概要

 給与所得を有する者(会社の役員や従業員)が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行等をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるものは、使用者等(会社等)の業務上の必要に基づく支出の実費弁償にすぎないものであるため、非課税とされています(所法9①四)。

 実務的には、使用者から旅行に必要な運賃、宿泊料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品は非課税とされますが、範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとされています(所基通9-3)。

(1)社内でのバランス
 その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び従業員の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。

(2)社外とのバランス
 その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。

 実費精算でなくても非課税とできる理由について、「令和6年版所得税基本通達逐条解説60頁/大蔵財務協会」では、以下のように解説されています。

 この考え方(編注:旅費について実費弁償部分を非課税とする考え方)を厳密に貫く場合には、個々の旅行についてすべて実費精算を行わなければならないことになるが、旅行に要する費用(特に、雑費のようなもの)は、その旅行の目的、目的地、旅行者の地位等によって一様でないことから、そのすべてについて実費精算を行うことは実務上はまず不可能といえる。
 すなわち、鉄道や航空運賃などについては、そのような判定ができないわけではないとしても、その他の費用に充てられるものとして支給される部分の金額については、その個々の支出について、その旅行のための必要性を判定することは、実務上不可能といえよう。
 本通達は、このような事情を考慮し、その支給する金品が、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲であるかは、その旅行の目的地、期間等の個別的事情のほか、その支給額が同業社等社会的にみて合理的と認められる支給基準によって計算されたものであるかどうかを勘案して判定することを明らかにしたものである。

 なお、給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するためにした旅行で、旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な支出に充てるものとして支給される金品の額が、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲の金額を超える場合には、その超える部分の金額は給与所得となり非課税となりません(所基通9-4)。

 従業員の数が多いならば別ですが、小さい会社(特に、社長とその親族しかいない会社)の場合は、旅費を実費精算するのは、さほど難しくないと思いますので、実費精算をお勧めします。

 常識的な範囲の旅費であり、かつ、実費精算であるならば、税務調査で否認されることはまずないでしょう。

目安となる国家公務員等の旅費

 従業員の数が多く、実費精算が難しい場合は、同業種、同規模の会社の支払い状況を参考に旅費規定を作り、それを元に支払うということになります。

 ただし、実際の争いになると、認められる旅費や日当の金額は、極めて低くなる可能性があり、調査官の中に「日当の適正金額は2,000~3,000円」という者がいる理由は下記からです。

 宇都宮地裁昭和50年10月16日判決(昭和42年(行ウ)9号)では、代表取締役甲と取締役乙の日当の金額で争われましたが、課税庁側は、国家公務員についての日当定額を示し、それに比べると、甲及び乙の日当は高すぎると主張し、結果的に、甲及び乙の日当の適正金額は1,000円であると判示されました。

 その当時の金額よりも現在の国家公務員の宿泊料、日当(国家公務員等の旅費に関する法律別表)は高くなっていますが、それでも、以下のような金額(令和6年7月20日現在)です。

国家公務員の内国旅行の日当及び宿泊料

区分日当(一日につき)宿泊料(一夜につき)
甲地方乙地方
指定職の職務にある者3,000円14,800円13,300円
7級以上の職務にある者2,600円13,100円11,800円
6級以下3級以上の職務にある者2,200円10,900円9,800円
2級以下の職務にある者1,700円8,700円7,800円

〇 日当は、旅行中の昼食代を含む諸雑費、地域内を巡回する場合の交通費を賄うための旅費であり、日数に応じ1日当たりの定額を支給されもの。
 その構成要素及び内訳は、昼食代及び諸雑費が1/2、目的地内を巡回するための交通費が1/2とされている。
 なお、鉄道100km未満(近距離旅行)の場合は定額の1/2が支給される。

〇 宿泊料は、宿泊料金、夕・朝食代及び宿泊に伴う諸雑費を賄うための旅費をいう。
 宿泊料の欄中甲地方とは、さいたま市、千葉市、東京都特別区、横浜市、川崎市、相模原市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、広島市、福岡市をいい、乙地方とは、それ以外の地域をいう。

宇都宮地裁昭和50年10月16日判決(昭和42年(行ウ)9号)(棄却)(控訴)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 原告Xは税務会計事務を事業内容としている会社であり、甲はXの代表取締役であり、乙は取締役である。
② Xは、法人税の申告において、甲の旅費中、日当1日当り3,000円および乙の日当1日当り2,000円を損金として処理したのを、所轄税務署長がそのうち1,000円だけを認め、残額を否認したことにより争いとなった。

(2)本件の主な争点

 本件の争点は、Xが損金とした甲及び乙の日当金額が適正であるか否かである。

(3)判決要旨(棄却)(控訴)

 およそ民間企業の旅費規定において定額制を採用し、日当の定額を定めた場合、その金額が物価事情、企業の規模など諸般の事情に照らし、社会通念の許容する範囲を超えた場合には、税務官庁がその超過すると判断される部分の経費性を否認できることは当然すぎるほど当然のことである。そうでなければ、「日当」という名による合法的脱税がいくらでもまかりとおることになるからである。
 なお、Xは、旅費規定の内容が民法第90条(公序良俗違反)に該当しないかぎり、税務官庁がこれを否認できない、と主張するが、まったく独自の見解であって、採用できない。
 日当のうち1,000円を越える部分を否認した所轄税務署長の判断は正当であったものと認められる。したがって、本件更正決定には、Xの主張する違法性を認めることができないので、その取消をもとめるXの本訴請求は失当であるから棄却する。