概要
居住者が日本国内に本店がある法人から受ける配当所得や株式投資信託の収益分配金を有する場合で、総合課税で確定申告した場合には、その者の算出税額(所得税法89条の税率適用による金額)から一定金額を控除することができます(所法92)。
つまり、本来納付すべき税額の計算上控除することができ、納税額が安くなり、この控除のことを配当控除といいます。
法人は得た利益(所得)を分配する前に、その利益に対して課税され、さらに、分配後に更にその利益に対し課税されています。また、その配当を貰った法人が利益(所得)を分配する場合も、同じことが行われます(一定の益金不算入制度がありますが)。つまり、同じ利益に何度も課税されることとなり、二重課税防止の観点から配当控除が設けられているのです。
なお、配当控除の対象となる配当は、以下のようなものとなります。
剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配、証券投資信託の収益の分配、金銭の分配、特定株式投資信託の収益の分配(措法9③)、一般外貨建等証券投資信託の収益の分配(措法9④)
配当控除を受けられない主なケース
● 申告分離課税を適用した上場株式等の配当等に係る配当所得(措法8の4①)。
金融所得の一体化に向け、上場株式等の譲渡益・配当に係る7%(住民税とあわせて10%)の軽減税率が平成20年末をもって廃止となり、平成21年以降15%(住民税とあわせて20%)となりました(ただし、特例措置が、平成21年及び平成22年の2年間はありました)。この際に、これでは株式投資が冷え込んでしまうということで、個人投資家の株式投資リスクを軽減するため、平成21年より、上場株式等の譲渡損失と配当との間の損益通算の仕組みが導入されたのです。
この上場株式等の譲渡損失と配当所得との間の損益通算を行うにあたっては、その課税方式の均衡化を図る必要があることから、上場株式等の配当所得について、上場株式等に係る譲渡所得等と同様に、その課税方式を申告分離課税とする制度が創設されました。こういう経緯で今まできており、申告分離課税の配当というのは、理論的にというのではなく政策的に設けられているものなので、理論的に必要な配当控除は設けられていないと思われます。
● 確定申告をしないことを選択した配当(措法8の5①)
● 外国法人から受ける配当(一定のものを除く。)。ただし、外国税額控除の適用はあります。
● 法人税がかからない主体(上場J-REIT等)からの配当
● 資本剰余金の配当のうち、みなし配当に該当しない部分
● 株式投資信託の特別分配金
● 特定公社債等の利子
● 貸株等による配当金相当額
配当控除額の計算
配当控除の金額は、配当所得の金額に一定率(配当控除率)を乗じて計算します。配当所得とは、源泉徴収される前の配当金額であり、負債利子がある場合は負債利子控除後の金額となります。
配当控除率は、課税総所得金額が1,000万円を超えるかどうかにより異なります(所法92①)。ここでいう課税総所得金額とは、配当所得、給与所得、事業所得等(退職所得・山林所得を除き、不動産譲渡所得・株式譲渡所得・先物取引雑所得などを含みます)の総額から、基礎控除などの所得控除合計額を差し引いた金額をいいます(所法89②)。
なお、株式投資信託の収益分配金は、外貨建資産や株式以外の資産への投資割合によって、配当控除の控除率が異なります。
区 分 | 配当控除額 | 配当控除率 |
---|---|---|
課税総所得金額が1,000万円以下の場合 | (配当所得の金額)×① | ①所得税 10%、住民税 2.8% |
課税総所得金額が1,000万円を超える場合 | 【配当所得の金額のうち課税総所得金額から1,000万円を差し引いた金額に達するまでの部分の金額(A)】×②+【配当所得の金額のうち(A)以外の部分の金額】×① | ①所得税 10%、住民税 2.8% ②所得税 5%、住民税 1.4% |
上場株式等の配当を総合課税で申告する場合の実質税率
●下記は、上場株式等の配当を総合課税(配当控除あり)で申告する場合の実質所得税等の税率がどのくらいかを表している表となります。例えば、申告不要の場合は15.315%の所得税等(復興特別所得税含む)の税率となります。
また、課税所得金額が695万円超900万円以下の場合、所得税の税率は23%となりますが配当控除率が10%のため差引13%となります。それに復興特別所得税率0.273%(所得税率×2.1%)を合わせると13.273%となります。よって、所得税で総合課税で(確定)申告する場合、課税所得金額が900万円以下の方ならトクするということです。
課税所得金額 | 申告不要 | 総合課税で申告 |
195万円以下 | 15.315% | 0% |
195万円超 | 15.315% | 0% |
330万円超 | 15.315% | 10.21% |
695万円超 | 15.315% | 13.273% |
900万円超 | 15.315% | 23.483% |
1,000万円超 | 15.315% | 28.588% |
1,800万円超 | 15.315% | 35.735% |
4,000万円超 | 15.315% | 40.84% |
ただし、令和6年度分(2024年度分)以後の個人住民税(令和5年分の配当所得・譲渡所得)から、所得税と住民税で異なる課税方式を選択することができなくなるため、上場株式等の配当所得について所得税で総合課税を適用した場合は、住民税においても総合課税が適用されます。よって、住民税も考慮して考える必要があるということになります。
●下記は、実質住民税の税率がどのくらいかを表している表となります。例えば、申告不要の場合は5%の住民税の税率となります。
また、課税所得金額が1,000万円以下の場合、住民税の税率は10%となりますが配当控除率が2.8%のため差引7.2%となります。課税所得金額が1,000万円超の場合、住民税の税率は10%のままですが配当控除率が2分の1となるため1.4%となり差引8.6%となります。
課税所得金額 | 申告不要 | 総合課税で申告 |
1,000万円以下 | 5% | 7.2% |
1,000万円超 | 5% | 8.6% |
●上記の所得税と住民税を合した合計税率は、以下のようになります。よって、総合課税で(確定)申告する場合、課税所得金額が695万円以下の方ならトクするということです。
課税所得金額 | 申告不要 | 総合課税で申告 |
195万円以下 | 20.315% | 7.2% |
195万円超 | 20.315% | 7.2% |
330万円超 | 20.315% | 17.41% |
695万円超 | 20.315% | 20.473% |
900万円超 | 20.315% | 30.683% |
1,000万円超 | 20.315% | 37.188% |
1,800万円超 | 20.315% | 44.335% |
4,000万円超 | 20.315% | 49.44% |
配当控除を失念した場合の更正の請求
配当控除は、住宅ローン控除等の他の税額控除と異なり、確定申告書への記載が要件とされていないため、配当控除を記載しなかった場合でも、更正の請求等による是正が可能です(所法92)。
ただし、あくまでも総合課税による配当所得として当初申告していたが、配当控除を失念した場合にはできると考えられます。つまり、当初申告で、総合課税による配当所得をしていないのであれば、救われないと考えられます。
〇国税庁HP「確定申告で申告しなかった上場株式等の利子及び配当を修正申告により申告することの可否」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/07/01.htm