概要
「相対取引」とは、証券会社等を通さずに行う株式等の取引のことをいいます。一般的に、知った仲での取引となるので、通常では、あり得ないような取引が行われる場合があります。
なお、上場株式の相対取引による適正な価額は、特段の事情のない限り、その取引日の終値によるのが相当とされています。
問題は、どういう場合が「特段の事情」なのかということですが、該当することはほぼないと思われます。つまり、上場株式を相対取引をするならば、その取引日の終値で取引するのがよいということです。
東京地裁平成27年9月9日判決(税資265号-136(順号12719))において、原告X社は、グループ法人との間で上場株式等を相対取引にて取得又は譲渡しましたが、売買単価は証券取引所の終値より約10%低額であったため、課税庁と争われました。
X及び課税庁の間で、「グループ法人間で上場株式の相対取引を行った際の1株当たりの適正な価額は、特段の事情がない限り、その取引の日の証券取引所における最終の売買の価格(終値)である」とする点に争いはなく、特段の事情(リーマン・ショックによる株式市場が数十年に一度の大きな株価の下落局面にあったなど)の存否について争われました。
裁判所は、市場はリーマン・ショックによる株価の下落傾向をも織り込んで株価を形成していたというべきであるから、Xが特段の事情として述べる内容は当該株式の適正な価額に影響を与え得るものではないなどとして、Xの主張を排斥しました。
東京地裁平成27年9月9日判決(税資265号-136(順号12719))(棄却)(確定)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 原告X社は、グループ法人との間で上場株式等を相対取引にて取得又は譲渡したところ、売買単価は証券取引所の終値より約10%低額であった。
② Y(課税庁)が上記上場株式等の相対取引に係る取引価格と終値(時価)に基づく売買価額との差額は受贈益(取得株式は時価より低額で取得されているため)又は寄附金(譲渡株式は時価より低額で譲渡されているため)の額に該当するとして、法人税の更正処分を行ったところ、X社がその取消しを求めた。
(2)本件の主な争点
(争点1)上場株式に関して、証券取引所の終値より一定程度低い価格で相対取引による取得を行った場合、当該取引価格と当該終値との差額が受贈益に当たるか否かである。
(Xの主張)
本件取得日の当時は、①株式市場が数十年に1度の大きな株価の下落局面にあり、②当日の東京証券取引所の終値に基づき価額を決めても、翌日の始値は大きく下落することが見込まれる状況にあったこと、また、③本件取得株式の売買は、Xのグループ法人であるC社における含み損を実現するために行われたものであることは、東京証券取引所における本件取得株式と同一の銘柄の株式に係る本件取得日の終値ではなく、それよりも約1割低い価額を基にして算出される本件取得株式の売買代金の額が適正な価額であることを理由付ける特段の事情である。
(争点2)上場株式に関して、証券取引所の終値より一定程度低い価格で相対取引による譲渡を行った場合、当該取引価格と当該終値との差額が寄附金に当たるか否かである。
(Xの主張)
本件譲渡株式の数が、これと同一の銘柄の株式の1日の平均的な出来高や本件譲渡日の頃の月間の出来高、また、発行済株式の総数との対比において大量であることから、本件譲渡株式を証券取引所で売りに出せば、これと同一の銘柄の株式が大暴落すること及び上場株式の第三者割当増資による新株の発行において、市場価格よりも1割低い価格が公正な価格として認められていることは、ジャスダック証券取引所における本件譲渡株式と同一の銘柄の株式に係る本件譲渡日の終値ではなく、それよりも約1割低い価格を基にして算出される本件譲渡株式の売買代金の額が適正な価額であることを理由付ける特段の事情である。
(3)判決要旨(棄却)(確定)
(争点1)
① 資産を低額譲受けした場合における収益の額法人税法22条2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で、資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする旨を定めているから、譲受けの時における適正な価額より低い対価をもってする資産の譲受けの場合も、資本等取引以外のものに係る収益として、上記の対価の額と当該資産の譲受けの時における適正な価額との差額が無償による資産の譲受けに係るものとして収益の額に該当するものと解される。
② 本件取得株式と同一の銘柄の株式は、いずれも東京証券取引所に上場されているものであったところ、このような株式の相対取引による譲受けの時における適正な価額は、特段の事情がない限り、その取引の日の最終の売買の価格(終値)にその株式の数を乗じた金額とするのが相当である。
③ Xの主張について
本件取得日の当時、リーマン・ショックの影響で、東京証券取引所における株価が下落の傾向を示していたことはうかがわれるところ、仮に、本件取得日において、その翌日以降に株価の下落が見込まれたとしても、市場はかかる傾向をも織り込んで株価を形成していたというべきであるから、株式市場が株価の下落局面にあり、東京証券取引所の終値に基づき価額を決めても、翌日の始値は大きく下落することが見込まれる状況にあったことは、本件取得株式の本件取得日における終値をもって適正な価額の基礎とすべきことに影響を与える事情ということはできず、また、Xのグループ法人であるC社における含み損を実現するために行われたものであるという事情をみても、本件取得株式の適正な価額に影響を与え得るものを何ら見いだすことができないから、特段の事情であるということはできない。
(争点2)
① 資産を低額譲渡した場合における収益の額
譲渡の時における適正な価額より低い対価をもって資産の譲渡がされた場合には、その適正な価額(上記の対価の額に、これと当該資産の適正な価額との差額を合わせたもの)が、法人税法22条2項にいう資産の譲渡に係る収益の額に当たると解される〔最高裁平成6年(行ツ)第75号同7年12月19日第二小法廷判決・民集49巻10号3121ページ参照〕。
② 資産を低額譲渡した場合における寄附金の額
法人税法37条7項及び8項の定めからすると、譲渡の時における適正な価額より低い価額をもって資産の譲渡がされた場合に、上記の対価の額と当該資産の譲渡の時における適正な価額との差額(これは収益の額にも該当する。)は、寄附金の額に該当するものと解される。
③ 本件譲渡株式と同一の銘柄の株式は、ジャスダック証券取引所に上場されているものであったところ、このような株式の相対取引による譲渡の時における適正な価額は、特段の事情がない限り、その取引の日の最終の売買の価格(終値)にその株式の数を乗じた金額とするのが相当である。
④ Xの主張について
本件譲渡株式が証券取引所で売りに出されているときに生じ得る株価の下落は、Xが自ら指摘するとおり、平均的な出来高等や発行済株式の総数との対比において大量の株式が一度に売りに出されることによるものであり、当該株式のもつ客観的な価値が下落することによるものでなく、また、日本証券業協会の「第三者割当増資の取扱いに関する指針」には、第三者割当増資の際の払込金額について、「株式の発行に係る取締役会決議の直前日の価額(括弧内省略)に0.9を乗じた額以上の価額であること。」と定められているものの、この定めを株式の適正な価額を算定するための根拠として用いることができることを基礎付ける法令上の根拠や事情は見当たらないから、特段の事情であるということはできない。