概要

 我が国の税法上の「法人」の意義については、原則として、借用概念により、私法上の意義と同義に解されています(租税法第二十四版128頁/金子宏著/弘文堂)。

 内国法人については、会社法等において、法人格が与えられている組織体が、税法上の「法人」として取り扱われています。

 一方、外国法に基づいて設立された組織体は、諸外国の法令の定め方が様々であるため、我が国において「法人」として取り扱うべきかについての判断が難しいことがあります。

 特に、米国LLC、LPS、LLPのように、パススルー課税の選択が認められているような場合は、さらに判断が難しくなります。

 最高裁平成27年7月17日第二小法廷判決(民集69巻5号1253頁)では、外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号及び法人税法2条4号に定める外国法人に該当するか否かは、まず、①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討して判断し、これができない場合には、②当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かについて、当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討して判断すべきであると判示しました。

 この判断基準により、現在、外国法に基づいて設立された組織体が、我が国の税法上の外国法人に該当するか否かが判断されています。

 米国LLC(東京高裁平成19年10月10日判決・税資257号順号10798)、米国LPS(最高裁平成27年7月17日第二小法廷判決・民集69巻5号1253頁)、米国LLP(令和5年3月1日裁決・大裁(所)令4第31号)は、我が国の税法上では、外国法人として取り扱われています。

最高裁平成27年7月17日第二小法廷判決(民集69巻5号1253頁)(一部破棄自判、一部破棄差戻し)

(1)事案の概要

 米国デラウェア州の法律に基づいて設立されたリミテッド・パートナーシップ(LPS)が行う米国所在の中古集合住宅の賃貸事業に係る投資事業に出資したXらが、当該賃貸事業により生じた所得が不動産所得(所得税法26条1項)に該当するとして、その所得の金額の計算上生じた損失の金額を他の所得の金額から控除して所得税の申告等をしたところ、所轄税務署長から、当該賃貸事業により生じた所得は不動産所得に該当せず、上記のような損益通算(同法69条1項)をすることはできないとして、それぞれ所得税の更正処分等を受けたため、Xらが国を相手取って訴訟を提起した。

(2)本件の主な争点

 本件LPSは我が国の租税法上の法人に該当するか否かである。

(3)判決要旨(一部破棄自判、一部破棄差戻し)

① 外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かを判断するに当たっては、まず、より客観的かつ一義的な判定が可能である後者の観点として、(1)当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討することとなり、これができない場合には、次に、当該組織体の属性に係る前者の観点として、(2)当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり、具体的には、当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討することとなるものと解される。

② 州LPS法(デラウェア州改正統一リミテッド・パートナーシップ法)や関連法令の他の規定の文言等を参照しても本件LPSがデラウェア州法において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるとはいい難い。

③ 州LPS法は、リミテッド・パートナーシップにその名義で法律行為をする権利又は権限を付与するとともに、リミテッド・パートナーシップ名義でされた法律行為の効果がリミテッド・パートナーシップ自身に帰属することを前提とするものと解される。上記のような州LPS法の定め等に鑑みると、本件LPSは、自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果がLPSに帰属するものということができるから、権利義務の帰属主体であると認められる。

④ 本件LPSは、所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するものというべきであり、不動産賃貸事業はLPSが行うものであり、特段の事情の存在もうかがわれないことなどからすると、不動産賃貸事業により生じた所得は、本件LPSに帰属するものと認められ、出資者らの課税所得の範囲には含まれないものと解するのが相当である。したがって、出資者らは、不動産賃貸事業による所得の金額の計算上生じた損失の金額を各自の所得の金額から控除することはできないというべきである。