概要
上場株式等の一定の譲渡により譲渡損失の金額が生じた場合には、上場株式等を譲渡した場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例の適用があるとされています(措法37の12の2)。
よって、所有している株式を公開買付けに応じ売却する場合、譲渡する段階で、その株式が上場株式等に該当するか否かで、上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例を適用することができるか否かとなります。
この場合の「上場株式等」には、金融商品取引所に上場されている株式等(措法37の11②一)、店頭売買登録銘柄株式(措令25の9②一)、店頭管理銘柄株式(措規18の10①一)などがあります。
国税庁の資料(以下)によれば、TOB件数の半数以上が、上場廃止後の株式買取りが⾏われた件数となっています。
令和2年 | 令和3年 | 令和4年 | |
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TOB件数(公開買付届出書提出ベース) | 68 | 88 | 77 |
上場廃止後の株式買取りが⾏われた件数 | 45 | 45 | 44 |
例えば、TOBの成⽴後に上場廃止となった株式をTOBによる買付者などに買い取られた場合には、上場株式の譲渡ではなく、証券会社を通さない相対取引となるため、特定口座内での損益の計算はされず、また、他の上場株式の譲渡所得との損益通算や繰越控除ができません。
本来、特定口座(源泉徴収あり)内の株式譲渡益は自動的に計算、納税されるので、納税者はあえて確定申告をする必要はありません。
ただし、特定口座(源泉徴収あり)内にあった株式であっても上場廃止後は、特定口座内での損益の計算はされないため、株式譲渡益がでるならば、納税者が自ら計算をし確定申告をする必要があります。
納税者の多くが既に源泉徴収されていると思い、申告漏れ(忘れ)が多いので注意が必要です。
なお、公開買付けに応じ売却する場合といっても、公開買付けの対象となる株式は、有価証券報告書の提出が義務付けられている会社(金取法24①)が発行する株式などですから、必ずしも、上場株式等に該当するものではありません。
令和5年6月22日付国税庁報道発表
令和5年6月22日、国税庁は「株式公開買付(TOB)成⽴後、上場廃止となった株式の買取りに係る所得税(株式等譲渡所得)の申告漏れ等について」を報道発表しました。
「株式等の譲渡の対価の支払調書」(法定調書)に基づき、上場廃止後に株式を売却した379人をサンプル的に調査した結果、半数超の199人が売却益を申告していなかったそうです。
また、申告漏れの所得総額は4億7495万円で、無申告加算税などを含む追徴税額は7258万円(申告1件当たり追徴税額は36 万円)だそうです。
調査等により申告漏れが把握された事例の中には、1億8216万円の申告漏れを指摘し、3151万円を追徴課税したケースもあったそうです。
〇https://www.nta.go.jp/topics/pdf/0023006-036.pdf
ToSTNeT取引等、市場における売却の場合
個人が、所有する株式を発行会社に対して相対取引または公開買付けにより売却した場合には、みなし配当が生じる場合があります(下記「自己株式の株式公開買付けの場合」)。
ただし、ToSTNeT取引等、市場における売却の場合には、みなし配当は生じません。
誤りやすい事例
大阪国税局資産課税課、資産課税関係誤りやすい事例(株式等譲渡所得関係 令和5年分用)より
上場株式の譲渡取引を金融商品取引所外で行った場合
(誤った取扱い)
TOB(株式公開買付け)に応じて上場株式を譲渡したが、その取引が金融商品取引所外で行われたものであることから、上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措法37の12の2)の適用はできないとした。
(正しい取扱い)
TOBに応じて上場株式等を譲渡した場合も、措法37条の12の2②一に規定する金融商品取引業者等への売委託による譲渡に該当することから、上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例の適用がある(措法37の12の2②)。
自己株式の株式公開買付けの場合
(誤った取扱い)
TOB(自己株式の株式公開買付け)に応じて上場株式を譲渡した場合の所得区分を、全額について株式等に係る譲渡所得等とした。
(正しい取扱い)
上場株式等が自己の株式の公開買付けを行う場合には、その上場株式等の株式の譲渡の対価として交付を受ける金銭の額がその上場会社等の資本金等の額のうちその交付の基因となった株式に対応する部分を超えるときにおけるその超える部分の金額については、自己の株式の取得の場合のみなし配当課税が行われる(所法25①五)。