概要
太陽光発電による電力の売却収入は、雑所得、事業所得、不動産所得になる場合があり、どの所得になるかを間違わないように注意をしましょう。
雑所得
サラリーマン等の給与所得者が太陽光発電設備を家事用資産として使用し、その余剰電力を売却しているような場合には、雑所得に該当します。
仮に、給与所得者が全量売電を行っている場合であっても、それが事業として行われている場合を除き、雑所得に該当します(国税庁HP質疑応答事例「自宅に設置した太陽光発電設備による余剰電力の売却収入」)。
なお、太陽光発電設備を自宅に設置しているような場合ですと、事業所得と認められる可能性はかなり低いと思います。
事業所得
太陽光発電による電力の売却収入については、それを事業として行っている場合や、他に事業所得がありその付随業務として行っているような場合には事業所得に該当します。
事業所得に該当するか否かの目安
かって、資源エネルギー庁が、個人が行う太陽光発電設備による全量売電に係る売電収入が事業所得に該当するか否かを判断する目安を以下のように公表していました(同庁HP「グリーン投資減税について」)。
例えば、電気主任技術者の選任を行っている場合(出力量50KW以上の場合)は、一般的に事業所得になると考えられます。 なお、出力量50KW未満の場合であっても、次のような一定の管理を行っているときなどは、一般的に事業所得になると考えられます。 ①土地の上に設備を設置した場合で、当該設備の周囲にフェンス等を設置しているとき ②土地の上に設備を設置した場合で、当該設備の周囲の除草や当該設備に係る除雪等を行っているとき ③建物の上に設備を設置した場合で、当該設備に係る除雪等行っているとき ④賃借した建物や土地の上に設備を設置したとき など (注)自己の建物の上に設備を設置した場合で、特段の管理を行っていないときは、雑所得になります。 |
なお、上記の目安は、かって、資源エネルギー庁が公表していた目安というだけであり、課税庁がそのままOKするとは断言できません。
また、この目安による判断は全量売電に限られるものであるため、余剰売電では一定の管理をしていても、その電力の本来の使用状況に応じた付随収入として考えるべきでしょう。
自宅兼店舗
自宅兼店舗に設置した太陽光発電設備のように、太陽光発電設備が自宅と店舗との兼用である場合の余剰電力の売却収入は、太陽光発電設備から発電される電力が現に事業所得を生ずべき業務の用に供されている限り、その設備は減価償却資産(事業用資産)に該当しますので(所法2①十九)、その資産からもたらされる収入については、全て事業所得の付随収入とされます(国税庁HP質疑応答事例「自宅兼店舗に設置した太陽光発電設備による余剰電力の売却収入」)。
不動産所得
不動産賃貸業を営む個人が、賃貸アパートの屋上に太陽光発電設備を設置し、これにより発電した電力をその賃貸アパートの共用部分で使用し、その余剰電力を固定価格買取制度に基づき電力会社に売却している場合は、その余剰電力の売却収入も不動産所得に係る収入金額に算入し、その所得金額を計算します(国税庁HP質疑応答事例「賃貸アパートに設置した太陽光発電設備による余剰電力の売却収入」)。
なお、賃貸不動産に太陽光発電設備を設置し、全量売電を行っている場合の売電収入は、不動産所得との関連性が認められないことから、それが事業として行われている場合を除き、雑所得に該当します。
令和4年12月14日裁決(裁事129集)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 審査請求人Xは、不動産の賃貸及びボウリング場の経営等を目的とするF社の取締役並びに不動産の管理等を目的とするG社の代表取締役をそれぞれ務めており、これらの2社からの給与収入があった。
② Xは、自宅の屋根に7,626,560円を支払って、太陽光発電設備(以下、「a市設備」という。)を設置している。
a市設備に係る電力需給契約の契約者はX、系統連系日は平成〇年〇月〇日であり、同日以後、同契約に関する地位の移転はなく、Xはa市設備による売電(電力を電力会社に供給することをいう。以下同じ。)収入を得ていた。
a市設備は自宅の屋根に取り付けるという小規模かつ簡素なものであった。
a市設備を維持管理するために雇人も有していなかった。
③ Xが平成30年分及び令和元年分の所得税等の各確定申告において、a市設備による売電収入に係る所得を事業所得として申告した。
a市設備から生じた売電収入は、平成30年分及び令和元年分のいずれの年分においても、a市設備に係る減価償却費の額を下回る額にすぎなかった。
④ 原処分庁は、調査担当職員の実地調査に基づき、本件各年分のXの所得税等について、令和3年3月26日付で各更正処分等をした。
(2)本件の主な争点
a市設備における太陽光発電に係る業務(以下「本件業務」という。)が、所得税法27条1項に規定する「事業」に該当するか否かである。
(3)裁決要旨(主な争点については棄却)
① 所得税法27条1項に規定する「事業」とは、所得税法施行令63条1号ないし11号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行う事業(同条12号)をいい、具体的には、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務をいうところ、一定の経済的行為がこれに該当するか否かは、当該経済的行為の営利性、有償性の有無、継続性、反復性の有無のほか、自己の計算と危険による企画遂行性の有無、当該経済的行為に費やした精神的、肉体的労力の程度、人的、物的設備の有無、当該経済的行為をなす資金の調達方法、その者の職業、経歴及び社会的地位、生活状況及び当該経済的活動をすることにより相当程度の期間安定した収益を得られる可能性が存するかどうか等の諸般の事情を総合的に検討し、社会通念に照らして判断すべきものと解される。
② 本件業務が上記「事業」に該当するか否かを検討するに、、Xは、代金7,626,560円を支払ってa市設備を取得し、平成30年2月以降、a市設備の稼働により継続的に売電収入を得ていたから、本件業務には、一応の有償性、継続性、反復性及び自己の計算と危険による企画遂行性があるといえる。
しかしながら、a市設備の稼働による売電収入は、平成30年分及び令和元年分のいずれにおいても、年間○○○○円足らずであり、この金額は、a市設備の減価償却費(平成30年分は833,273円、令和元年分は734,947円)にも満たない額であり、利益が生じていないから、営利性は乏しい。また、a市設備に関し、Xが特段の精神的及び肉体的労力を費やしていた事実を認めるに足りる証拠はない。そして、a市設備は、自宅の屋根に設置された小規模な太陽光発電設備であることから、物的設備としては乏しく、人的設備というべきものの存在も認められない。
加えて、Xが本件各年分においてF社及びG社の役員を務め、年間約○○○○円の給与収入を得ていたことからすれば、Xの本業はF社及びG社の役員であり、当該給与収入により生活の資を得ていたと認められる。さらに、上記のとおり、a市設備の売電収入により利益は生じておらず、小規模で減価償却費相当額にも満たない売電収入しか得られないa市設備によって利益が生じる見込みがあるとも言い難いことからすれば、Xが本件業務によって相当程度の期間安定した収益を得られる可能性が存するとも言い難い。
以上の点を総合的に検討し、社会通念に照らして判断すると、本件業務は、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務ということができないから、所得税法27条1項に規定する「事業」に該当しない。
③ a市設備による売電収入に係る所得は、利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないから、雑所得に該当する。