概要
土地の所有者以外の者が構築物の設置等に係る相当の費用負担をしない場合などの単に土地のみの貸付けによる所得は、契約内容にかかわらず、土地の所有者が申告しなければならないことになっています(所基通12-1)。
親名義の土地で、親が月極め駐車場として不動産所得を得ている場合、敷設されたアスファルト舗装又は車止め若しくはフェンスを子供に贈与し、地代については親子間で使用貸借契約をし、その後は、 月極め駐車場料金については子供の不動産所得とするスキームが考えられますが、否認される可能性はあります。
つまり、当該駐車場の所得は、子供ではなく親に帰属すると解され、親が子供に贈与したものとみなされる可能性があります。
不動産所得の帰属について、親子間使用貸借契約等が有効に成立したと認められるが、その駐車場の収益は、土地の所有者である親に帰属すると判示した大阪高裁令和4年7月20日判決(令和3年(行コ)64号)があります。
一審判決である大阪地裁令和3年4月22日(平成31年(行ウ)51号)では納税者勝訴となり、控訴審が注目されていましたが、結果的に国の逆転勝訴となり確定しています。
この大阪高裁判決では、「アスファルト舗装は、路盤にアスファルト混合物を敷き均して、転圧機械により所定の密度が得られるまで締固め、所定の形状に平坦に仕上げるものであり、アスファルト舗装された地面のうち、アスファルト混合物が含まれる表層及び基層部は、土地の構成部分となり、独立の所有権が成立する余地はないというべきである。」と判示しています。
では、親の土地を子が使用貸借で借り受けるが、贈与ではなく、子自身がアスファルト舗装して駐車場経営を始めた場合の駐車場の収益の帰属者は誰になるのか等比較検討するにはよい事例といえます。
大阪高裁令和4年7月20日判決(令和3年(行コ)64号)の後
上述で「当該駐車場の所得は、子供ではなく親に帰属すると解され、親が子供に贈与したものとみなされる可能性があります。」と記載していましたが、予想通り、贈与税についての争いもあり、納税者の請求は棄却されました。
令和5年6月13日裁決(大裁(諸)令4第62号)では、親子間使用貸借契約等による駐車場収益は、土地の所有者である親に帰属し、単なる名義人である子供が駐車場収益を受領したことによる財産の増加は、相続税法9条に規定する「利益を受けた」場合に該当すると判断されました。
まぁ、こういうスキームには、課税庁は徹底的にやってくるということでしょう。
不動産所得の帰属について、親子間使用貸借契約等が有効に成立したと認められるが、その駐車場の収益は、土地の所有者である親に帰属するとされた事例-大阪高裁令和4年7月20日判決(令和3年(行コ)64号)(国逆転勝訴)(確定)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 平成26年1月、X1(原告。当時82歳であったが、意思能力に特段の問題はなかった)は、所有していた各土地(以下「本件各土地」という。)を駐車場(以下「本件各駐車場」という。)として第三者に賃貸していたが、その子であるX2ら(X1の訴訟承継人であり被控訴人)との間において本件各土地を使用貸借する旨の契約(以下「本件各使用賃貸借契約」という。)をし、同契約書(以下「本件各使用賃貸借契約書」という。)を作成した。
本件各使用貸借契約書には、X1が本件各土地を平成26年2月から10年間、各年の固定資産税・都市計画税の合計額相当額を賃料としてX2らにそれぞれ賃貸する旨、X2らは本件各土地を駐車場用地として賃借する旨、さらに、X2らは、X1の承諾により本件各土地を転貸又は賃借権譲渡を行うことができる旨が記載されていた。
② さらに、本件各使用貸借契約書が作成された日と同日、X1とX2らとの間で、本件各土地の上に敷設されたアスファルト舗装又は車止め若しくはフェンス(以下「本件舗装等」という。)をX1がX2らに贈与する旨の「贈与契約書」がそれぞれ作成された(以下、上記の各贈与契約書を「本件各贈与契約書」といい、本件各贈与契約書による契約を「本件各贈与契約」という。また、本件各使用貸借契約書と本件各贈与契約書を併せて「本件各契約書」という。)。本件各贈与契約書には、贈与物件上において営む駐車場賃貸借契約については、X2らがその地位を引き継ぐこととする旨が記載されていた。
平成27年2月、X2らは、この贈与にかかる贈与税の申告を行った。
③ 平成26年1月、同年2月以後の賃貸人をX2らとするなどを記載した「土地賃貸借変更契約書」が作成された。なお、賃借人側の駐車場の賃料等の振込先もX1からX2らの名義の預金口座に変更された。
④ 本件各土地を巡る一連の取引は、X1の子から相続対策の相談を受けていた税理士法人Zが企図し、これに関連した各契約書の書式もZが作成し、それら書式にX1とX2らの署名押印がなされるという形で作成された。
⑤ X1は、平成26年分の所得税等の確定申告書について、法定申告期限内に原処分庁に提出した。X1は、上記の確定申告書の提出の際に添付した収支内訳書の「不動産所得の収入の内訳」欄において、本件各駐車場の賃貸契約期間が、いずれも平成26年1月の1か月間であるとして不動産所得に係る収入を算定していた。
⑥ 平成29年3月、所轄税務署長が、平成26年2月以後の本件各駐車場の収入がいずれもX1に帰属するとし更正処分等をしたことから、X1は、これら処分を不服として、国(被告、控訴人)に対し本訴を提起した。
⑦ 一審の大阪地裁令和3年4月22日判決(平成31年(行ウ)51号)がX1の請求を認容したため、国は、控訴した。なお、一審判決後、X1は亡くなり、X2らが訴訟承継人となった。
(2)本件の争点
平成26年2月以後のX2らの名義で賃貸された土地の賃料に係る収益は、X1に帰属するか否かである。
(3)一審判決要旨(請求認容)(控訴)
① X1は、平成26年1月まで本件各土地の賃貸人として駐車場収入を得ていたところ、同年2月以降の駐車場収入については、使用貸借契約等により、賃貸人がX2らになり、各駐車場収入はX2らに帰属するものとして確定申告をしているから、平成26年2月以降の駐車場収入がX1に帰属するか否かを検討するに当たり、使用貸借契約が成立したか否かが問題となる。
② 本件各使用貸借契約書のX1の署名・押印は真正なものであるから、民事訴訟法228条4項によれば、使用貸借契約書のX1作成部分は真正に成立したものと推定されることになる。これに対し、国は、X1が使用貸借契約書の内容を全く認識していなかったと認められるから上記推定は働かない旨主張する。
③ しかしながら、X1は、X2らからZが作成した本件各使用貸借契約書のひな型への署名・押印を求められ、その記載内容を一切確認せず、言われるがままこれに応じたと推認することはできない。かえって、本件各使用貸借契約書の署名・押印に至る経緯、使用貸借契約書の記載内容その他本件各取引の内容、X1の知識・経験・行動傾向等、各取引後の取引実態、確定申告におけるX1の行動等を総合すれば、X1が使用貸借契約書の基本的な内容を認識した上で使用貸借契約書に署名・押印した事実を優に認定することができる。
④ 本件各使用貸借契約書は真正に成立したものと認められるところ、経験則に照らせば、本件各使用貸借契約書のような処分証書が真正に成立していれば、「特段の事情」がない限り、作成者によって記載どおりの行為がされたことを認めるべきである(処分証書の法理)。
⑤ 本件各使用貸借契約は成立したと認められるところ、使用貸借契約は対価を払わないで他人の物を借りて使用収益する契約であるから(民法593条)、X2らは、平成26年2月以降、X1から、本件各土地の使用収益権を与えられたことになる。そして、X2らは、本件各土地の使用収益権に基づき、第三者との間で賃貸借契約を締結し、本件各土地の賃借人から本件各駐車場収入を得ることになる。したがって、本件において、所得税法12条の適用により、平成26年2月以降の駐車場収入の帰属がX1にあるということはできないというべきである。
(4)控訴審判決要旨(原判決中、控訴人敗訴部分取消し)(確定)
① 所得税法は、12条において、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する旨規定する(実質所得者課税の原則)。同条は、課税物件(収益)の法律上(私法上)の帰属につき、その形式と実質が相違している場合には、実質に即して帰属を判定すべきとする趣旨のものであると解される。
② 本件各土地の所有者はX1であると認められるが、平成26年2月以降、X2らが、X1から賃貸人たる地位を承継し、それぞれ賃貸人として賃借人らから賃料(駐車場の収益)を収受し、これらの収益権の根拠として、本件各使用貸借契約に基づく使用借権を主張する。
この点について、使用貸借契約が有効に成立したと認められる場合には、X2らが、本件各土地から「生ずる収益の法律上帰属するとみられる者」に当たることになるから、更にX2らが「単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合」に当たるか否かを検討すべきことになる。他方、本件各使用貸借契約が有効に成立したと認められない場合には、X2らが本件各土地の収益権を有しないことは明らかであるから、本件各駐車場の収益にかかる所得は所有者であったX1に帰属することになる。
③ アスファルト舗装は、路盤にアスファルト混合物を敷き均して、転圧機械により所定の密度が得られるまで締固め、所定の形状に平坦に仕上げるものであり、アスファルト舗装された地面のうち、アスファルト混合物が含まれる表層及び基層部は、土地の構成部分となり、独立の所有権が成立する余地はないというべきである。したがって、X1において、本件各贈与契約のうち本件各舗装部分の所有権をX2らに移転させることは原始的に不能であることは明らかであるから、本件各贈与契約のうち舗装部分等を対象とする部分はいずれも無効といわなければならない。そうすると、本件各使用貸借契約書の作成により、当事者が当初意図したところのX2らが本件各舗装部分を所有することを目的とした本件各使用貸借契約が成立したと解釈する余地はないというべきである。
しかし、使用貸借により、付合した舗装部分をも含む本件各土地上でX2らが駐車場賃貸事業を営むことは当事者双方が明確に認識していたのであるから、本件各使用貸借契約書の作成により、使用貸借契約が成立したと認定できるのであれば、その内容は本件各舗装部分を含む本件各土地を使用貸借させるものであると解するのが合理的というべきである。
④ 本件各使用貸借契約書の記載どおり、使用貸借契約は真正に成立したものと認められる。X2らは、本件各土地について、使用貸借契約に基づく収益権としての使用借権を有するから、本件駐車場から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者に当たることとなる。
⑤ 本件各取引は、X1の相続にかかる相続税対策を主たる目的として、X1の存命中は、本件各土地の所有権はあくまでもX1が保有することを前提に、本件各土地によるX1の所得を子であるX2らに形式上分散する目的で、同人らに対して使用貸借契約に基づく法定果実収取権を付与したものにすぎないものと認められる。
したがって、たとえ、本件各取引後、本件各土地の駐車場の収益がX2らの口座に振り込まれていたとしても、そのようにX1が子であるX2らに対する本件各土地の法定果実収取権の付与を継続していたこと自体が、X1が所有権者として享受すべき収益を子に自ら無償で処分している結果であると評価できるのであって、やはりその収益を支配していたのはX1というべきであるから、平成26年2月以降の駐車場の収益については、X2らは単なる名義人であって、その収益を享受せず、X1がその収益を享受する場合に当たるというべきである。
親子間使用貸借契約等による駐車場収益は、土地の所有者である親に帰属し、単なる名義人である子供が駐車場収益を受領したことによる財産の増加は、相続税法9条に規定する「利益を受けた」場合に該当するとされた事例-令和5年6月13日裁決(大裁(諸)令4第62号)(棄却)
(1)事案の概要
令和3年3月12日、原処分庁は審査請求人X2に対し、本件各駐車場収益はX1に帰属していると認められるため、本件各駐車場に係る賃貸料収入が本件振込口座に振り込まれたことによって、X2の財産が増加していることは、相続税法9条にいう対価を支払わないで利益を受けた場合に該当するとして、平成26年分から令和元年分の贈与税の更正処分等(以下「本件各更正処分等」という。)をしたことから、同年6月2日、X2は、本件各更正処分等を不服として審査請求をした。
(2)本件の争点
X2が本件各駐車場に係る賃貸料収入を受領したことによる財産の増加は、相続税法9条に規定する「利益を受けた」場合に該当するか否か(本件各駐車場収益は、X2に帰属するか否か)である。
(3)裁決要旨(棄却)
① アスファルト舗装は、路盤にアスファルト混合物を敷きならして、転圧機械により所定の密度が得られるまで締め固め、所定の形状に平坦に仕上げるものであり、アスファルト舗装された地面のうち、アスファルト混合物が含まれる表層及び基層部は、土地の構成部分となり、独立の所有権が成立する余地はないというべきである。そうすると、本件贈与契約のうち本件各舗装部分の所有権をX2に移転させることは原始的に不能であることは明らかであるから、本件贈与契約のうち本件各舗装部分を対象とする部分は無効であると解される。
② もっとも、本件各舗装部分に係る贈与契約を無効と解すべきであっても、本件使用貸借契約が有効に成立したことについて、X2と原処分庁との間に争いはない。そして、本件使用貸借契約書には、使用貸借の目的は、X2が本件各土地を駐車場用地として使用することにある旨が記載されていることからすれば、本件使用貸借契約は、土地に付合した本件各舗装部分をも含む本件各土地を使用貸借させるものであると解するのが合理的である。したがって、X2は、本件各駐車場収益が法律上帰属するとみられる者に該当すると解されることから、原処分の適法性は、本件各駐車場収益につき、X2が「単なる名義人」であって、その収益を享受せず、X1がその収益を享受する場合に当たるか否かにより判断すべきである。
③ 本件においては、既に本件各土地の所有者として、本件各土地を駐車場として賃貸することによって賃貸料収入を得ていたX1が、子であるX2に本件各土地を使用貸借し、法定果実の収取を承諾して、賃貸人たる地位をX2に承継させていることから、X2は、本件各土地からの「収益の法律上帰属するとみられる者」に該当する。もっとも、使用貸借における転貸の承諾、すなわち法定果実収取権の付与は、その無償性から、その承諾を撤回し、将来に向かって付与しないことができると考えられることからすると、そもそもX1から使用貸借に基づく法定果実収取権を付与されたことで、X2が、当然に実質的にも本件各土地からの収益を享受する者に当たると断ずることはできない。
④ 本件各取引は、X1が本件各土地の所有権の帰属を変えないまま、何らの対価も得ることなく、そこから生じる法定果実の帰属を子であるX2に移転させたものと評価できる。本件各取引がなされた経緯についてみると、本件使用貸借契約を含む本件各取引を行い、X1が従前から営んでいた賃貸料収入の蓄積によるX1名義の将来の遺産の増加を抑制することを企図するとともに、当面の所得税等の節税も企図したものであることが認められる。
⑤ 本件各取引に際して行われた本件各土地に係る管理契約の変更は、委任者及び賃料等の振込先について、X1からX2に変更したことのみであり、本件使用貸借契約による使用貸借がされたとする日(平成26年2月1日)の前後において、本件各土地の駐車場としての利用状況や、管理業者を介しての管理状況自体に特段の変更があったとも認められないことも併せて考慮すれば、本件各取引は、X1の相続に係る相続税対策を主たる目的として、X1の存命中は、本件各土地の所有権は飽くまでもX1が保有することを前提に、本件各土地によるX1の所得を子であるX2に形式上分散する目的で、X2に対して本件使用貸借契約に基づく法定果実収取権を付与したものにすぎないものと認められる。したがって、本件各駐車場収益を支配していたのはX1というべきであるから、当該収益について、X2は単なる名義人であって、その収益を享受せず、X1がその収益を享受する場合に当たるというべきである。
⑥ X1に帰属する本件各駐車場に係る賃貸料収入がX2名義の預金口座に振り込まれ、X2がこれを受領しX2の財産が増加していることは、相続税法9条に規定する「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた」場合に該当するというべきである。
東京高裁平成9年6月11日判決(税資223号1002頁)の相続税法9条に基づき課税することについての判示
相続税法9条(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合-その他の利益の享受)は、法律的には贈与によつて取得したものとはいえないが、そのような法律関係の形式とは別に、実質的にみて、贈与を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある場合に、租税回避行為を防止するため、税負担の公平の見地から、その取得した経済的利益を贈与によつて取得したものとみなして、贈与税を課税することとしたものである。