概要
法人保有の有価証券は、通常、原価法または時価法により評価します。ただし、次に掲げる一定の事実が生じた場合には、法人税法上、評価損の損金算入が認められます(法令68①二)。
(1) 市場有価証券等(取引所売買有価証券、店頭売買有価証券、取扱有価証券、その他価格公表有価証券等(いずれも企業支配株式に該当するものを除きます。)、法令119の13①一~四)の価額が著しく低下した場合
(2) (1)に規定する有価証券以外の有価証券については、その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下した場合
(3) (2)に準ずる特別の事実が生じた場合
上記の(1)~(3)に該当し、価額が著しく低下し、帳簿価額を下回ることとなった場合で、法人が評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、帳簿価額とその価額との差額までの金額を限度として評価損の損金算入が認められるということになります。
ただし、企業会計上、有価証券の減損処理が認められても、法人税法上、認められない場合があるので注意が必要です。
市場有価証券等の著しい価額の低下の判定
「市場有価証券等の価額が著しく低下したこと」とは、その有価証券の事業年度終了の時における価額(取引所等の公表する最終価格)がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないこととされています(法基通9-1-7)。
なお、売買目的有価証券とせずに「その他有価証券」としていた場合には、50%相当額を下回るかどうかの判定に当たっては、その有価証券の事業年度終了の日以前1月間の市場価格の平均額によることも差し支えないとされています(法基通9-1-7注1)。
株価の回復可能性の判断基準
50%相当額を下回るかどうかの判定は、さほど難しいことではないでしょうが、問題は、株価の回復可能性の判断です。これについては、非常に難しい問題があります。
なお、株価の回復可能性の判断について、その判断当時に定められていた合理的な基準あるいは根拠に基づいて、申告する法人が第一次的に行う必要があります(東京地裁平成26年4月25日判決・税資264号-83(順号12464))。
上場有価証券の評価損に関するQ&A(国税庁平成21年4月)のQ1の解説では、以下のように説明されています(もっともこれをみても判断は難しいでしょう)。
「評価損の損金算入が認められるためには、株価の回復可能性に関する検証を行う必要がありますが、どのような状況であれば、『近い将来回復が見込まれない』と言えるかが問題となります。株価の回復可能性の判断のための画一的な基準を設けることは困難ですが、法人の側から、過去の市場価格の推移や市場環境の動向、発行法人の業況等を総合的に勘案した合理的な判断基準が示される限りにおいては、税務上その基準は尊重されることとなります。
有価証券の評価損の損金算入時期としては、これらの合理的な判断がなされる事業年度で損金算入が認められることとなりますので、必ずしも、株価が過去2年間にわたり帳簿価額の 50%程度以上下落した状況でなければ損金算入が認められないということではありません。」
「なお、法人が独自にこの株価の回復可能性に係る合理的な判断を行うことは困難な場合もあると考えられます。このため、発行法人に係る将来動向や株価の見通しについて、専門性を有する客観的な第三者の見解があれば、これを合理的な判断の根拠のひとつとすることも考えられます。
具体的には、専門性を有する第三者である証券アナリストなどによる個別銘柄別・業種別分析や業界動向に係る見通し、株式発行法人に関する企業情報などを用いて、当該株価が近い将来回復しないことについての根拠が提示されるのであれば、これらに基づく判断は合理的な判断であると認められるものと考えられます。」
市場有価証券等以外の有価証券の判定
有価証券の発行法人の資産状態の判定
「市場有価証券等以外の有価証券の発行法人の資産状態が著しく悪化したこと」には、次に掲げる(1)(2)の事実がこれに該当するとされています(法基通9-1-9)。
(1) その有価証券を取得して相当の期間を経過した後にその発行法人について次に掲げる事実が生じたこと(形式基準)
イ 特別清算開始の命令があったこと。
ロ 破産手続開始の決定があったこと。
ハ 再生手続開始の決定があったこと。
ニ 更生手続開始の決定があったこと。
(2) 当該事業年度終了の日における当該有価証券の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額が当該有価証券を取得した時の当該発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回ることとなったこと。
有価証券の著しい価額の低下の判定
「市場有価証券等以外の有価証券の価額が著しく低下したこと」とは、その有価証券の当該事業年度終了の時における価額(取引所等の公表する最終価格)がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないこととされています(法基通9-1-11、9-1-7)。
一旦計上した有価証券評価損を自己否認した上で申告したのは誤りであるとしてXが減額更正を求めたが認められなかった事例(東京地裁平成26年4月25日判決・税資264号-83(順号12464))
(1)事件の概要
(1) 本件は、法人税の減額更正処分を求める旨の嘆願書を提出した原告会社Xが、課税庁Yが同嘆願書に基づく減額更正処分を行わないことは、国家賠償法(以下「国賠法」という。)上、違法に損害を加えるものであると主張して、国賠法1条1項に基づき、還付金額に相当する金額及び遅延損害金の賠償を求めた事件である。
(2) Xは、眼鏡の小売業を営む法人グループの持株会社であり、証券取引所に上場している。
(3) Xは、平成17年4月1日から同20年3月31日までの各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)において、その保有する非上場株式(子会社株式3社分及び投資有価証券3社分)に係る有価証券評価損(以下「本件評価損」という。)を計上していたが、法人税の確定申告に当たり、本件評価損を所得金額に加算(いわゆる自己否認)した上で、Yに対し、上記各事業年度の法人税の確定申告書をいずれも法定申告期限内に提出した。
(4) Xは、平成22年12月1日、Yに対して、本件評価損は、法人税法33条2項及び同法施行令68条1項2号ロの規定により、いずれも本件各事業年度において損金の額に算入されるものであるから、本件評価損を所得金額に加算したのは誤りであるとして、本件各事業年度の法人税についての減額更正処分を求める旨の嘆願書(以下「本件嘆願書」といい、本件嘆願書による嘆願を、以下「本件嘆願」という。)を提出した。
なお、Xは、平成22年12月1日に本件嘆願書を提出した後、平成23年1月28日、同年4月20日、同月26日、同年5月10日及び同月20日に、減額更正処分を求める金額の変更をしている。
(5) Yは、本件評価損に係る各株式については、Xが本件各事業年度の各期末において「価額の回復が見込まれない」(法人税基本通達9-1-11により準用される同通達9-1-7)とも「見込まれる」とも判断せずに、保守的な考え(税務調査において指摘されるおそれ)の下で所得金額に加算したにすぎず、本件評価損を所得金額に加算したことに法令適用誤りはないとして、Xが本件嘆願により求めた減額更正処分を行わなかった。
(6) 上記を受けて、Xは平成24年3月30日、本訴を提起した。
(2)主な争点
有価証券評価損が損金算入要件を充足しているか否か
(3)判決要旨
(1) 法人税法は、資産の評価損の損金算入を原則として認めず、災害による著しい損傷により資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなる等の例外的な場合のみ、損金算入を認めている(法人税法33条1項、2項)。そうすると、同法が認める例外的な場合は、限定的に解すべきであって、資産価値の減少が災害による著しい損傷と同程度の事態でその減少状態は一時的又は回復の見込みがないとはいえない状態をいうものではなく、固定的で回復の見込みのない状態ないしはそれに準ずるような状態であることを要すると解するべきである。有価証券の「価額が著しく低下した」(法人税法施行令68条1項2号ロ)とは、有価証券の資産価値がその帳簿価額に比べ異常に減少しただけでは足りず、その減少が固定的であって近い将来回復の見込みのない状態にあることを要する。
法人税基本通達9-1-7は、「有価証券の価額が著しく低下したこと」とは、当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことをいう旨規定しているが、上記の解釈に照らし、具体的判断基準として合理性を有するものと解される。
(2) 近い将来有価証券の価額の回復が見込まれないという要件は、客観的な状況をいうものとは解されず、納税者による将来の予測であるから、納税者が恣意的に同要件を充足したと判断することで、容易に利益操作、租税回避を行うことが可能となるため、これを可及的に防止する必要がある。他方、将来の予測に関する要件であるがゆえ、いかなる場合に回復の見込みがないといえるかについての画一的な基準を客観的に設けることは困難である。納税者が合理的な判断基準を自ら定めるか(もちろん、いったん定めた判断基準を恣意的に変更することは許されない。)、合理的な判断の根拠があれば、それに基づいて回復可能性がないと判断した場合には、同要件を充足すると判断するのが合理的であると考えられる。法人税基本通達9-1-7(注2)は、これを前提とした基準であると解することができる。上記損金算入要件4を充足するためには、申告する納税者が第一次的に株価の回復可能性につき判断を行う必要があると解され、その判断は、判断当時に定められていた合理的な判断基準あるいは合理的な根拠に基づいて行うことが必要であると解される。
(3)Xは、損金算入要件4の判定において、①発行会社が債務超過の状態にある場合又は2期連続で損失を計上し、かつ、翌期もそのように予想される場合、その株価には回復可能性がないという判断基準を用いて回復可能性の有無を判断した、②発行会社が子会社の場合には、当該発行会社の将来の中期事業計画も考慮した上で、中期事業計画終了時点の純資産価額(実質価額)の下落が固定的であって、近い将来、帳簿価額の50%程度までの回復の見込みのない状態にあることが、監査法人の判断により客観的に確認できる場合には、その株価には回復可能性がないという判断基準を用いて回復可能性の有無を判断した旨主張する。
しかし、本件各事業年度の確定申告にあたってXが検討した資料を通覧しても、本件各株式の発行会社が債務超過の状態にあるか否か、2期連続で損失を計上しているか否か等につき検討したことはうかがわれない。
以上より、本件各評価損につき、損金算入要件4を充足しているとは認められないから、本件各事業年度の法人税の減額更正処分をすべき理由があるとは認められない。
※ 上記の「損金算入要件4」とは、近い将来その有価証券の価額の回復が見込まれないこと(当時の法人税法33条2項、施行令68条1項2号ロ、通達9-1-7)をいっている。