(1)事案の概要
本件は、審査請求人X(以下「X」という。)が、相続により取得した土地(以下「本件土地」という。)を他の共有者と共に譲渡したことによる分離長期譲渡所得の金額の計算上、当該譲渡による収入金額の100分の5に相当する金額を当該土地の取得費として確定申告を行った後、当該土地の相続開始時の相続税評価額を取得費とすべきであったとして更正の請求をしたのに対し、原処分庁が、当該相続税評価額を取得費とすることは認められず、Xは当該土地の取得に要した実際の金額を証明していないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、Xが、その全部の取消しを求めた事案である。
(2)裁決要旨
① Xは、本件土地を相続により他の相続人と共に取得(共有持分6分の1)し、相続税の申告の際、相続税評価額を本件土地の財産の価額として申告し、相続税評価額に基づき相続税が課税されているのであるから、本件譲渡に係るXの分離長期譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費の額は、本件相続税評価額の6分の1の金額となる旨主張する。
② しかしながら、本件土地の共有持分6分の1は、Xが相続により取得したものであることから、その取得費については、所得税法60条1項の規定により被相続人が取得した価額等を引き継ぐこととなるのであって、相続税評価額を基に算出した価額を取得費とする旨の法令の規定は存在しない以上、Xの主張は採用することができない。
③ Xは、他に被相続人が本件土地を取得した価額等について何ら主張せず、当該価額等を明らかにする売買契約書等の書類の提出もないことから、本件土地の概算取得費が実額取得費に満たないことが証明されたとは認められない。よって、本件譲渡に係るXの分離長期譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費の額は、租税特別措置法31条の4第1項の規定に準じて計算される概算取得費とするのが相当である。
譲渡所得の計算上、相続により取得した土地の取得費は相続税評価額ではなく概算取得費とするのが相当であるとした事例-平成29年6月26日裁決(仙裁(所)平28第12号)(棄却)
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東京都のクラウド会計専門の税理士中島吉央
現在、日本税務会計学会訴訟部門委員、東京税理士会会員講師を務め、季刊「資産承継」(大蔵財務協会)にて「資産税関係の判決・裁決の最近の動向」を連載執筆しています。
得意分野は、クラウド会計、節税対策、税務調査の対応、会社設立サポート、合同会社税務、不動産管理会社税務、医療法人税務、医療・介護・福祉事業税務、中小企業税務、株式・FX・暗号資産などの証券・金融商品税務、相続税・贈与税、遺言書作成サポート、税務判決・税務裁決です。
なお、今まで10冊以上の本を執筆しています。税理士さんの本でよく見かける「自費出版」ではなく「商業出版」です。