概要
サラリーマンなどの給与所得者で他に所得がない場合は、準確定申告が不要のことが多いです。収入先が勤め先での給与収入1つなら、会社などがその人の給与所得にあわせて、年末調整をしてくれるからです(所法190、所基通190-1(1))。
年の中途で死亡した人は、その年1月1日から死亡した時点までに支払べきことが確定している給与の総額を対象として年末調整が行われます。よって、給与の額が生存中の期間に対応するものであるとしても、死亡後に支給期が到来するものは、年末調整の対象からは除かれます。
例えば、A社の給与の締日は15日で、支給日は翌月10日であった場合で、A社に勤務する甲が6月5日に死亡したとします。この場合、5月10日支給分までが年末調整の対象となります。
実際に本年中に支払が行われたかどうかには関係なく、未払となっているものであっても、本年中に支給期日の到来した給与は年末調整の対象になります。
なお、死亡により退職した従業員の給与についての「給与所得の源泉徴収票」は、会社から相続人に交付されます(国税庁HP質疑応答事例「死亡により退職した者の給与に係る源泉徴収票の交付」)。
会社側の処理としては、死亡した人に係る給与等で死亡時までに支給期の到来している給与等(死亡前に支払が確定している給与等)については、「給与所得の源泉徴収票」の「支払金額」欄に含める必要があります(この分も含め、年末調整を行います。)。源泉徴収票の「死亡退職」欄に「○」を表示します。
一方、死亡後に給与等の支給期の到来するものについては、本来の相続財産として、相続税の課税対象となる(相基通3-33)ため、「給与所得の源泉徴収票」の「支払金額」欄に含める必要はありません。つまり、相続税の課税価格計算の基礎に算入されるので、所得税は課税されません(所基通 9-17)。
上記の給与等の支給期については、所得税基本通達36-9《給与所得の収入金額の収入すべき時期》(1)等に定めるところによります。
所得税基本通達36-9(1)は、給与所得の収入金額の収入すべき時期については、原則として、契約又は慣習その他株主総会の決議等により支給日が定められている給与等についてはその支給日、その日が定められていないものについてはその支給を受けた日となる旨定めています。
なお、死亡後に支給期の到来する給与から控除された社会保険料は、被相続人が負担すべき社会保険料として相続財産の課税価格の計算上債務控除されることになるので、社会保険料控除の対象とはされません。よって、準確定申告において、その控除された社会保険料を社会保険料控除の対象とすることはできません。
また、被相続人が受けるべきであった賞与の額が被相続人の死亡後確定したものは、本来の相続財産として、相続税の課税財産となります(相基通3-32)。
設例
(設例)
A社の役員である甲は、令和3年6月10日に死亡した。
A社の社内規定では、役員及び社員への給与について、月末までの勤務分を翌月15日に支給する旨定めており、これに基づき、甲の令和3年5月分の給与(以下「本件給与」という。)50万円が同年6月15日に甲の口座へ振り込まれた。
また、A社は、令和3年6月20日に、株主総会により甲への役員賞与(以下「本件賞与」という。)300万円を支給する旨の決議を行い、同月30日に当該賞与が甲の口座へ振り込まれた。
これら甲の死亡後に支給された本件給与及び本件賞与に係る課税関係はどのようになるか。
(答え)
本件給与及び本件賞与は、いずれも本来の相続財産として、相続税の課税財産となる。
また、いずれも所得税の課税は生じない。