概要

 従業員を慰安するために、法人として飲食代を支出する場合があるでしょう。代表例としては、忘年会や新年会などがこれに該当すると思います。

 通常、従業員に対する経済的利益の供与は給与又は交際費等に該当することになりますが、専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用は交際費等から除かれ、福利厚生費に該当します(措法61の4 ⑥一)。

 また、社内の行事に際して支出される金額等で創立記念日、国民祝日、新社屋落成式等に際し従業員等におおむね一律に社内において供与される通常の飲食に要する費用は交際費等に含まれないものとされています(措通61の4(1)-10(1))。

 よって、従業員の慰安のため相当なものとして通常一般的とされる範囲内の行為で行われ、かつ、従業員に対して一律に供与する飲食費である忘年会や新年会なども、福利厚生費として処理しても問題ないとされています。

 福利厚生費は、企業に所属する従業員の労働力の確保とその向上を図るために支出されるものと考えられます。よって、特定の者に対してだけ支出されたり、従業員各人によつてその支出の内容が異なり、仮にある従業員に対する支出が社会通念上、福利厚生費として多額なものである場合には、その超過部分は実質的には従業員に対する給与に該当すると考えられます。

 つまり、社員が全員参加できるものである場合が福利厚生費となるということなります。ただし、結果的に、業務の都合等で参加できなかった従業員がいたとしても、その場合は問題はないと考えられます。

 また、大きい会社の場合、社員が全員参加の忘年会を開催するという事は現実的ではないため、例えば、支店等グループ単位ごとに開催することが考えられます。その場合、グループ単位ごとに開催される忘年会等にかかる会社負担の金額にあまり差がなければ問題にならないと思われます。

 ただし、従業員の一部ではなく従業員全体を対象とした場合でも、世間一般的に行われる範囲のものを超えた場合は交際費課税等の問題が生じます。問題は、世間一般的に行われる範囲のものを超えた場合とはいくらなのかですが、1人当たり5,000円以下であれば否認はされないのではと思います。

東京地裁昭和55年4月21日判決(行裁集31巻5号1087頁)要旨(棄却)(確定)

(1)事案の概要

 法人が従業員等の慰安のために忘年会等の費用を負担したが、それが社員の福利厚生のために相当であるとして通常一般的に行われている程度を超えるとされ、その費用は交際費等に該当するとされた。

(2)判決要旨

 一定限度を超える交際費等の損金算入を否認する趣旨が法人の濫費抑制の点にあることを考慮すれば、法人が従業員等の慰安のために忘年会等の費用を負担した場合、それが法人が社員の福利厚生のため費用全額を負担するのが相当であるものとして通常一般的に行なわれている程度のものである限りその費用は交際費等に該当しないが、その程度を超えている場合にはその費用は交際費等に該当すると解するのが相当である。そして、忘年会等が右のような意味で通常一般的に行なわれている程度のものか否かは個々の忘年会等の具体的態様、すなわち開催された場所、出席者一人あたりの費用、飲食の内容等を総合して判断すべきであつて、社外で行なわれたか否かということだけで判断すべきではない。

 また、法人が役員或いは従業員に対して食事代を負担した場合に、通常の食事に要した費用は右役員等に対する給与等としてその損金算入が認められる場合もあるが、通常の食事の程度を超えるものに要した費用は役員等に対する慰安のための費用として交際費等に該当すると解するのが相当であり、法人が残業手当を支給することなく残業或いは休日出勤の際の食事代を負担している場合にも右と異なる解釈をする必要はない。そして、通常の食事か否かは個々の食事の具体的態様、すなわち食事の場所、1人あたりの費用、飲酒の有無及び飲酒代が食事代に占める割合等を総合して判断すべきであつて、飲酒も重要な目的であると認められる場合や全体の費用のうちの相当部分が飲酒に関するもので占められているような場合には通常の食事とはいえないが、飲酒を伴なうものがすべて右の意味での通常の食事に当たらないと解するのは相当でない。

 番号(1)は銀座アスターで行なわれた忘念会の費用、(2)はサロン・タカナワで行なわれた右忘年会2次会の費用であつて、昭和47年12月当時原告から給与の支払いを受けていた者の人数は代表取締役K外10名であつたから右忘年会には右の人数程度の者が出席したものと推認され、また2次会出席者は10名であつたと認められるから、1人あたりの費用は合計約9,000円余となる。右認定の事実によれば、法人が福利厚生費としてこのような忘年会2次会の費用を負担すること自体不相当というべきであるのみならず、その点は仮に措くとしても、右忘年会及び2次会の費用は一般に福利厚生費として認められる範囲を超えていると解するのが相当であるから、番号(1)及び(2)は交際費等に該当するというべきである。

 番号(3)はホテル・ニユーオータニで行なわれた御用納めの会の費用であつて、右会に出席した人数は12名程度であつて、出席者1人あたりの費用は約2,400円余となること及び食事に要した費用が2万1,600円、飲酒に要した費用が8,026円であることが認められる。右認定の事実によれば、右御用納めの会に要した費用は一般に福利厚生費として認められる範囲を越えていると解するのが相当であるから、番号(3)は交際費等に該当するというべきである。

東京地裁昭和57年8月31日判決(行裁集33巻8号1771頁)要旨(棄却)(確定)

(1)事案の概要

 会社創立30周年記念祝賀会が、専ら従業員の慰安のためのものとはいえず、社会通念上一般的に行われていると認められる行事の程度を超えているとされ、その費用は福利厚生費ではなく交際費等に該当するとされた。

(2)判決要旨

 措置法62条は、「もつぱら従業員の慰安のために行なわれる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」については、損金不算入の取扱いを受ける交際費等から除外することとしている。措置法62条が4項の括弧書で右費用を交際費等から除外しているのは、従業員も「事業に関係のある者等」に含まれ、その慰安行事のため支出する費用が本来は交際費等に該当することを前提としながら右費用が通常要する費用の範囲を超えない限りは従業員の福利厚生費として法人において負但するのが相当であり、その全額につき損金算入を認めても法人の社会的冗費抑制等の目的に反しないとして、これを交際費等から除外することにしたものと解される。したがつて、交際費等から除外されるためには、もつぱら従業員の慰安のための行事の費用であると同時に、当該行事が法人が費用を負担して行う福利厚生事業として社会通念上一般的に行われていると認められるものであることを要すると解するのが相当であり、たとえ従業員の慰安のための行事であつても、通常一般的に行われている程度を超えるときは、その費用は通常要する費用の範囲を超えるものとして交際費等に該当するものと解すべきである。そうして、当該行事が右の通常一般的に行われる範囲内のものであるか否かは、当該行事の規模、開催場所、参加者の構成及び1人当たりの費用額、飲食の内容等を総合して判断すべきである。

 本件支出が措置法62条4項括弧書に該当するかを検討するに、本件祝賀会の参加者627名の中には下請業者60名が含まれており、本件祝賀会がもつぱら従業員の慰安のためのものであるとはいえない。また、本件祝賀会は10年に1度催される創立記念行事の一部であるとはいえ、会社外の一流の宴会場においてプロの楽団や芸能人等を招いて行われたもので、そのための費用である本件支出は、総額590万3835円に上り、従業員及び下請業者一人当たりの平均額で12,642円であつて、わずか3時間前後の短時間に行われた行事の費用としては相当に高額であり、これらの諸点を総合すれば、本件祝賀会は、法人が費用を負担して行う福利厚生事業として社会通念上一般的に行われていると認められる行事の程度を超えているものといわざるを得ない。したがつて、本件支出は、もつぱら従業員の慰安のためのものではなく、また通常要する費用の範囲を超える点において、措置法62条4項括弧書の費用に該当せず、交際費等に該当するものというべきである。