遺言書がないために、遺産をどう分けるかで、残された家族間で争いの起こることが少なくありません。今まで仲の良かった家族が、相続を境にして争いを起こすことほど、悲しいことはありません。自分が財産を築いたばかりに残された家族間で争いが起きるなら、財産を残さなかったほうが良かったかもしれません。相続争いの7割以上は、遺産が5,000万円以下のケースで起きているというデータがあります。相続税がかかるほど財産を持っていなくても、遺言書は作成しておいたほうが良いと物語っています。遺言書を作成しておけば、遺言者自らが財産を誰にあげるのかを意思表示することができ、相続争いを防止することができるのです。
なお、以下のようなことに心当たりがある人は作成しておいた方が良いでしょう。
例示
(1)自分で築きあげた財産なのだから、自分の意思で財産の配分を決めたい人
自分が生涯をかけて築きあげた財産を、遺言者自身の意思で配分することができます。
(2)子供や両親がいない夫婦で、妻に全財産を贈りたい人
法定相続となると、夫の財産は妻が4分の3、夫の兄弟が4分の1の各割合で分けることになります。ただし、夫の兄弟には遺留分がありませんから、「全財産を妻に相続させる」という遺言をしておけば財産を全部妻に残すことができます。
(3)遺言者に貢献してくれたり、世話をしてくれた人に財産をあげたい人
遺言者に貢献した相続人には「寄与分」といってプラスにもらえる貢献分があります。ただし、この「寄与分」の算定は非常に決めにくいものです。いくらが妥当であるかというのは、簡単に算出されるものではありません。また、相続人でない人がいくら貢献をしても「寄与分」はありません。ですから、貢献してもらった人に財産を確実にあげたいのであれば、あらかじめ遺言書を作成しておくべきでしょう。
(4)「相続権のない人」に財産をあげたい人
下記のような「相続権のない人」に財産をあげたい場合は、遺言書を活用すべきです。ただし、遺留分には気をつける必要があります。「相続権のない人」に財産をあげる場合には、相続人ともめるケースが多いからです。
(イ)内縁の妻
(ロ)愛人
(ハ)孫(子供が相続人となる場合)
(ニ)介護など、特に世話になった人
(ホ)子供の配偶者
(5)自営業をしていて、跡継ぎの子供に事業を継続してもらいたい人
法定相続分に応じて財産を分けようとすると、事業の経営・財産基盤を弱体化させることになります。相続を境にして、事業が衰退してしまう例はたくさんあります。ですから、遺言により後継者に配慮した遺産の配分指定を行うべきです。
(6)相続人同士の仲が悪く、自分の死後もめることを危ぐしている人
相続を境に、今まで仲が良かった相続人同士の仲が悪くなるケースはたくさんあります。ですから、相続以前の段階で相続人(推定相続人)同士の仲が悪ければ、もめることは間違いないでしょう。特に再婚をし、先妻の子と後妻がいる場合、先妻の子と後妻との間では、血のつながりがないため相続争いが起こる確率が非常に高いです。このような場合、遺言者自らが自分の残した財産の帰属を決めておけば、相続を巡る争いを防止することができます。
(7)負担付遺贈をしたい人
年老いた妻や、障害を抱えた子供がいて、自分が亡くなった後、心配な人は遺言をすべきです。
(8)相続人が誰もいない人
相続人がいない場合には、特別な事情がない限り、遺産は最終的に国庫に帰属します。ですから、財産をあげたい人がいる場合は遺言をすべきです。
(9)公益活動など、社会に役立てたい人
公共機関、社会福祉法人、寺、教会、自分が有意義と感じる各種の団体等に寄付したいなどと思われる場合には、その旨の遺言をしておく必要があります。社会への恩返しとして遺産を公益活動に活用したい場合には、遺言が必要です。
(10)相続財産が分けにくいものしかない
相続財産がマイホームや会社(の株式)など、分けにくいものしかない場合は、遺言書を活用すべきです。
(11)別居中の配偶者がいる
別居中の配偶者であっても、相続権はあります。配偶者以外の人に遺産を残したい場合は、遺言をすべきです。
遺言書を作成した方が良い人
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この記事を書いている人
東京都のクラウド会計専門の税理士中島吉央
現在、日本税務会計学会訴訟部門委員、東京税理士会会員講師を務め、季刊「資産承継」(大蔵財務協会)にて「資産税関係の判決・裁決の最近の動向」を連載執筆しています。
得意分野は、クラウド会計、節税対策、税務調査の対応、会社設立サポート、合同会社税務、不動産管理会社税務、医療法人税務、医療・介護・福祉事業税務、中小企業税務、株式・FX・暗号資産などの証券・金融商品税務、相続税・贈与税、遺言書作成サポート、税務判決・税務裁決です。
なお、今まで10冊以上の本を執筆しています。税理士さんの本でよく見かける「自費出版」ではなく「商業出版」です。