概要
暗号資産は比較的新しい金融商品のため、税務上の取扱いで不明な部分は多々あり、これについては致し方ないと思います。
国税庁はホームページ上で、暗号資産に関する税務上の取扱いについて公開していますが、初めて公開されたのは平成29年12月1日付けでした。
当時は暗号資産ではなく仮想通貨とよばれていたため、「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」として、個人の所得税に関する取扱いのみが公開され、ページ数は6ページしかありませんでした。
その後、毎年、取扱いが改正、追加され、令和5年12月25日「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」では、所得税だけでなく法人税、相続税、贈与税、源泉所得税、消費税、法定調書の取扱いについても記載され、60ページと数年で10倍の情報量となっています。
しかしながら、まだ、情報が足りないのは事実だと思います。「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」を読んで、自分がわからないことが解決できれば良いのですが、解決できないことも多々あると思います。
上場株式等の税務上の取扱いについては、法令、通達や質疑応答事例に書かれていないことでも、税務裁判例・裁決例が多数あり、それらを参考に判断することができます。
しかしながら、暗号資産は比較的新しい金融商品のため、税務裁判例・裁決例も少ないのが現状です。
今後、「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」の充実や、税務裁判例・裁決例の多数の事例化により、暗号資産の取扱いについて、だんだん明確化されていくでしょう。
問題は、ほぼ明確化されたという時が来るまでに、「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」や、税務裁判例・裁決例を調べても、取扱いがわからない場合です。
このような場合は、まず、所轄税務署に相談に行くことをお勧めします。ただし、税務署における税務相談において的確な指導や助言等がなかった場合であっても、所得税等の申告については、自らが十分な検討をした上で、最終的には、自己の判断と責任において申告を行う必要があります(令和5年5月19日裁決・関裁(所)令4第38号)。
令和5年5月19日裁決・関裁(所)令4第38号判断要旨
投資家が令和2年中にステーキングにより暗号資産を取得しましたが、期限内に令和2年分の所得税等の確定申告をしませんでした。その後、令和2年分の所得税等の確定申告書を法定申告期限後に提出したところ、所轄税務署が無申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、投資家が、期限内申告書を提出することができなかった理由は、所轄税務署にステーキングにより暗号資産を取得した場合の取扱いについて相談していたにもかかわらず的確な指導がなかったこと及び当該取扱いが国税庁ホームページに掲載されたのが令和3年12月であったことなどであり、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があるとして、その全部の取消しを求めるとともに延滞税の取消しを求めて争われました。
令和5年5月19日裁決では、以下のように判断し、投資家の請求は棄却されました。
「『ステーキングにより暗号資産を取得した場合、その取得に伴い生ずる利益は所得税の課税対象となります。』旨の取扱い(以下、この取扱いを「本件取扱い」という。)が記載された『暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)』(以下「本件FAQ」という。)は、暗号資産に関する税務上の取扱いについて、税目ごとに寄せられた一般的な質問等を取りまとめた情報であり、これらの情報は、申告納税制度の下で納税者自らの計算に基づいて申告を行うための参考として国税庁が作成しているものである。このような本件FAQの性格からすれば、本件取扱いが国税庁ホームページに掲載された時期を踏まえても、納税者自らの判断と責任において期限内申告を行うべきことに変わりはなく、納税者自らの期限内申告が制限されることにもなり得ないから、本件取扱いが国税庁ホームページに掲載された時期が法定申告期限後であり、国税当局が法定申告期限までに本件取扱いを確定できていなかったことを理由に、請求人に期限内申告を求めることが酷であるという請求人の主張は、採用できない。そうすると、法定申告期限までに本件税務相談に対する原処分庁からの的確な指導がなかったことや本件取扱いが国税庁ホームページに掲載されていなかったことをもって、請求人が令和2年分の所得税等について法定申告期限までに確定申告書を提出できないと考えたとしても、それは、請求人が自己の判断と責任において行動した結果であるといわざるを得ず、請求人の主観的な事情というべきであるから、請求人の主張にはいずれも理由がない。」