概要

 暗号資産信用取引とは、暗号資産交換業者から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買のことをいいます。差し入れた証拠金(日本円や暗号資産)の2倍までの取引が可能となっており、証拠金が1万円ならば2万円分の暗号資産の取引ができるということになります。

 上場株式の信用取引と似たような取引となりますが、上場株式の信用取引のように「上場株式等に係る譲渡所得等(事業所得又は雑所得に該当)」の申告分離課税(措法37の11、措通37の10・37の11共-2(注))の対象ではありません。現在、暗号資産信用取引は総合課税(所法35)の対象となります。

 暗号資産の現物取引の場合は「買い」からしか始められませんが、暗号資産信用取引は「売り」から始めることもできます。暗号資産信用売り取引ともいい、一定の額を証拠金として暗号資産交換業者に預け、暗号資産を借りて売却を行い、その後、売却した暗号資産と種類を同じくする暗号資産を買い戻す取引をいいます。相場が下がると思った時は、「売り」から入って利益を得ることが可能です。

 一方、暗号資産信用取引を「買い」から始める場合は、暗号資産信用買い取引ともいい、一定の額を証拠金として暗号資産交換業者に預け、資金を借りて暗号資産を購入し、その後、借り入れた資金を返済する取引をいいます。相場が上がると思った時は、資金が少なくても現物取引をする場合と同じ金額の利益を得ることが可能となっています。ただし、「信用買い取引」を提供していない業者はいます。

暗号資産信用取引の金利と品貸料

 買い方が暗号資産交換業者から資金を借りて暗号資産を購入した場合、借りた資金の「金利」を支払う場合があります。

 売り方が暗号資産交換業者から売る分の暗号資産を借りた場合、「品貸料」を支払う場合があります。

 よって、金利と品貸料がある場合、買付け価額、売付け価額は下記のように取り扱われます。

 買付けを行った場合は、暗号資産交換業者に支払う金利は買付け価額(取得価額)に含め、暗号資産交換業者から支払を受けるいわゆる品貸料は買付け価額から控除します(所基通36・37共-22(3))。

 売付けを行った場合は、暗号資産交換業者から支払を受ける金利は売付け価額(収入金額)に含め、暗号資産交換業者に支払ういわゆる品貸料は売付け価額から控除します(所基通36・37共-22(4))。

暗号資産信用取引の所得計算

 暗号資産信用取引を行った場合の所得については、その取引の決済の日の属する年分の所得となりますが、暗号資産信用取引による所得金額は、売付け価額から買付け価額を差し引いた金額となります。

  譲渡原価は、個別法により計算した金額となります(所令119の7)。すなわち、暗号資産信用取引による暗号資産の売買については、その原価の計算を同じ種類の他の暗号資産と区分して個別原価により行うこととされ、通常の評価の方法(総平均法又は移動平均法)による評価は行わないことになります。

 また、 売却手数料や、その他必要経費がある場合には、その必要経費の額を差し引いた金額が所得金額となります。

〇「買い」から「売り」の場合の所得計算
 所得金額=(売却価額)-(譲渡原価+買委託手数料+支払金利-品貸料)―(売却手数料+その他必要経費)

〇「売り」から「買い」の場合の所得計算
 所得金額=(売却価額+受取金利-品貸料)(譲渡原価+買委託手数料)―(売却手数料+その他必要経費)

計算例

例1

(Q)次の暗号資産信用取引を行った場合の所得金額はいくらか。

・令和〇年 3月 1日  差し入れてある証拠金を担保に200万円を借り入れ、2BTCを200万円(1BTC=100万円時価)で買い付けた。
・ 令和〇9月24日  2BTCを240万円(1BTC=120万円時価)で売り付け、同時に、借りていた200万円を返した。
・支払金利3万円、受取品貸料2万円、売却手数料1万円、その他必要経費0円

(A)「買い」から「売り」の場合の所得計算であるため、以下となります。

 所得金額=240万円-(200万円+3万円-2万円)-1万円 =38万円

例2

(Q)次の暗号資産信用取引を行った場合の所得金額はいくらか。

・令和〇年 3月 1日  差し入れてある証拠金を担保に2BTCを借り入れ、それを200万円(1BTC=100万円時価)で売り付けた。
・ 令和〇9月24日  2BTCを160万円(1BTC=80万円時価)で買い付け、同時に、借りていた2BTCを返した。
・受取金利0円、支払品貸料2万円、売却手数料1万円、その他必要経費0円

(A)「売り」から「買い」の場合の所得計算であるため、以下となります。

 所得金額=(200万円-2万円)-160万円-1万円 =37万円