共済金の相続税法上の取り扱い

 個人事業者の死亡による廃業に伴い遺族に支給される共済金(小企法9①一)は、一時金として支給(小企法9の2)され、相続税法上、みなし相続財産である退職手当金等に該当(相法3①二、相令1の3十)するとともに、一定額が非課税の対象になります(相法12①六)。

 なお、千葉地裁令和4年11月18日判決(税資272号(順号13773))は、契約者であった亡丙が亡くなる前に既に事業を廃止していたが、小規模企業共済金を納付し続けていて、相続が発生したという事例ですが、共済金支払請求権は、みなし相続財産ではなく、本来の相続財産と判示されました。

 契約者であった者が事業廃止をした場合は共済金の請求事由となり、その者の掛金納付月数が6月以上のときは、中小企業基盤整備機構(以下「機構」という。)は、その者に共済金を支給することになっています(小企法9①一)。

 よって、亡丙は生前に、機構に対し、機構が支給すべき共済金の額、支給時期等が確定された具体的な共済金請求権を取得していたことになります。

 そのため、相続税が課されたのは亡丙が既にもっていた共済金請求権であり、みなし相続財産として相続税が課されたものでなく、本来の相続財産(相法2)として相続税が課されたものであると判示されました。

共済契約者死亡の場合における共済金受給権者の範囲および順位

 受給権者の範囲および順位は、民法上の相続の一般原則とは異なり、小規模企業共済法に規定されています。

 共済契約者が死亡したことにより支給される共済金を請求できる者の範囲および順位は、次表に掲げる最も上位の者になります(小企法10)。先順位者を越えて請求することはできません。

受給者順位親族備考
第1順位配偶者戸籍上の届出はしていないが、事実上婚姻と同様の事情にあった者を含む
第2順位共済契約者の死亡の当時、主としてその収入によって生計を維持していた者
第3順位父母
第4順位
第5順位祖父母
第6順位兄弟姉妹
第7順位その他親族
第8順位共済契約者の死亡の当時、主としてその収入によって生計を維持していなかった者
第9順位父母
第10順位
第11順位祖父母
第12順位兄弟姉妹
第13順位ひ孫
第14順位甥・姪

内縁の妻が受け取る共済金の相続税の取扱い

 受給権者の順位1位は配偶者となっていますが、共済契約者の死亡の当時、事実上婚姻関係と同様の事情にあつたものを含むとされています(小企法10一)。そのため、内縁の妻が共済金を受け取ることは可能です。

 内縁の妻は相続人以外の者に該当することになりますので、相続税法では遺贈により取得した退職手当金等として、共済金はみなし相続財産に該当することになります。

 ただし、共済金は、相続人が相続により取得したものに該当しませんので、相続税の非課税財産である一定金額(非課税限度額)に相当する部分の非課税の適用を受けることはできません。

 また、内縁の妻は、亡くなった人の一親等の血族及び配偶者のいずれにも該当しないことから、内縁の妻の相続税額にその相続税額の100分の20に相当する金額を加算する必要があります(相法18①)。

前納減額金及び過納掛金の相続税法上の取り扱い

 掛金をまとめて(翌月以降の掛金の前納)納付した場合に前納月数に応じて支払われる「前納減額金」や、共済金等の請求事由発生年月の翌月以降に相当する掛金である「過納掛金」に対する返戻金を遺族が受け取った場合の取り扱いですが、相続税法上において、みなし相続財産としての規定等はありません。

 従って、前納減額金及び過納掛金に対する返戻金は、相続税法上、退職手当金等とされる一時金には含まれず、未収金として本来の相続財産として計上する必要があるものと考えられています。

 千葉地裁令和4年11月18日判決(税資272号(順号13773))においても、前納減額金及び過納掛金の返還請求権についての相続財産該当性は争点から外れています。

事業廃止後も小規模企業共済契約に係る掛金を納付していて相続が発生した場合、共済金支払請求権は本来の相続財産とされた事例-千葉地裁令和4年11月18日判決(税資272号(順号13773))(棄却)(確定)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 亡丙は、個人事業者であったところ、昭和58年12月、中小企業事業団(現在の独立行政法人中小企業基盤整備機構、以下「機構」という。)との間において、小規模企業共済法2条2項の共済契約(以下「本件共済契約」という。)を締結した。
 亡丙は、昭和58年12月から平成19年3月まで本件共済契約に係る掛金を納付していたところ、同月30日に事業を廃止した。
② 亡丙は、平成27年3月◯日に死亡し、本件相続が開始した。本件相続に係る共同相続人は、亡丙の子である原告Xら2名である。
③ 本件共済契約の掛金は、事業の廃止日が属する月の翌月である平成19年4月以降も、平成27年12月まで、亡丙名義の預金口座から引き落とされ、納付された。平成19年4月から本件相続の開始日である平成27年3月までに納付された掛金の合計額は190万円(月額2万円、95か月)であり、本件相続の開始日の翌日から平成27年12月までに納付された掛金の合計額は20万円(月額2万円、10か月)である(以下、平成19年4月以降に納付した掛金の合計額210万円を「本件過納掛金」という。)。
④ Xは、平成30年9月26日、相続人の代表として、機構に対し、共済金の請求事由を「個人事業の廃止」、請求事由発生日を事業の廃止日である「平成19年3月30日」とし、受給権者である亡丙の権利義務を相続することになったとして、本件共済契約に係る共済金及び本件過納掛金の支払を請求した。
機構は、平成30年10月19日付けで、上記の請求について、小規模企業共済契約に係る共済金の支払決定をしたが、当該決定に係る支払金額2552万8278円の内訳は次のとおりである。
イ 請求事由発生年月日を事業の廃止日とする本件共済契約に基づく共済金2513万4178円(以下「本件共済金」といい、本件共済金の支払請求権を「本件共済金請求権」という。)から、亡丙の退職所得に該当するとして課税された所得税、市町村民税及び道府県民税の源泉徴収をした後の金額2347万6778円
ロ 本件過納掛金のうち平成19年4月から本件相続の開始日までに納付された190万円と、前納となった掛金に対する返戻金1500円との合計額190万1500円から、平成19年3月までの未収掛金5万円を差し引いた185万1500円(以下、これらの本件過納掛金等の返還請求権を「本件過納掛金請求権」という。)。
ハ 本件過納掛金のうち本件相続の開始日の翌日以降に納付された20万円。
⑤ 亡丙の相続に係る相続税について、亡丙が生前有していた小規模企業共済法による共済契約に基づく共済金の支払請求権及び過納掛金の返還請求権が亡丙の相続財産でないとして、修正申告をしたところ、処分行政庁から、上記各請求権は亡丙の相続財産であるとして、更正等(以下「本件更正等」という。)を受けたことから、上記共済金の支払請求権は亡丙の相続財産でないなどと主張して、本件更正等のうち上記修正申告に係る納付すべき税額を超える部分等の取消しを求めた。

(2)本件の主な争点

 本件の争点は、本件共済金請求権が亡丙の相続財産であるか否か(争点1)、本件共済金請求権の価額(争点2)である。なお、Xらは、本件の弁論準備手続において、本件過納掛金請求権が亡丙の相続財産であることは争わないとしたことから、本件過納掛金請求権の相続財産該当性は争点から外れた。

(3)判決要旨(棄却)(確定)

(争点1)
① 小規模企業共済法の規定に照らせば、共済契約者は、共済契約の締結の事実により、機構が支給すべき共済金の額、支給時期等が具体的に定まらない抽象的な共済金請求権を取得し、その後、共済契約者に事業の廃止があり、その者の掛金納付月数が6月以上であると、その事実により、機構が支給すべき共済金の額、支給時期等が確定された具体的な共済金請求権を取得するに至ると解するのが相当である。
② 亡丙が、昭和58年12月29日に本件共済契約を締結したこと、昭和58年12月から平成19年3月まで本件共済契約に係る掛金を納付していたこと、同月30日に事業を廃止したことは、亡丙は、平成19年3月30日に、事業を廃止したことにより、機構に対し、機構が支給すべき共済金の額、支給時期等が確定された具体的な共済金請求権である本件共済金請求権を取得したと認めることができる。その後、相続の開始日までに、亡丙が本件共済金請求権を行使し共済金の支給を受けた事実はなく、相続の開始日において、本件共済金請求権は亡丙に帰属していたということができる。共済金等の支給を受ける権利は5年間行なわないときは時効によって消滅する(小規模企業共済法23条1項)ところ、亡丙は本件共済金請求権を5年間行使しなかったから、消滅時効の期間は経過していたが、機構は、本件共済金請求権の消滅時効の援用をしていないし、消滅時効の期間の経過後も、本件共済契約の掛金の引落しを続け、その納付を受けていたのであり、機構が本件共済金請求権の消滅時効の援用をすることは信義則に反するものというべきである。
③ そうすると、亡丙は、相続の開始日である平成27年3月◯日において、本件共済請求権を有していたということができるのであり、本件共済金請求権は、亡丙の相続財産であり、亡丙の相続である本件相続により取得した財産である。
 Xらは、本件共済金は亡丙に係る退職手当金等としての性質を有するところ、本件共済金の支払決定日は相続の開始日である平成27年3月◯日の3年経過後の平成30年10月19日であり、本件共済金は、亡丙の死亡後3年以内に支給が確定したものでないから、みなし相続財産でないと主張する。しかし、相続税が課されたのは、本件共済金請求権であって本件共済金でない。また、本件共済金請求権は、相続税法3条に規定するみなし相続財産として相続税が課されたものでなく、同法2条に規定する本来の相続財産として相続税が課されたものである。
④ Xらは、所得税法9条1項16号(現行、17号)は、相続により取得する所得については、所得税を課さないと規定するところ、本件共済金については、平成30年の支給に当たり源泉徴収がされており、所得税が課されていることを指摘し、本件共済金請求権に相続税を課することは二重課税であると主張する。しかし、本件共済金に係る所得税の課税は、亡丙に発生した所得を課税財産とし、他方、本件相続に係る相続税は、Xらが亡丙に帰属していた本件共済金請求権を相続により取得したことから、同請求権を課税財産として、それぞれ課税をしたものである。このように、Xらが指摘する所得税と相続税の課税は、それぞれ異なる課税財産に対するものであり、各課税財産が帰属する者も異なるのであるから、二重課税に当たらない。
(争点2)
⑤ Xらは、本件共済契約は財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)214にいう生命保険契約であるから、本件共済金請求権の価額は、本件相続の開始時の解約返戻金の額により評価すべきであり、小規模企業共済解約金としての価額1872万0686円と評価すべきであると主張する。しかし、評価通達214は、「相続開始の時において、まだ保険事故(共済事故を含む。)が発生していない生命保険契約に関する権利の価額は、相続開始の時において当該契約を解約するとした場合に支払われることとなる解約返戻金の額によって評価する。」と定めて、保険事故が発生していない保険契約に関する権利の価額について定めるところ、本件共済契約については、本件相続の開始日において、共済金の給付事由である事業の廃止があったことは、上記②のとおりであり、評価通達214に定める場合に該当しないことは明らかである。
⑥ 本件共済金請求権の価額は、本件共済金請求権のうち亡丙の退職所得に該当するとして課税された所得税、市町村民税及び道府県民税の源泉徴収をした後の金額2347万6778円とするのが相当である。