概要
所得税の納税義務者は、原則として個人の居住者、非居住者ですが、法人も特定の所得については、所得税の納税義務者となっています。
内国法人に対して課する課税標準は、原則として、その内国法人が国内において支払を受ける利子、配当などです(所法174)。
ただし、内国法人が、利子・配当等の支払を受ける際に源泉徴収された所得税は、法人税額から控除することによって二重課税とはならないようになっています(法法68①)。
例えば、株式会社等の普通法人の利子・配当等に課される所得税(源泉徴収税)は、法人税額の算定時に所得税額控除の対象となり、法人税の前払いとして法人税額から控除されます(法法68①)。よって、利子・配当等に法人税、所得税の二重に課税されるということはないということとなります。
一方、非営利型の法人の一般社団・財団法人で収益事業以外の事業から生ずるものに対する所得税額は、所得税額控除の対象となりません(法法68②)。
源泉徴収税率
上場株式等の配当については所得税等15.315%となり、個人と違って住民税5%がかかりません。未上場株式等の配当については所得税等20.42%となります。
預貯金の利子、公社債の利子は所得税等15.315%となります。
会社における利子・配当等の仕訳・税務上の取扱い
会社における利子・配当等の仕訳・税務上の取扱いは、以下のように2つの処理があります。なお、下記の仕訳例は、計算等を簡易にするため復興税はないもの(15%)とし、法人税の税率を23.2%とします。
(1)所得税額控除の方法
(利子受取時)
現金預金 850,000円 受取利息 1,000,000円
租税公課 150,000円
(法人税額の計算)
1,000,000円 × 23.2% = 232,000円
232,000円 - 150,000円(所得税額控除) = 82,000円
この処理方法をとる場合は、所得税額150,000円を損金に算入しないように、別表4で加算します(法法40)。また、本業が赤字など所得税額が法人税額から控除しきれない場合は、還付処理となります。別表1に還付される口座情報を記載します。
(2)所得税額損金算入の方法
(利子受取時)
現金預金 850,000円 受取利息 1,000,000円
租税公課 150,000円
OR
現金預金 850,000円 受取利息 850,000円
(法人税額の計算)
850,000円 × 23.2% = 197,200円
この(2)の処理方法をとる場合は、一般的に、(1)の処理方法より法人税額が高くなります。ただし、小さい会社の場合、 利子・配当等(それに対する所得税額)の金額が少額であることが多く、法人税額に影響を与える金額が小さいため、計算等が簡易である(2)の処理方法をとることが多いです。
所得税額控除の計算
利子であれば法人で源泉徴収された所得税全額が法人税額から控除されます。ただし、利益の配当、剰余金の分配等は元本を所有した期間に対応する部分の金額だけ所得税額控除の対象となります(法令140の2)。
なお、元本の所有期間対応分の計算方法には、個別法と銘柄別簡易法の2つがありますが、継続適用は要件とされていません。
各種法人の対象課税所得と源泉徴収
法人の種類 | 課税対象 | 源泉徴収 | |
---|---|---|---|
普通法人 | 全所得 | あり | |
協同組合等 | 全所得 | あり | |
人格のない社団等 | 収益事業 | あり | |
公益法人等 | 非営利型の一般社団・財団法人 NPO法人 | 収益事業 | あり |
上記以外の公益法人等 | 収益事業 | なし | |
公共法人 | 非課税 | なし |
「普通法人」には、株式会社、合同会社、一般社団法人・一般財団法人(非営利型法人以外)、医療法人(社会医療法人・特定医療法人を除く)等があります。
「上記以外の公益法人等」には、公益社団・財団法人、宗教法人、学校法人、社会福祉法人等があります。
なお、資本金の額(出資金の額)1億円以上である一定の内国法人が、源泉徴収不適用申請書を振替機関等に提出して確認を受ければ、公社債の利子に対する源泉徴収は不適用となります(措法8③、措令3の3⑧⑨、措規4⑧)。ただし、法人税は課税されます。
源泉徴収なしの場合の届け出
宗教法人、学校法人等の場合、所得税が源泉徴収されないこととなっていますが、保有商品ごとに各種届出を証券会社・信託会社等を通じて提出する必要があります。
公社債の利子の場合は「非課税申告書」、配当の場合は「配当金非課税請求書」を提出します。
非営利型の一般社団・財団法人の源泉徴収問題
非営利型の一般社団・財団法人と、それ以外の公益法人等については、以下の同異があります。
法人税法上は、どちらも公益法人等に区分(法人税法別表第二)され、収益事業にしか法人税が課されません。
一方、所得税法上(所法11①)は、利子・配当等に対して源泉徴収されない法人(公共法人等「所得税法別表第一」)に非営利型の一般社団・財団法人は含まれていません。つまり、非課税の扱いを受けることができませんので、利子・配当等に対して源泉徴収されます。
そして、非営利型の一般社団・財団法人で収益事業以外の事業から生ずるものに対する所得税額は、所得税額控除の対象となりません(法法68②)。 一般的に、利子・配当等について収益事業とされていないため、源泉徴収されたが税額控除や還付ができない(認められない)という現状です。詳しくは、下記ページまで。
令和4年度税制改正
「一定の内国法人」が支払を受ける配当等で次の①②については、所得税を課さないこととし、その配当等に係る所得税の源泉徴収を行わないこととする。令和5年10月1日以後に支払を受けるべき配当等について適用する。
① 完全子法人株式等(株式等保有割合100%)に該当する株式等に係る配当等
② 配当等の支払に係る基準日において、当該内国法人が直接に保有する他の内国法人の株式等(当該内国法人が名義人として保有するものに限る。)の発行済株式等の総数等に占める割合が3分の1超である場合における当該他の内国法人の株式等に係る配当等
上記の「一定の内国法人」とは、内国法人のうち、一般社団法人及び一般財団法人(公益社団法人及び公益財団法人を除く。)、人格のない社団等並びに法人税法以外の法律によって公益法人等とみなされている法人以外の法人をいう。
改正理由
会計検査院「令和元年度決算検査報告の特徴的な案件」「完全子法人株式等及び関連法人株式等に係る配当等の額に対して源泉徴収を行うことにより生ずる還付金及び還付加算金並びに税務署における源泉所得税事務及び還付事務等について」
原則として全額に法人税が課されていない完全子法人株式等及び関連法人株式等に係る配当等の額に対して源泉徴収を行っていたことから、企業グループ内において納税に係る一時的な資金負担が生ずるとともに、当該配当等に対する税務署における源泉所得税事務が生じたり、源泉所得税相当額について所得税額控除が適用されることにより還付金及び還付加算金並びにこれらに係る税務署の還付事務が生じたりしている状況となっていた。このような状況は、源泉所得税が法人税の前払的性質を持つことや所得税を効率的かつ確実に徴収するなどの源泉徴収制度の趣旨に必ずしも沿ったものとはなっていないと思料される。