不動産管理会社の税務裁判例・裁決例の多くは、不動産管理料の金額が適正か否かで争われています。全くの第三者の市中の不動産管理会社に管理を委託した場合の管理料(適正賃貸料)と比べて、同族会社である不動産管理会社に支払う管理料が著しく高いため争われるというわけです。

 所得税法157条の同族会社の行為又は計算の否認に関する公表裁決15例(国税不服審判所HP令和3年6月10日現在)のうち、半分以上が不動産管理料に関する裁決となっており、同族会社である不動産管理会社について課税庁と激しく争われていることがわかります(ほとんど、納税者側の負けです)。

 なお、個人が受け取っている実質賃料が過少であるとして、同族会社の行為計算否認規定(所法157)に基づき個人所得税の更正処分を受ける場合であっても、同族会社の法人税には影響を及ぼさず、また、個人が受ける給与所得にも影響を及ぼしません(福岡地裁平成4年5月14日判決・税資189号513頁、福岡高裁平成5年2月10日判決・税資194号314頁、最高裁第三小法廷平成6年6月21日判決・税資201号525頁)。

 上記のように、同族会社の行為計算否認規定により、不動産管理会社が受け取っていた管理料が高すぎるとして否認される(例えば30%としていたが、適正値は6%とされる)という例が多いですが、中には、同族会社の行為計算否認規定を適用せず、そもそも、不動産管理会社は管理行為を行っていないとして、所得税法37条(必要経費)の規定により、不動産管理料全額の必要経費算入が認めらなかった令和元年5月23日裁決(名裁(所)平30第36号)のような事例もあります。

 よって、不動産管理会社は、形式ではなく、実質的に不動産管理業務をしていることが最低条件となります。そうしないと、経費全額が否認されてしまうので注意をしてください。

福岡地裁平成4年5月14日判決要旨

事案の概要

 個人Xは、所有する不動産を自身が出資し、代表取締役である同族会社Y社に賃貸し、Y社はXに賃料を、Xとその妻に役員報酬を支払いつつ、不動産を第三者に転貸していたところ、課税庁より、所得税法157条に規定する「同族会社の行為計算」に当たるとして否認され更正処分等を受けました。

 それに対し、Xは、所得税法157条を適用するに当たつては、XがY社から受けている給与所得を減額するなどの操作をしてこれを斟酌をする必要があると以下のように主張しました。

「本件各更正のとおりにY社が適正賃貸料をXに支払うとするならば、Y社にはXに対する役員報酬を支払うだけの収入を捻出できなくなるし、右役員報酬も実質は本件物件の管理事務に対する対価であり、不動産所得にほかならないから、同法条を適用する場合には、Xの給与所得を減額したり、無償とするなどしてこれを考慮すべきである。しかるに、適正賃貸料によつてすれば得られるはずのない役員報酬をそのままXの給与所得として維持したまま、他方で前記法条を適用する処分はXに対し不当な二重課税をするもので、税の公平な負担の趣旨に反する。」

判決要旨

① Xの役員報酬は、その原資いかんにかかわらず、Y社に対する代表取締役としての役務の提供の対価として支給される給与所得であつて、所得税法157条が適用されるXの不動産所得とは所得の発生根拠を異にする別個のものであるから、同条の適用に当たり、Xの取得した役員報酬(給与所得)を考慮する必要がないことは当然である。

 また、同条の適用による同族会社の行為計算が否認されるのは、課税の計算上のみのことであつて、同法人として実在する行為又は計算の成否・当否に何らの影響を及ぼすものではなく、したがつて、課税の計算上も否認された以外の行為又は計算に考慮を払う必要はない。このことは、Xが主張するように、同条の適用によつて計算上Y社の所得がXらに対する役員報酬を支払うに足りなくなつた場合でもかわりはない。

② Xは、Xの右給与所得を考慮しないと本件処分によつて二重課税ともいうべき不当に高額の課税負担を受けることになると批判する。しかし、同条適用によつて生じる右のような結果は、同条が同族会社の組織・運営を利用した租税負担回避のための恣意的な行為又は計算を防止・是正する趣旨のものであり、これによつて生じる警告的・予防的機能を考慮することなくとられた行為・計算に起因するものであることからしても不当な結果とは思われない。