概要

 株式等の譲渡をした場合には、当該株式等の譲渡に係る譲渡所得については、他の所得と区分し、その年中の当該株式等に係る譲渡所得等の金額を計算し、その結果、損失の金額がある場合には、当該損失の金額は生じなかったものとみなすのが原則です(措法37の10①)。

 ただし、一定の要件を満たせば特例として、上場株式等を金融商品取引業者等を通じて譲渡したこと等により生じた譲渡損失の金額は、確定申告により、その年分の上場株式等の配当等に係る利子所得の金額および配当所得の金額(申告分離課税を選択したもの)と損益通算することができます。

 また、損益通算してもなお控除しきれない損失の金額については、その年分の翌年以後3年間にわたり、確定申告により、上場株式等に係る譲渡所得等の金額および上場株式等に係る配当所得等の金額から繰越控除することができます。

 いわゆる、上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措法37の12の2)というものです。

 ただし、この特例を適用できるのは、上場株式等を金融商品取引業者等への売委託により行う譲渡など一定の譲渡により生じた損失に限られ、外国において外国の証券会社(金融商品取引法上の許可等を受けていない。)を介して行う譲渡は、この一定の譲渡には該当しません(措法37の12の2②)。

 国外出張等により、滞在した国での証券会社で口座を設け、証券投資をされる方はいるでしょう。

 日本に帰国後も、その口座を閉鎖せずに、そのまま取引をする方もいます。ただし、その外国の証券会社(金融商品取引法上の許可等を受けていない。)を介して行う譲渡で損失が生じても、配当との損益通算ができず、損失の繰越もできないということになりますので注意が必要です。

 金融庁のホームページには、「金融商品取引業者登録一覧」(以下「登録一覧」という。)と題する表が掲げられており、毎月末現在で更新されています。

 登録一覧には、平成19年9月30日以後に登録を受けた金融商品取引業者の登録年月日、名称等が記載されており、第一種金融商品取引業者として登録を受けている場合には、「業務の種別」欄の「第一種」欄に○印が付されています。

 国内証券はまず登録されているので心配はないのですが、国外証券会社をお使いの方は一応調べておくのがよいと思います。もっとも、売委託を行った証券会社に直接問い合わせる方が楽でしょう。

令和元年6月3日裁決(大裁(所)平30第76号)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 審査請求人Xは、平成27年中に、アメリカ合衆国に本店を置く証券業者であるA社への売委託による株式の譲渡を行ったが、譲渡損失の金額(以下「平成27年分譲渡損失額」という。)が生じた。
 なお、A社は、平成27年中において、第一種金融商品取引業者又は登録金融機関(以下、第一種金融商品取引業者と登録金融機関とを併せて「本件特例対象業者」という。)として内閣総理大臣の登録を受けていなかった。
② Xは、平成27年分の所得税の確定申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 その際、Xは、平成27年分譲渡損失額について、措置法37条の12の2に規定する上場株式等譲渡損失額の損益通算及び繰越控除に係る特例(以下「本件特例」という。)を適用し、平成27年中に生じた分離課税配当所得の金額と損益通算した。
③ 原処分庁は、平成30年3月12日付で、Xの平成27年分の所得税について更正処分をした。
 その際、原処分庁は、平成27年分譲渡損失額について、A社が本件特例対象業者に該当しないことから、本件特例が適用されないとして、平成27年中に生じた分離課税配当所得の金額と損益通算はできないとした。
④ 原処分庁が、当該譲渡は当該特例の対象となる上場株式等の譲渡に該当しないなどとして更正処分等を行ったことに対し、Xが、原処分の全部の取消しを求めた。

(2)本件の主な争点

 平成27年分譲渡損失額に本件特例が適用されるか否かである。

(3)裁決要旨(却下・棄却)

① 措置法第37条の10第1項は、居住者が平成16年1月1日以後に株式等の譲渡をした場合には、当該株式等の譲渡に係る譲渡所得については、他の所得と区分し、その年中の当該株式等に係る譲渡所得等の金額を計算し、その結果、損失の金額がある場合には、当該損失の金額は生じなかったものとみなす旨規定している。
 他方、平成21年分以後の各年分の上場株式等譲渡損失額については、本件特例により、当該年分の分離課税配当所得の金額を限度として、当該年分の当該分離課税配当所得の金額から控除することが認められている。
 そして、措置法第37条の12の2第2項は、本件特例の適用について、売委託により行う株式等の譲渡の場合は、本件特例対象業者への売委託により行う上場株式等の譲渡に係る損失の金額のみを対象とする旨規定している。
② これを本件についてみると、A社は、平成27年中において、本件特例対象業者として内閣総理大臣の登録を受けていなかった。
 したがって、平成27年譲渡は、本件特例対象業者への売委託により行う上場株式等の譲渡には該当せず、平成27年分譲渡損失額に本件特例は適用されない。
③ Xは、納税者が、確定申告の時点で、売委託を行った証券業者が本件特例対象業者に該当するか否かを正確に確認することができず、このような状況下で行った確定申告に対する更正処分は、通則法16条に規定する申告納税制度の趣旨に反し不当である旨主張する。
 しかしながら、本件特例対象業者の登録簿は、金融商品取引法29条の3の規定により公衆の縦覧に供されるものとされ、各財務局に備え置かれて公衆の縦覧に供されているほか、金融庁のホームページには平成19年9月30日以後に登録を受けた金融商品取引業者の登録年月日及び名称並びに業務の種別等が記載された登録一覧が記載されており、毎月末現在で更新されている。
 また、金融商品取引法37条《広告等の規制》1項の規定により、本件特例対象業者は、その登録番号等の表示義務を負い、同法205条10号及び207条1項6号の規定により、当該表示義務の履行は、刑事罰によって担保されているから、納税者は、取引時及び確定申告時のいずれにおいても、各財務局又は売委託を行った業者に問い合わせるなどすることで、当該業者が本件特例対象業者であるか否かを容易に確認することができる。
 そして、特定の本件特例対象業者が登録や登録抹消を頻繁に繰り返すことは一般的に想定し難い以上、納税者は、上記の公表制度の下において、自己が売委託をしようとしている業者が本件特例対象業者か否かを知ることが原則的に保障されているといえる。
 したがって、Xの主張は、その前提を欠き、採用することができない。
④ Xは、本件特例を適用しないとしてした原処分が、結果として適正・公正な課税の原則に反した差別を引き起こしているのであるから、かかる処分は不当である旨主張する。
 しかしながら、Xのこれらの主張は、結局、立法内容の不当性の主張又は立法政策に関する意見にすぎないところ、当審判所は、原処分庁が行った処分が国税に関する法令に反する違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であって、その処分の基となった法令自体の適否又は合理性を判断することはその権限に属さないことである。
 よって、Xのこれらの主張については、審理の限りではない。