概要
遺贈により財産を取得する者は、個人(自然人)に限らないため、普通法人、公益法人等、人格のない社団等が遺贈により財産を取得する場合があります。
普通法人に遺贈した場合
普通法人に対する課税
普通法人(法法2九)が遺贈を受けた場合には、その遺贈に係る受贈益が法人税の課税対象となります(法法22②)。法人税の課税対象となりますので、相続税の課税対象とはなりません(相法1の3、66)。
遺贈の時の財産の時価が受贈益となります。
同族会社の株主に対する課税
同族会社(法法2十)に財産が遺贈されると、通常はその会社の純資産の額が増加することとなりますので、それに伴い当該会社の株式の価額も増加することとなります。
当該会社の株主は、自身が直接に遺贈を受けていなくとも、その遺贈があった時に、当該株式の価額のうち増加した部分に相当する金額を遺贈により取得したものとみなされて相続税の課税対象とされる場合があることになります(相法9、相基通9-2)。
遺贈者(被相続人)に対する課税
遺贈者が土地、建物、株式などの譲渡所得の基因となる財産を法人に対し遺贈した場合には、当該財産は遺贈の時における時価により譲渡があったものとみなされ、財産の取得時から遺贈時までの値上がり益に対して遺贈者に譲渡所得が課税されます(所法59①一)。
国税通則法5条は、相続(包括遺贈を含みます。)があつた場合には、相続人(包括受遺者を含みます。)は、その被相続人(包括遺贈者を含みます。)が納付等すべき国税を納める義務を承継する旨規定しています。
よって、受遺者である普通法人が、包括遺贈を受けた場合には、包括受遺者として遺贈者に係る確定申告書の提出義務者となります(所法124①、125①)。また、包括受遺者として遺贈者に課されるべき、又はその遺贈者が納付すべき国税を納める義務を承継することになります(通法5①②)。
国税通則法5条の規定には、相続人に相続すべき相続財産が無い場合の定めはありません。したがって、包括受遺者である法人とともに、相続人は被相続人の納税義務を承継し(相続財産がなく承継する税額が零の場合であっても)、これらの者で、遺贈者(被相続人)の準確定申告書を提出することを要します。
他方、普通法人が特定遺贈を受けたにすぎない場合には、特定受遺者は所得税法上、「相続人」に含まれない(所法2②)ため、遺贈者に係る確定申告書の提出義務者となることはありません。また、特定受遺者は国税通則法5条において、「相続人」に含まれないため、遺贈者に係る国税の納付義務を承継することはありません。
公益法人等に遺贈した場合
公益法人等に対する課税
公益法人等(法法2六)は、普通法人とは異なり、各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得については法人税を課さない旨規定されています(法法7)。
公益法人等が遺贈により取得した受贈益は、法人税法が掲記する収益事業(法法2十三、法令5等)から生じた所得に通常は該当しないことから、法人税の課税対象とはなりません。
また、相続税についても、公益法人等は、原則として納税義務者となりません(相法1の3、66①)。
ただし、公益法人等に遺贈があった場合で、相続税法66条4項の要件を満たす一定の場合には、公益法人等が相続税の納税義務者となる場合があります。
同項は、「持分の定めのない法人」に対し財産の遺贈があった場合において、遺贈者の親族その他遺贈者と特別の関係がある者の相続税の負担が不当に減少する結果となると認められるときは、その「持分の定めのない法人」を個人とみなして、相続税を課税する旨規定しています。
ここでいう「持分の定めのない法人」の主なものとしては、一般社団法人、一般財団法人、持分の定めのない医療法人、社会福祉法人、学校法人、宗教法人等があるとされますが、公益法人等(法法2六、別表第二)も、原則として「持分の定めのない法人」に該当すると考えられています。
なお、公益法人等に法人税等が課される場合には、その法人税等の税額に相当する額は、相続税から控除することになります(相法66⑤、相令33①)。
遺贈者(被相続人)に対する課税
公益法人等に対する遺贈の対象となる財産のうちに譲渡所得の基因となる財産がある場合における、遺贈者に対する課税関係は、普通法人の場合と基本的には同様となります。
ただし、当該財産を租税特別措置法40条(国等に対して財産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税)に規定する公益法人等に対し遺贈(寄附)した場合は、その遺贈が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するなど、同条の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、その譲渡所得について非課税となります(措法40①)。
人格のない社団等に遺贈した場合
人格のない社団等に対する課税
人格のない社団等(法法2八)に対し財産の遺贈があった場合には、当該社団等を個人とみなして、相続税を課する旨規定されています(相法66①、1の3)。
人格のない社団等が遺贈により取得した受贈益は、通常、収益事業から生じた所得に該当しないから、法人税の課税関係は生じません(法法7)。
なお、人格のない社団等に法人税等が課される場合には、その法人税等の税額に相当する額は、相続税から控除することとされています(相法66⑤、相令33①)。
遺贈者(被相続人)に対する課税
人格のない社団等に対する遺贈の対象となる財産のうちに譲渡所得の基因となる財産がある場合における、遺贈者に対する課税関係は、普通法人の場合と基本的には同様となります。
人格のない社団等は、文字どおり法人ではないものの、所得税法4条(人格のない社団等に対するこの法律の適用)において法人とみなすこととされているため、この点では法人と別異に課税関係を考える必要はないからです。