概要
令和4年10月7日、国税庁は「事業性」について公表しました。
ですから、サラリーマンやOLで副業をされている方で、雑所得ではなく事業所得としたい場合は、必ず、帳簿書類の作成と保存をしてください。
ただし、あくまでも大前提として、「事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。」(所得税基本通達35-2(注))必要があるので、帳簿書類の作成と保存をしても事業所得と認められない場合があります。
なお、事業所得の場合、白色申告と青色申告があり、特徴は以下の通りとなります。
白色申告 | 青色申告 | |
---|---|---|
記帳 | 簡単 | 面倒 |
税の特典 | あまりない | 各種ある |
つまり、青色申告は記帳が面倒だが、税の特典があるということになります。本業が忙しく、副業の記帳にあまり時間をかけたくない場合は、白色申告をお勧めします。
ただし、売上や利益が、それなりにある場合は、税の特典が各種ある青色申告をお勧めします。また、将来の独立を考えての副業であれば、青色申告をお勧めします。
個人事業の開業届出
帳簿書類の作成と保存する前に、事業を開始した場合には「個人事業の開業届出書」を所轄税務署に提出しましょう。
提出期限は、事業開始日から1か月以内となっていますが、下記で説明する「所得税の青色申告承認申請書」と違って、1か月過ぎて提出しても、納税者の不利益となることはありません。ですから、遅れても、提出してください。
白色申告の場合の帳簿書類の作成と保存
白色申告の場合でも、記帳制度や記録保存制度が設けられています。ただし、青色申告に比べれば、だいぶ簡単といえます。
帳簿に記帳する事項
帳簿に記帳する事項は、売上などの総収入金額と仕入その他必要経費に関する事項です。記帳に当たっては、一つ一つの取引ごとではなく、日々の合計金額のみをまとめて記載するなど、簡易な方法で記載してもよいことになっています。
具体的には、下記リンク先のような帳簿をエクセルで作成し、記帳していけば良いでしょう。わざわざ、会計ソフトを購入する必要もないかと思います(もっとも、購入するのは個人の自由ですが)。
〇帳簿の様式例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/kichou04.pdf
保存すべき帳簿と書類
下記の帳簿や書類を、一定期間、納税者の住宅地や事業所などの所在地に整理して保存する必要があります。
保存が必要なもの | 保存期間 | |
帳簿 | 収入金額や必要経費を記載した帳簿(法定帳簿) | 7年 |
業務に関して作成した上記以外の帳簿(任意帳簿) | 5年 | |
書類 | 決算に関して作成した棚卸表その他の書類 | 5年 |
業務に関して作成し、又は受領した請求書、納品書、送り状、領収書などの書類 | 5年 |
税の特典
青色申告と比べると、税の特典はあまりないですが、以下のようなものがあります。
〇事業専従者控除
事業主と生計を一にする配偶者その他の親族が、事業主の事業にその年を通じて6か月を超える期間、その事業に専ら従事した場合には、事業主は、親族1人につき最高50万円(配偶者の場合には最高86万円)を必要経費とみなして、事業所得の計算をすることができます。
青色申告の場合の帳簿書類の作成と保存
青色申告の場合、各種特典が受けられます。ただし、その代わり、青色申告の記帳は、年末に貸借対照表と損益計算書を作成することができるような正規の簿記(一般的には複式簿記をいいます。)によることが原則です。
なお、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳のような帳簿を備え付けて簡易な記帳をするだけでもよいことになっていますが、この簡易な方法を選択した場合は、青色申告特別控除(下記で説明)は最高10万円となってしまいます。
記帳
原則的に、取引が発生したら記帳します。取引が発生したとは、売上があったり、経費を支払ったり等ということです。それらが発生したら、「仕訳帳」と「総勘定元帳」に、日々、記帳します。そして、毎月、試算表を作成します。そして、年末を過ぎたら、決算処理をして貸借対照表と損益計算書を作成します。そして、申告期限(例年翌年3/15)までに確定申告書の提出と納税をします。
これら一連の作業を手でしたり、エクセルで作成するのは非常に面倒です。ですから、青色申告をする場合は、会計ソフトの利用をお勧めします。会計ソフトとしては、freee、マネーフォワード、弥生会計あたりが有名です。
会計ソフトもプランによって料金が違いますが、一般的な副業の場合は、一番安いプランで問題ないでしょう。ちなみに、freee会計の場合の一番安いプランは年間11,760円(+消費税)です。
実際に契約をする前に、体験版等を利用して、自分が使いやすいと思う会計ソフトを選択するとよいでしょう。
青色申告の手続
青色申告を始める場合は、青色申告を始めようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に新たに事業を始めた場合は、開業の日から2か月以内)に、所轄税務署に「所得税の青色申告承認申請書」を提出してください。
期限までに提出しないと、青色申告ができるのが次年分からとなってしまいます。
保存すべき帳簿と書類
下記の帳簿や書類を、一定期間、納税者の住宅地や事業所などの所在地に整理して保存する必要があります。なお、帳簿については、会計ソフトで、日々、記帳していたら自動的に作成できます。
保存が必要なもの | 保存期間 | ||
帳簿 | 仕訳帳、総勘定元帳、 現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳など | 7年 | |
書類 | 決算関係書類 | 損益計算書、貸借対照表、棚卸表など | 7年 |
現金預金取引 等関係書類 | 領収証、小切手控、預金通帳、借用証など | 7年 (前々年分所得が 300 万 円以下の方は、5年) | |
その他の書類 | 取引に関して作成し、又は受領した上記以外の書類 (請求書、見積書、契約書、納品書、送り状など) | 5年 |
保存期間は、帳簿についてはその閉鎖の日の属する年の翌年3月 15 日の翌日から 7 年間、書類については、その作成又は受領の日の属する年の翌年3月 15 日の翌日から7年間(又は5年間)となります。
主な税の特典
青色申告特別控除
事業所得を生ずべき事業を営んでいる青色申告をされている方で、正規の簿記の原則 により記帳している方については、提出期限までに確定申告書を提出等一定の要件の下で事業所得等の金額から最高55万円(e-Taxによる申告(電子申告)又は電子帳簿保存を行っている方は、最高65万円)を差し引くことができます。
なお、簡易な帳簿による記帳の場合は、最高10万円の青色申告特別控除の適用となります。
通常、会計ソフトを利用していたら、正規の簿記の原則 による記帳となるので、簡易な帳簿による記帳とはなりません。
青色事業専従者給与
事業主と生計を一にする配偶者その他の親族が、事業主の事業に従事することができると認められる期間の2分の1を超える期間、その事業に専ら従事することにより、税務署長に提出された届出書に記載された範囲内の給与の支払を受けた場合には、事業主はその給与の額のうち労務の対価として適正な金額を事業所得の必要経費に算入することができます。
なお、青色事業専従者給与額を必要経費に算入する場合には、「青色事業専従者給与に関する届出書」を、青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後開業した場合や新たに事業専従者を有することとなった場合には、その日から2か月以内)に提出する必要があります。
純損失の繰越しと繰戻し
青色申告をされている方は、事業から生じた純損失の金額を、翌年以後3年間にわたって、順次各年分の所得金額から差し引くことができます(純損失の繰越し)。
また、前年も青色申告をされている場合は、純損失の繰越しに代えて、その損失額を前年分の所得金額に繰り戻して控除し、前年分の所得税額の還付を受けることもできます(純損失の繰戻し)。