与税を課税することとしたものである(。)」
なお、相続税基本通達9-2(株式又は出資の価額が増加した場合)において、同族会社の株式の価額が、例えば、次に掲げる場合に該当して増加したときにおいては、その株主が当該株式の価額のうち増加した部分に相当する金額を、それぞれ次に掲げる者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとされています。
(1) 会社に対し無償で財産の提供があった場合 当該財産を提供した者
(2) 時価より著しく低い価額で現物出資があった場合 当該現物出資をした者
(3) 対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合 当該債務の免除、引受け又は弁済をした者
(4) 会社に対し時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡をした場合 当該財産の譲渡をした者
あくまでも、上記の(1)~(4)は例示にすぎないため、例示以外でも「利益を受けた場合」が当然あり得るということになります。
例えば、株価(時価)より高い価額で増資が行われた場合は、「利益を受けた場合」に該当し、みなし贈与となり贈与税がかかります。
計算例
(問)
A社は、資本金1,000万円、発行済株式総数1万株の同族会社であり、A社の発行済株式(以下「A社株式」という。)は、代表者甲が4,000株、甲の長男乙が6,000株を所有していました。
増資前のA社株式の1株当たりの時価は、400円でした。
A社は、資本金を1,000万円増資することを決定し、増資に係る新株の引受けは、甲1人が行いました。
増資方法は全額金銭出資とし、その新株1株当たりの払込金額は1,200円でした。
その結果、当該増資後のA社株式の1株当たりの時価は800円となりました。
この場合の課税関係はどのようになるでしょうか。
(答)
A社株式の1株当たりの時価は、増資前に400円であったところ、甲が1,000万円を増資したことにより、800円に増加しました。
その結果、乙が所有するA社株式の価額は、240万円(@400円×6,000株)から480万円(@800円×6,000株)へとその価額が増加することから、相続税基本通達9-2における「株式の価額が増加したとき」に該当します。
したがって、この価額の増加した部分(480万円-240万円)に相当する金額240万円は、乙が何ら対価を支払わずに利益を受けた金額となるから、相続税法9条の規定により、乙が、当該利益の価額に相当する金額を甲から贈与を受けたものとみなして、贈与税の課税対象となります。