競業の禁止
「競業」とは営業上の競争行為をいいます。業務執行社員は、他の社員全員の承認を受けなければ、次のような行為をすることができません(会社法594①)。
①自己又は第三者のために、合同会社の事業の部類に属する取引をすること。
②合同会社の事業と同種の事業を目的とする会社の取締役、執行役又は業務執行社員となること。
原則は、他の社員「全員の承認」を受けなければいけないのですが、定款で定めれば「過半数の承認」などと緩和することができます。合弁事業の方法として合同会社が活用される場合には、定款で緩和するのがよいでしょう。
競業の禁止を緩和したい場合には、定款の「社員及び出資」又は「業務の執行及び会社の代表」の章の中に記載するとよいでしょう。
(競業の禁止) 第○条 業務を執行する社員は、当該社員以外の社員の過半数の承認を受けなければ、次に掲げる行為をしてはならない。 一 自己又は第三者のために当会社の事業の部類に属する取引をすること。 二 当会社の事業と同種の事業を目的とする会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となること。 |
なお、業務執行社員が違反して「①自己又は第三者のために、合同会社の事業の部類に属する取引をすること」をしたときは、その行為によって当該業務執行社員又は第三者が得た利益の額は、合同会社に生じた損害の額と推定されます(会社法594②)。
そして、その業務執行社員は合同会社に対し、損害を賠償する責任を負います(会社法596)。
また、合同会社は、違反して競業行為をした業務執行社員以外の社員の過半数の決議に基づき、訴えをもってその業務執行社員の除名や業務を執行する権利の消滅を請求することができます(会社法859二、860一)。
利益相反取引の制限
業務執行社員と合同会社との間で取引をした場合、合同会社の利益が不当に害されるおそれがあります。そのため、業務執行社員は、次のような取引については、他の社員の過半数の承認を受けなければならないことになっています(会社法595①)。
①業務執行社員が自己又は第三者のために合同会社と取引をしようとするとき(直接取引)。
業務執行社員が会社に不当に高くモノを売ることなどを避けるための制限です。
②合同会社が業務執行社員の債務を保証すること、その他社員でない者との間において合同会社と業務執行社員との利益が相反する取引をしようとするとき(間接取引)。
原則として、競業の場合、他の社員全員の承認を受けなければならないのに、利益相反取引の場合、他の社員の過半数の承認を受けなければならないと要件が緩和されている理由は、合同会社が利益相反取引の当事者であるからです。
そもそも、原則として、合同会社の業務は、業務執行社員の過半数をもって決定します(会社法591②)。利益相反取引の場合、それを、他の社員の過半数の承認まで拡大しているわけですから十分と考えられています。
なお、原則は、他の社員の「過半数の承認」を受けなければいけないのですが、定款で定めれば「全員の承認」や「3分の1以上の承認」などと強化や緩和をすることができます。
定款に記載する場合は、「社員及び出資」又は「業務の執行及び会社の代表」の章の中に記載するとよいでしょう。
[強化の例] (利益相反取引の制限) 第○条 業務を執行する社員は、次に掲げる場合には、当該取引について当該社員以外の社員の全員の承認を受けなければならない。 一 業務を執行する社員が自己又は第三者のために当会社と取引をしようとするとき。 二 当会社が業務を執行する社員の債務を保証することその他社員でない者との間において当会社と当該社員との利益が相反する取引をしようとするとき。 |
[緩和の例] (利益相反取引の制限) 第○条 業務を執行する社員は、次に掲げる場合には、当該取引について当該社員以外の社員の3分の1以上の承認を受けなければならない。 一 業務を執行する社員が自己又は第三者のために当会社と取引をしようとするとき。 二 当会社が業務を執行する社員の債務を保証することその他社員でない者との間において当会社と当該社員との利益が相反する取引をしようとするとき。 |
なお、代表社員1名の場合の合同会社の場合は、以下のように記載する場合も考えられるでしょう。
(利益相反取引の制限) 第〇条 業務執行社員が会社法第595条第1項の取引をする場合は、代表社員の承認を受けなければならない。 2 代表社員が会社法第595条第1項の取引の当事者である場合は、同法同項の承認があったものとみなす。 |
承認を受けた利益相反取引には、民法108条の規定が適用されないため(会社法595②)、業務執行社員自身が合同会社を代理代表して利益相反取引を行うことが認められます。
なお、業務執行社員が違反して利益相反取引をしたときは、合同会社に対し、損害を賠償する責任を負います(会社法596)。
競業の禁止の違反と違い、除名や業務を執行する権利の消滅を請求することができる明確な規定はありません(会社法859二、860一)。
ただし、業務を執行するに当たって不正の行為(会社法859三、860一)に該当する場合は、除名や業務を執行する権利の消滅を請求することができると考えられています。
また、正当な事由がある場合に該当すれば、他の社員の一致によって解任することができます(会社法591⑤)。
会社法
合同会社
(競業の禁止)
第594条 業務を執行する社員は、当該社員以外の社員の全員の承認を受けなければ、次に掲げる行為をしてはならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
一 自己又は第三者のために持分会社の事業の部類に属する取引をすること。
二 持分会社の事業と同種の事業を目的とする会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となること。
2 業務を執行する社員が前項の規定に違反して同項第一号に掲げる行為をしたときは、当該行為によって当該業務を執行する社員又は第三者が得た利益の額は、持分会社に生じた損害の額と推定する。
(利益相反取引の制限)
第595条 業務を執行する社員は、次に掲げる場合には、当該取引について当該社員以外の社員の過半数の承認を受けなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
一 業務を執行する社員が自己又は第三者のために持分会社と取引をしようとするとき。
二 持分会社が業務を執行する社員の債務を保証することその他社員でない者との間において持分会社と当該社員との利益が相反する取引をしようとするとき。
2 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項各号の取引については、適用しない。
(業務を執行する社員の持分会社に対する損害賠償責任)
第596条 業務を執行する社員は、その任務を怠ったときは、持分会社に対し、連帯して、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
株式会社
(競業及び利益相反取引の制限)
第356条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
2 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号又は第三号の取引については、適用しない。