概要

 令和5年度税制改正により、「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化のための措置」が設けられました(令和7年分以後の所得税について適用)。

 税制改正が行われた背景は、高所得者層においては、所得に占める金融所得等の割合が高く、所得税負担率が低下する状況がみられるからです。

 例えば、所得税において、給与所得は総合課税により高額になるほど税率が上がる累進課税制度(最高税率45%)が適用されます。一方、上場株式の譲渡や配当はどんなにあっても分離課税による所得となるため、所得税の税率は一律15%となります(2037年までは、所得税額に復興特別所得税が上乗せされます)。

 つまり、高所得者層においては、総合課税による所得だけでなく、上場株式の譲渡や配当といった分離課税による所得があり(しかも大きな比重で)、そのことにより、所得税負担率が低下している状況だというわけです。

 よって、税負担の公平性を確保する観点から、おおむね平均的な水準として30億円を超える高い所得を対象として、最低限の負担を求める措置としてこのミニマムタックス(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置)が導入されました。

 ただし、現時点では、適用対象者は全国で200~300人程度と想定されており、多くの人には影響しない改正となっています。

適用要件

 個人でその者のその年分の基準所得金額が3億3,000万円を超えるものについては、その超える部分の金額の22.5%相当額からその年分の基準所得税額を控除した金額に相当する所得税を課することとされました(措法41の19)。

① 基準所得金額に係る所得税額
② (基準所得金額-3.3億円)×22.5%
③ ②>①の場合のみ、②-①が追加税額

「基準所得金額」は、租税特別措置等の適用判定として用いるいわゆる合計所得金額(所得税法2条1項30号の合計所得金額)と異なり、(1)損失の繰越控除を適用した後の金額で計算させること、(2)確定申告を要しない配当所得等の特例(措法8の5①)及び確定申告を要しない上場株式等の譲渡による所得の特例(源泉徴収あり特定口座内の譲渡所得、措法37の11の5①)を適用しないで計算させること、(3)土地等の特別控除の適用後の金額で計算させることとされています(措法41の19②)。

 (1)及び(3)は制度の簡素化のため申告額をそのまま計算に用いるため、(2)は最低限の負担を求めるというこの制度の潜脱を防ぐため、このようにされました。

 なお、預貯金の利子等確定申告されない「いわゆる源泉分離課税」の対象となる所得やNISA制度で非課税となる額は含めないものとされています。