信用取引

信用取引売付け(売建)の場合-信用取引により株式を売った場合

 信用売りの場合は、証券会社から借りた株式を売りつけ、後に買い戻して株式を返済します。なお、現物株と逆のイメージで株価下落で利益が発生します。よって、現物株で発生する損失を相殺することもできるということになります(ヘッジ取引)。

 例えば、信用売りで100万円をした株式を60万円で買えれば、100万円-60万円=40万円が利益になるということです。ただし、株価の上昇で損失が出るということです。

信用取引で売建てした場合の経理・税務処理

 担保差入金 3000万円   借入有価証券 2989万円
              未払金     11万円

 信用取引で売建てした場合は、借り入れた株式を売り付けますが、売却代金は直ちに借り入れた株式の担保として差し入れるため、「担保差入金」として処理します。日付は、約定日となります。

 売委託手数料は決済時に精算するため、「未払金」として処理します。借入れた有価証券は、証券会社から借りた有価証券であるため、「借入有価証券」として処理します。

委託保証金の差入れをした場合の経理・税務処理

 差入保証金 900万円 現金預金 900万円

 信用取引で売建てをする場合は、委託保証金(約定価額の30%か、30万円のいずれかより多い金額)を差入れする必要があり、その際に、上記のような仕訳をします。

 株式相場の変動により、委託保証金の額が20%を下回った時は、追加の保証金(追証)を要求されます。追加の保証金を差し入れることができない場合は、強制決済となります。

 なお、現金預金の代わりに、有価証券を差入することもでき、その場合は、下記のような仕訳をします。

 差入保証金代用有価証券 1000万円 差入保証金代用有価証券見返 1000万円

 この場合の差入保証金代用有価証券の金額は、差し入れた有価証券の簿価金額を記載します。なお、株式相場が下落傾向にある場合は、差入れた株式じたいの価値が下がり、追加の保証金等を要求される場合があります。

信用取引売付け(売建)の決済方法

 信用取引売付け(売建)の場合、所定の期限内に、信用取引の決済をする必要があります。「売って買い戻す」という一連の行為を終わらせることを「手仕舞う(返済、 決済 )」といいます。

 信用取引の決済方法には、主たる決済方法である反対売買による差金決済(買決済)と、現物株式の受渡しによる現物決済(現渡し)があります 。それぞれの信用取引の決済方法(信用売りの返済)は次のとおりです。

イ 買決済 … 証券会社から借りて売付けた株式について、売付けた株式と同種同量の株式を買戻し、「株式の売却代金」と「株式を買戻した時の代金」の差額(差金)の受渡しを行うことで決済する方法

ロ 現渡し … 証券会社から借りて売付けた株式について、売付けた株式と同種同量の株式を自ら用意(もともと持っていた現物株式や別途調達した現物株式)して証券会社に引渡して返済し、売却代金を受取る方法

買決済をした場合の経理・税務処理

 借入有価証券 2989万円     担保差入金       3000万円
 未払金     11万円     信用取引有価証券売却益 200万円
 現金預金    1100万円    差入保証金       900万円

 信用取引の方法により、株式の売付けをし、その後にその株式と銘柄を同じくする株式の買付けをして決済をした場合における譲渡益又は譲渡損の益金又は損金算入については、以下の(1)の金額と(2)の金額の差額を譲渡利益額又は譲渡損失額の金額とし、譲渡に係る契約をした日はその決済に係る買付けの契約をした日とします(法法61の2㉑)。
(1)その売付けをした株式のその売付けに係る対価の額
(2)その買付けをした株式のその買付けに係る対価の額

 買決済をした場合は、一般の現物の保有株式(信用取引以外での株式)と区別して、売却損益を個別法により計算し、売却損益は買決済の約定日の属する事業年度に帰属するということです。

 売付けを行った者が証券業者等から支払を受ける金利に相当する額は、売付けに係る対価の額に含めます(法基通2-3-2(1))。ただし、売付けに係る対価の額に含めず、その発生に応じ収益として益金の額に算入している場合には、継続適用を条件として認められます(法基通2-3-2本分)。ただし、現状は0円のことが多いです。

 売付けを行った者が証券業者等に支払う買委託手数料の額は、買付けに係る対価の額に含めます(法基通2-3-2(2))。

 また、売付けを行った者が証券業者等に支払う品貸料の額は、買付けに係る対価の額に含めます(法基通2-3-2(2))。ただし、買付けに係る対価の額に含めず、その発生に応じ費用として損金の額に算入している場合には、継続適用を条件として認められます(法基通2-3-2本分)。

 また、売付けを行った者が証券業者等に支払う配当落調整額及び権利処理価額に相当する額は、売付けに係る対価の額から控除します(法基通2-3-2(5))。ただし、配当落調整額については、売付けに係る対価の額から控除せず、その発生に応じ費用として損金の額に算入している場合には、継続適用を条件として認められます(法基通2-3-2本分)。

 配当落調整額とは、信用取引等に係る株式につき配当が付与された場合において、証券業者等が売付けを行った者から徴収し又は買付けを行った者に支払う当該配当に相当する金銭の額をいいます(法基通2-3-2(注))。15.315%の所得税等を差し引かれた金額となっています。

 また、権利処理価額とは、信用取引等に係る株式につき、株式分割、株式無償割当て及び会社分割による株式を受ける権利、新株予約権又は新株予約権の割当てを受ける権利(以下「株式を受ける権利等」という。)が付与された場合において、証券業者等が売付けを行った者から徴収し又は買付けを行った者に支払う当該株式を受ける権利等に相当する金銭の額をいいます(法基通2-3-2(注))。

 信用取引等の決済に係る約定が成立した日後に配当落調整額の授受が行われると見込まれる場合の適用は、次の通りとなります(法基通2-3-3)。
(1) 当該配当落調整額は、当該決済に係る約定が成立した日の現況により適正に見積もった金額とします。
(2) (1)により見積もった配当落調整額と実際に授受された配当落調整額とが異なることとなった場合には、当該実際に授受された配当落調整額との差額は、当該差額を授受する日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入します。

現渡し(品渡し)をした場合の経理・税務処理

 借入有価証券   2989万円    担保差入金        3000万円
 未払金       11万円    信用取引有価証券売却益  1789万円
 現金預金     3889万円    有価証券         1200万円      
                  差入保証金         900万円

 現渡しした株式の帳簿価額で「有価証券」として仕訳をします。その額と、借入有価証券(信用取引で売建てした金額-売委託手数料)との差額が信用取引有価証券売却損益となります。

 信用取引の方法により株式の売付けを行った場合において、現渡しの方法による決済を行ったときは、当該取引に係る譲渡損益の額は、当該決済に係る約定が成立した日に計上します(法基通2-1-23の3)。

期末未決済株式がある場合の経理・税務処理

 期末に決済したものとみなして、評価損益計上をします(法法61の4①③、法令119の16①)。結果、借入有価証券の金額は、「期末時点の時価(終値)×株数」となります。

 売買目的有価証券の期末評価のようなことであり、評価損益を当該事業年度の所得金額の計算上、益金または損金の額に算入します。

 借入有価証券 200万円   信用取引有価証券評価損益 200万円

 そして、翌期首に、洗替方式により戻し入れをします。

 信用取引有価証券評価損益 200万円   借入有価証券 200万円

消費税

売上

 信用取引の方法により株式の売付けを行った場合におけるその売付けに係る株式の譲渡の時期は、当該売付けに係る取引の決済を行った日となります(消基通9-1-18)。

 信用取引による株式の売付けも株式譲渡であるため、消費税法上は非課税売上となります。課税売上を計算するときは譲渡対価(売決済の場合は売却価額)の5%を分母の金額に算入します(消令48⑤)。決済差益は関係ありません。

 買決済、現渡しのどちらであっても、当初売付けに係る譲渡対価の5%を分母の金額に算入します。

 受取金利の額   非課税売上

仕入

 取引における支払った委託手数料には、消費税がかかっています(課税仕入)。

 支払品貸料の額    課税仕入ではありません。

 支払配当落調整額   課税仕入ではありません。

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