概要
消費税の納税義務が免除される事業者(以下「免税事業者」といいます。)は「消費税課税事業者選択届出書」を提出していないと還付申告はできません。
免税事業者は、課税資産の譲渡等を行っても、その課税期間は消費税が課税されないことになり、また、課税仕入れに係る消費税額の控除もできません。
よって、課税売上げに係る消費税額よりも課税仕入れ等に係る消費税額が多い場合でも、還付を受けることはできません。
ですから、設備投資等により課税売上げに係る消費税額よりも課税仕入れ等に係る消費税額が多くなるような場合は、忘れずに、消費税課税事業者選択届出書を提出する必要があります。
当たり前の話ですが、課税売上げに係る消費税額よりも課税仕入れ等に係る消費税額が少なくなるような場合は、消費税の納税をすることになるので、消費税課税事業者選択届出書を提出しない方がいいです。
また、輸出業者のように経常的に消費税額が還付になる事業者等は、消費税課税事業者選択届出書を提出することによって還付を受けることができます。
提出期限
消費税課税事業者選択届出書は原則として、適用しようとする課税期間の初日の前日までに提出することが必要です。
つまり、免税事業者であっても消費税課税事業者選択届出書を提出すれば、その翌課税期間から課税事業者となることができるということになります。
課税事業者を選択しようとする課税期間が「事業を開始した日の属する課税期間」の場合には、その適用を受けようとする課税期間中にその選択届出書を提出して課税事業者となることができます。
この場合の「事業を開始した日の属する課税期間」とは、個人業者の場合には新たに事業を開始した年をいい、法人の場合にはその設立の日の属する課税期間とされています。また、一定の特別の事情がある課税期間の場合は、事業を開始した課税期間に含まれるものとされています。
なお、「消費税課税事業者選択届出書」は、当該届出書が提出された日の属する課税期間の翌課税期間(新たに事業を開始した場合には提出日の属する課税期間)から効力が生じるものであり、当該届出書には提出「期限」がありません。
したがって、課税期間の末日が土曜日、日曜日、祝日(休日)等であっても、それらの翌日に提出すべき期間が延長されることはありません(通法10②)。
消費税課税事業者選択届出書を提出した事業者は、事業を廃止した場合を除き、原則として、課税事業者となった日から2年間は免税事業者となることはできません。
「消費税課税事業者届出書」と「消費税課税事業者選択届出書」の違い
「消費税課税事業者届出書」と「消費税課税事業者選択届出書」を混同しないように注意が必要です。
「消費税課税事業者届出書」は、基準期間(や特定期間)における課税売上高が1,000万円超となったときに提出するものです。提出期限は、「事由が生じた場合速やかに」であり、「消費税課税事業者選択届出書」と違い、ラフです。
「消費税課税事業者選択届出書」は、免税事業者が課税事業者になることを選択しようとするときに提出するものです。提出期限は原則として、「選択しようとする課税期間の初日の前日まで」であるため、忘れないようにしましょう。
東京地裁平成23年3月2日判決(税資261号-40(順号11630))において、納税者は「消費税課税事業者届出書」と「消費税課税事業者選択届出書」の法的効果は同一であると主張しましたが、排斥されました。
令和3年1月18日裁決(大裁(諸)令2第34号)(棄却)
(1)事案の概要
請求人X(資本金の額100万円の法人)が、法人設立2期目に取得した中古マンションの購入価格に消費税等が含まれていたとして、その還付を求めて申告書を提出したところ、原処分庁が、Xは消費税の納税義務が免除されている事業者であるから消費税等の還付を受けることができないとして、更正処分等を行ったことに対し、Xが、マンションの購入に際しXは消費税等を支払っており、納税したのであるから消費税等の還付を受ける権利があるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
なお、Xは、2期目の初日の前日までに、消費税課税事業者選択届出書をその納税地を所轄する税務署長(原処分庁)に提出していなかった。
(2)本件の主な争点
本件の争点は、Xは、本件課税期間の消費税等につき還付を受けることができるか否かである。
(3)裁決要旨(棄却)
① 消費税法9条1項に規定する免税事業者の制度は、零細な事業者の事務処理能力や徴税コストの面を考慮して設けられたものである一方で、免税事業者は、消費税法30条1項に規定する仕入税額控除が適用されず、課税資産の譲渡等に係る消費税額よりも課税資産の仕入れに係る消費税額の方が多い場合でも税額の還付を受けることができないこととなるため、同法9条4項は、免税事業者に対して課税事業者となる途を開き、所轄税務署長に消費税課税事業者選択届出書を提出して課税を選択することによって消費税額の還付が受けられるようにしたものと解される。
② 免税事業者は、消費税法9条4項によって課税事業者として取り扱われない限り仕入税額控除が適用されないところ、同項において免税事業者が課税事業者として取り扱われるためには、要式行為として消費税課税事業者選択届出書を同項の規定の適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出する必要がある。
③ 免税事業者であるXは、課税期間の初日の前日までに消費税課税事業者選択届出書を提出していないから、Xは、課税期間において免税事業者であって課税事業者として取り扱うことはできず、消費税法30条1項に規定する仕入税額控除が適用されない。そうすると、課税資産の譲渡等に係る消費税額よりも課税仕入れに係る消費税額の方が多い場合であっても、消費税額の控除不足額が発生することはなく、Xは、控除不足額に相当する消費税等の還付を受けることはできない。
④ Xは、実際に消費税等を納税した以上、通則法74条1項の還付請求権があるというべきであり、還付を受けることができる旨主張する。しかしながら、Xは、中古マンションの購入対価(消費税等の税込価格)を支払ったにすぎない上、課税期間において免税事業者であって消費税等の還付を受けることができないのであるから、仕入税額控除の額及び消費税等の還付金に相当する税額などを記載した確定申告書を提出したからといって、消費税等が還付されるものではない。そして、通則法74条1項は、具体的な還付請求権を発生させる根拠規定ではなく、国に対し各税法の規定において具体的な還付を請求できる場合において、請求できる日から5年間行使しないことによって、請求権が時効により消滅する旨を規定するにすぎないものであるから、上記Xの主張は、その前提を欠き、採用することができない。
⑤ Xは、知識不足から、中古マンションの購入には消費税等が課されず、還付申告ができるとは考えていなかったから、消費税課税事業者選択届出書を提出しなかったにすぎない旨主張する。上記主張は、消費税課税事業者選択届出書を課税期間の初日の前日までに提出しなかったことについて、消費税法9条9項に規定する「やむを得ない事情」を主張するものと善解できるところ、同項に規定する「やむを得ない事情」とは、災害又はそれに準ずるような自己の責めに帰することのできない客観的事情をいうものと解するのが相当であって、Xが主張する事情は、租税に関する知識不足などのXの主観的事情であるというべきであるから、「やむを得ない事情」には当たらない。
⑥ 本件においては、課税期間の初日の前日までに消費税課税事業者選択届出書の提出がなかったことに加え、全証拠及び当審判所の調査の結果によっても、Xが課税期間の初日以降においても、当該届出書及び消費税法施行令20条の2第1項の特例の適用の前提となる同条3項に規定する申請書を提出し、原処分庁の承認を受けたとする事実があったとも認められないから、Xが本件課税期間において消費税法9条4項の規定の適用を受けることはできない。